滲み出る「暗さ」と「貧しさ」スタジオの雰囲気を色濃く反映した映画『ロビン・フッド』

先日テレビで「ズートピア」が地上波初放送されたとのことである。

うん、クオリティの高いディズニー作品がみんなの目に止まるきっかけになることはいいことだ。

 

この「ズートピア」企画段階では主人公をニック・ワイルドに据えて話が進んでいた。

そこにピクサーの脚本家兼監督アンドリュー・スタントンが「暗すぎる」という意見を述べてジュディが主人公の「ズートピア」に生まれ変わったというのはこのブログでも何度か話した通りです。

主人公がキツネのニック・ワイルドで進んでいた理由が、監督のバイロン・ハワードがとある過去のディズニー作品から「ズートピア」のアイデアを思いついたから。

 

その作品は「ロビン・フッド」

 

長らく動物ものをやっていなかったディズニースタジオで改めて動物擬人化のアニメーションを作りたいと思っていたバイロン・ハワードは「塔の上のラプンツェル」製作時にジョン・ラセターにて提案し、ラセターも興奮しながら受け入れたという。

オフィシャルファンクラブ『D23』のロビフッド公開45周年記念のスクリーニングイベントでトークに参加するバイロンハワード氏。

 

 

このきっかけとなった「ロビン・フッド」

知名度は高いのか低いのか、ルネサンス期の大ヒット作に比べれば圧倒的に低いだろうが、なぜか東京ディズニーランドにはキャラクターが登場しており、そこそこに人気のある作品でもあります。

今回はこの「ロビン・フッド」についてお話しします。

 

目次

 

「ロビン・フッド」 とは

「ロビン・フッド」は1973年のディズニー・アニメーション・スタジオ作品です。ナンバリングでいうと21作目、今年(2018年)は公開から45周年のアニバーサリーでもあります。日本では何も起こる気配はないが。

 

中世イングランドの伝承「ロビン・フッド」の物語を映画化したもので。リチャード王(獅子心王)が十字軍遠征を行なっていた時代に、弓矢の名人にして富めるものから盗み貧しいものに与える義賊、ロビン・フッドが、リチャード王の弟であるプリンス・ジョンの圧政から人々を救うために大活躍するという物語。

史実と脚色が入り混じった伝説がモチーフです。

 

1940年ごろからウォルトは「ロビン・フッド」の映画化に動いていましたが、主人公が大泥棒であるためにイメージの観点から製作を見送っていました。

様々なアニメーターがコンセプトアートを描き映画化のために奮闘し、ウォルトの死後ウォルフガング・ライザーマンの手によりついに映画化されます。

 

ウォルトの不在、ウォルト・ディズニー・ワールド、低予算。

「ピーター・パン」の完成以降、ウォルトの興味はテーマパークへと移り、次第に彼の口出しは少なくなっていきました。

そんな中でスタジオを支えたのがアニメーター出身の監督であるウォルフガング・ライザーマン。「眠れる森の美女」から監督に参加し「王様の剣」より、彼一人で指揮をとるようになります。ウォルトは「王様の剣」の公開を見届けた後1966年に亡くなり、彼が最後に携わった1967年の「ジャングル・ブック」は大ヒットしますが、ウォルトのアイデアが会社の原動力となっていたディズニーは混乱をきたします。

 

そんな中、1970年ウォルトの兄ロイ・O・ディズニーのビジネス手腕でしっかりとお金をかけて製作された「おしゃれキャット」は大成功します。

 

ホッとしたのもつかの間、ロイ・ディズニーの主導により1971年ディズニー社はフロリダに第2のディズニーパーク、ウォルト・ディズニー・ワールドをオープンさせます。

二つ目のテーマパークには建設にも運営にも莫大な予算と人手が投入されましたが、オープン当初は大盛況とは言えない状態でした。

しかも「おしゃれキャット」の制作に尽力したロイ・ディズニーはWDWの開業3ヶ月ほどで亡くなってしまいます。

 

そんなタイミングで作られたのが本作「ロビン・フッド」(1973年)です。

この作品は、めちゃくちゃ予算が削られていました。

なんと「おしゃれキャット」の半分以下とのことです。

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映像の使い回し

コストカットが必須だった「ロビン・フッド」では、トレースの技術が多用されました。

従来のディズニーアニメーションでは俳優がキャラクターを演じたのを動画に収め、それを元に作画を起こしリアリティを生んでいましたが、今回はそんな予算がありません。

そのため、過去の作品のアニメーションを丸ごとコピー、使い回しするという大胆な行為に踏み切ります。

特に中盤のダンスシーン「白雪姫」「ジャングル・ブック」「おしゃれキャット」からの動きの引用がはっきりとそれとわかるレベルで使われているのです。

オマージュとか、そういうレベルではなく。

 

また、ヘビの執事サー・ヒスのシーンは「ジャングル・ブック」のシーンを流用しています。

 

気になる方は「Robin Hood Recycle」などのキーワードでYouTube検索してみてください。

 

この「シーンの使い回し」はかなり批判を受けました(受けています)。

 

もっというと、「ロビン・フッド」公開のあと、次の長編作品までは4年の月日が流れました。その作品は「くまのプーさん/完全保存版」で1977年の公開。

これ実は、1974年までに公開されたプーさんの短編3作をつないで1本にしたものなのです。

 

ウォルト、ロイと立て続けにディズニーのトップがなくなった後ということで混乱もあったのでしょう。

アニメ製作もなかなか順調ではなかったようです。

 

 

そこはかとない暗さ

「ロビン・フッド」はコミカルです。

当初人間を主人公として制作が進んでいたものを、ウォルトの死後、ウォルフガング・ライザーマンが「誰もが知っている物語を新鮮に見せるためにはどうしたらいいか」と考えて「擬人化」という手法で制作する方向に持っていきます。

これが功を奏し、キャラクターたちはより生き生きと描かれ、多くの笑いが生まれました。

「首を切られちゃうよ」といいながら甲羅のなかに首を引っ込める亀のトビーのシーンなどはその主たるものです。

ヘビのサー・ヒスを"Long one"と呼んだり、足の長い鳥に変装したロビン・フッドを"Skinny leg"と呼んだり言葉遊びも秀逸です。

またその後「ズートピア」でさらに洗練されることとなる、種族間のサイズの違いを使ったシュールな笑いの演出なども描かれています。

 

が、この映画を大人になってから観るとかなり暗い印象を受けます。

 

 

こどもの誕生日プレゼントですら税金に持っていかれる。

税金が払えず繋がれて晒し者にされる住人たち。

牢屋に閉じ込められるキャラクターたち。

「弓のコンテストの優勝者にはキスが与えられる」と堂々と景品にあてがわれる女性性。

幼児退行が抜けられず狡猾ながらも知能の低い人物として描かれるプリンス・ジョン。

しかもその幼児退行の原因が「母が兄ばかりかまっていたから」という発言。

その幼児退行を露骨に笑いのネタにする住人たち。

 

 

ヴィランのプリンス・ジョンは、前述の通り。

狡猾で残忍な割には頭が悪く、幼児退行が止まらず、失敗すると「ママ!」と喚きながら指をしゃぶるという、ちょっとひどすぎるというか、ギリギリアウトな感じのキャラクターなのですが、本当にこれを悪気なく描いている感じが不気味です。

これにOKを出してしまうディズニースタジオのメンタルが心配。

不気味なんですよ「ロビン・フッド」。

明るくてゆるくてのんびり楽しいよ〜って感じのオープニングなのに。

 

邪悪すぎる世界観を、毒を抜いて描くための擬人化なのか、

擬人化してコミカルになったがためにやりすぎたのか(おそらくこっち)

それは定かではありませんが、この「白雪姫」や「眠れる森の美女」とも違う「異様な暗さ」が、当時のスタジオの雰囲気を反映しているような気すらします。

 

ちょっとエッチ

本当にギリギリだなと思うのが他にもあって、描写が異様にいやらしかったりします。

 

序盤も序盤、ロビン・フッドとリトル・ジョンが、プリンス・ジョンからお金を奪うために女装して彼に近づきます。その際のリトル・ジョンの豊満な肉体 笑

意味もなく詰め物のおっぱいをアピールしたりします。ウォルトの死後とはいえこれディズニーだぜ?

 

またマリアンの乳母のレディ・クラックという鳥の女性もやたらと豊満な肉体。

このキャラクター、どうやらストーリーボードの時には痩せた鳥で話が進んでいたみたいなのですが、実際は太った鳥になってしまいました。

映画に登場して数分後、マリアン姫が打ち返したバドミントンの羽根が胸の谷間にダイブします 笑

繰り返すけどこれディズニーだぜ?

 

ディズニーならば健全であれ!とは言わないけど、いかんせんネタが雑なのが、ちょっとね 笑

 

 

でも、おもしろい

さんざんマイナス面ばかりあげつらってきましたが、あえて言います。

でもおもしろい、と。

 

もちろんネット上には退屈だの何だの感想が溢れているし、ストーリー展開や脚本に甘さがあるのも、メッセージに光るものがないのも確かなのですが、何と言ってもそのキャラクター、特にロビン・フッドとマリアン姫がとても良い。

 

楽天家で皮肉好きながら、性根がどこまでもまっすぐで正義感の強いロビン・フッドと彼とのロマンスを夢見るマリアン。

弓の大会で囚われたロビン・フッドがマリアンを連れてプリンス・ジョンの手下たちから逃げるシーンのやり取りは、本筋はとっ散らかってるのですが、ラブコメ的なニヤニヤが止まりません。

 

エンディングのお城での戦闘と大脱走劇もかっこいい、そして笑える。

この映画は本当に全エネルギーをロビン・フッドとマリアンをいかにかっこよく、素敵に描くかに注力していると言っても過言ではないです。

 

その分他のキャラがけっこうフワフワしています。

リトル・ジョンもそんなに大活躍しないし、一応プリンス・ジョンの配下であろうレディ・クラックも露骨に反旗翻すし、プリンス・ジョンは完全な悪ながら、ノッティンガムのシェリフやサー・ヒスはどっちつかずな感じです。

まぁそのフワフワな感じも、ロビン・フッドのかっこよさを際立たせるという意味では成功しているかと思います。

映画で語り部として登場してほとんどストーリーに絡まないながら異様にかっこいいアラ・ナ・デールというイケ鳥もいます。

 

 

もしこれが人間のキャラクターで描かれた作品だったら、こんなに面白くは感じなかったかもしれません。

そう考えると、キャラクターを擬人化したのは大成功だと言えます。

 

まとめ

ロビン・フッドはいいぞ。

 

暗さも不気味さもエッチさも含めて、これがディズニー版「ロビン・フッド」の味ですよ。

暗黒期に片足を突っ込みながらも、この作品がしっかり結果を出してくれたおかげで、僕たちは今でもディズニー映画を楽しむことができるのです。

 

メッセージ性に光るものがないとは言いましたが、映画のなかには結構グッとくるセリフもあって、それがやっぱりロビン・フッドのセリフなんですよね。

 

「元気を出しなさい。今にこの町も、本当に明るくなりますよ。きっとです」

(Keep your chin up. Someday there'll be happiness again in Nottingham. You'll see.)

 

序盤でこう宣言したロビン・フッドは映画の中で実際にプリンス・ジョンを懲らしめ町の人々を解放します。

 

そしてこの映画を見た若きアニメーターがディズニーの映画監督になり「ズートピア」という作品で世界に名を轟かす大傑作を作り上げる・・・。

 

今思えば、これは混乱のさなかで苦しんでいたディズニースタッフ自身の願いが込められていたのかもしれない・・・と思うと、やっぱりこの作品も、なんだか愛おしくなるのです。

 

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