映画館に行って「観たかったものが観れた」という経験は、意外と少ないと思う。
そもそも映画とはそういうもので、予定調和にならないように制作側はいい意味で期待を裏切ろうとしてくる。
それがいい方向に転べば「観たかったものじゃなかったけど良いものが観れた」となる。だが時折、悪い意味で期待を裏切られることもある。
こと「ゲームや漫画原作の実写化」となると、悪い意味で期待を裏切られている人達の方が多いだろう。
それこそマーベルやDCコミックスの実写映画化なんてほんの一握りの成功例で、日本で言えば『ちはやふる』や『るろうに剣心』『バクマン。』『ピンポン』などの成功例はあるが、その他ほとんどは高い評価を得ることなく批判に晒されて、数年後には「そういえばそんなのあったね」程度で終わっているし、成功例であってもファンからの心無い批判にさらされることも多い。(僕個人としては『バクマン。』は原作漫画に思い入れが強かったために評価できなかった。)
それが今回は「日本の原作ゲームのハリウッド実写化」であり、その題材もなんと『ポケットモンスター』である。
「日本原作のハリウッド実写化」というと『ドラゴンボール エボリューション』そして『スーパーマリオ 魔界帝国の女神』の2大失敗作がどうしても思い浮かんでしまい、嫌な予感しかない。
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実際公開されたトレイラーもポケモンが気持ち悪いなどの意見が殺到した。
それでもリアルさと可愛さのギリギリのラインで「可愛い」に寄りそおうとしたであろうスタッフの努力が垣間見え、ついでに公開直前になって公開された実写版『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』のトレーラーが散々な評価だったために相対的に好感度が上がっていた。
そして本日、世界に先走ること1週間。日本先行で公開されたポケモン実写版『名探偵 ピカチュウ』しっかり見届けてきた。
正直に言う「観たかったものが観れた」映画であった。
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目次
中身がおっさんのピカチュウなんて・・・
「観たいものが観れた」とは言うが、いきなりつまづくポイントがある。
それはピカチュウの中身がおっさんということだ。
映画『名探偵 ピカチュウ』は「ポケットモンスター」本編ではなく、同名のゲームソフト「名探偵ピカチュウ」を原作としている。
この作品ではピカチュウが中年男性の声で人語を話し、探偵として主人公とともに謎を解いていく。
映画ではこのピカチュウの声を『デッドプール』でおなじみのカナダ人俳優ライアン・レイノルズが演じる。『デッドプール』で披露した毒舌&下ネタこそなりを潜めてはいるが、お得意のアドリブおもしろマシンガントークは健在。そしてピカチュウの表情までも彼の顔をモーションキャプチャーして作り上げているのだから、可愛いピカチュウのはずなのに細かい表情が似ている 笑
とくに思慮深げに眉を寄せる仕草なんてそっくりだ。
という風に「なぜピカチュウの中身がおっさんなの?」という衝撃は、つまりは元となったゲームがであるがために「彼はみんなが知っているピカチュウではない」ということで、主人公にとっても衝撃的な存在であるのだ。
とはいえ、最後まで見ていただければわかるように『名探偵 ピカチュウ』は誰の夢も壊さないようにできている。
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ポケモンたちと「暮らす」ということ
もしポケモンが現実世界に存在したら。
子供の頃そんな想像をしたことある人は多いと思う。
もちろんポケモントレーナーになってバトルさせて、という想像をする人も多いとは思うが、それよりも日々の生活にペットとして、パートナーとして、家族として「一緒に暮らす」ことを夢見る人の方が多いのではないだろうか。
10代でポケモンを連れひとりで世界を放浪してポケモンリーグを目指すというのも、そんな大冒険現実的ではないし(しかも負けると賞金を差し出さないといけない)、そもそもポケモンを戦わせるというのも、実際ポケモン同士を傷つけ合うのにはためらいが出てしまう気がする。ポケモンセンターでタダで回復させてもらえるからいいとかそういう話ではない。
そんな「現実世界にポケモンがいたら」という妄想と、大人になったことで生まれる現実的な解釈が合わさった世界こそが『名探偵ピカチュウ』の舞台ライムシティである。
ライムシティではポケモンはポケモンとして、人間と共存生活を送る。人間の仕事を手伝うために消防士としてだったり、交通整理だったり、カフェの店員としてだったり、TV局のサポートなども行う。モンスターボールやポケモンバトルから解放され、ペットよりも、より自由と個性をもった存在として描かれている。
戦闘描写こそあるものの、基本的にはポケモンバトルは違法であり、ポケモンたちが「戦わされる」描写は徹底して「悪」として描かれ、その他はポケモン自身の意思よる戦闘、もしくは自己防衛となっている。
そりゃあ「俺はポケモンバトルが好きなんだ!」というサトシ少年さながらの心を持ったファンにはちょっと物足りないかもしれないし、ポケモンを象徴するアイテムであるモンスターボールが劇中2回くらいしか出てこなかったのは非常に残念だが、現実的な解釈としてはこのライムシティという存在は最適解であるとも言えると思う。
何より「自由気ままにポケモンと暮らす」という光景こそが、僕が望む実写版ポケモンで観たかったものに限りなく近い。
主人公は「僕たち」
『名探偵 ピカチュウ』の主人公ティム・グッドマンは、幼い頃ポケモントレーナーを目指していた若者である。母が亡くなり、探偵となった父と疎遠になったことからポケモンに対する興味は次第に遠のき、現在は保険会社でつまらない日々を送っている。
その主人公が父の訃報を聞きライムシティを訪れ、人語を話すピカチュウと出会ったことから物語はスタートする。
この映画の主人公、ティムなる若者は、他ならぬ我々自身である。
ゲームの『ポケットモンスター』をプレイしアニメや映画を見て、「ポケモントレーナー」そして「ポケモンという存在」に憧れて成長し、大人になった我々と主人公が重なる。
前述した「もしポケモンが現実世界にいたら・・・」という妄想同様に、幼い頃にポケモンに費やした時間や思い入れが大きければ大きいほど、主人公に自分を投影して物語が楽しめるようになっている。
見知らぬ街での冒険、謎。そして出会った「初めてのパートナー」であるピカチュウ。
しかもそのピカチュウの言葉が、自分だけにはわかる。(中身はおっさんだが)
また愛くるしいピカチュウとのバディムービーでありながら、謎解きを通して同時にすれ違った父と子の絆の物語をも回収していく巧みさがこの映画には仕込まれている。
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まとめ
映画の時間は1時間44分とコンパクト。ストーリーはしっかりしているが、ポケモン世界が舞台であるためにミステリとしては解けようのない結末と、ちょっと詰め気味の情報量も気になる部分。
また、ポケモンのビジュアルはピカチュウこそ可愛いものの、ほかのポケモンたちはやはり気味悪い部分がないとは言い切れなので、子供が楽しめるかどうかはちょっとよくわからない部分もある。個人的にはCGっぽさの強いテカテカ感が気になった。
それでもトータルで考えて30代前後のポケモン世代直撃な内容とポケモンのチョイスである。ゲーム版『名探偵 ピカチュウ』だけにとどまらない、様々なポケモン作品からの引用がすばらしく、監督たちもしっかりオタクなんだろうなぁと愛を感じる作品だった。
吹き替え版はピカチュウ役に西島秀俊、ティム役に竹内涼真(なお竹内涼真は本編にも台詞なしでカメオ出演している)そのほかの声優を山寺宏一、林原めぐみ、三木眞一郎、犬山イヌコなどポケモンアニメ版声優が務めており概ね好評のようである。
また、特にエンドロールは初代ポケモン世代は必見。是非とも楽しんでもらいたい。