人生初のIMAX 3D体験は『ドクター・ストレンジ』だった。
マーベル・シネマティック・ユニバース第14作目。『アベンジャーズ』映画はすでに2作作られ、その鉄壁と思われていたチームは『シビルウォー/キャプテン・アメリカ』で崩壊する。ヴィジョン、スカーレットウィッチ、アントマン、ブラックパンサー、スパイダーマンなどの、フェーズ3以降を担う新たなるヒーローたち登場の後、続く『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー 』や『エンドゲーム』へのある種切り札となる存在として登場したのが彼、ドクター・ストレンジである。
サイケデリックで驚異的な映像美、今まで西洋中心だったMCU(『エイジ・オブ・ウルトロン』には韓国や南アフリカも登場したが)の舞台を東洋へと向け、オリエンタルな要素を取り入れた世界観・・・。
この作品の魅力は語りつくせないが、意外にもMCUのシリーズにおいては比較的評価が低い作品とも思える。
メガヒット連発で傑作揃いのMCUにおいて、クオリティが高いヒーロー単独作品が相対的に評価が下がってしまうのは仕方がない。
『ドクター・ストレンジ』地上波公開直前ということで、本作を改めて振り返りたい。
目次
あらすじ
ニューヨークに住む、神の手を持つ天才外科医ドクター・スティーブン・ストレンジは脇見運転が原因の事故により、その両手の機能を著しく損傷してしまう。
外科医としての名声に拘るストレンジは様々な治療法を試すも、有効な方法は見つからない。財産のほとんどを使い果たし、八方ふさがりとなった彼は、藁にもすがる思いで噂に聞いたネパール、カトマンズの「カマー・タージ」と呼ばれる寺院を訪れる。
ストレンジはカマー・タージで謎の女性指導者エンシェント・ワンに出会い、魔術による未知なる世界「多次元宇宙(マルチバース)」を見せつけられ、彼女に弟子入りすることとなる。
独自の記憶力、学習能力と旺盛な好奇心により魔術師としての能力を徐々に開花させていくストレンジは、次第に魔術の闇の側面とかつてカマー・タージを襲った魔術師変えシリウスの存在を知ることとなる。
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ドクター・ストレンジが切り開く新たな世界
『ドクター・ストレンジ』という作品はマーベル・シネマティック・ユニバースにおいて、「魔術」という側面から新たな世界を切り開いた。
それまでの作品にもロキ、ヴィジョンやスカーレットウィッチなどの魔法のような能力を使うキャラクターは数多く登場してきたが、ロキは宇宙のアスガルド育ち、ヴィジョンは人造人間でスカーレットウィッチ改造人間。どちらも宇宙由来の「インフィニティストーン」のひとつマインドストーンからその能力を得ている。
一方ドクター・ストレンジは生まれも育ちも地球の一般人で、彼が操る魔術の由来は「多元宇宙(マルチバース)」からである。
多元宇宙に関しては劇中多くの言及がなされるが、どうやら「現実世界とは異なる別次元の世界」というもののようで、彼ら魔術師たちは魔法陣を描くことにより現実世界より力を得て魔術を操るのだそうである。
医師という職業柄、極めて現実主義であるストレンジが、カマー・タージの指導者エンシェント・ワンと出会うことで多元宇宙という異次元を認識し、魔術を習得していく。
また『ドクター・ストレンジ』はマーベル・シネマティック・ユニバース初参戦の新入りヒーローのオリジンストーリーとなっているため、『アベンジャーズ』などセリフでの言及はあるものの基本的には他のヒーローが登場しない完全なる単独作としてもk楽しめるかなり初心者向きの作りとなっている。
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圧倒的映像美
映画『ドクター・ストレンジ』において特筆すべきところはやはり圧倒的な映像美であろう。
特に多元宇宙の描写は、それこそストレンジが劇中エンシェント・ワンに問いかけるような「LSDを盛られた」かのようなサイケデリック描写が強烈に脳裏に焼きつくとてつもないシーンとなっている。
カマー・タージが存在するカトマンズや、香港サンクタム周辺のオリエンタルな風景も魅力的だ。
これらは原作コミックスのサイケデリック表現を原点とし、『マトリックス』や『インセプション』からヒントを得たと言われる。
また原作コミックスを忠実に再現した、ドクター・ストレンジやエンシェント・ワン、カエシリウスなどの「誰がどう見ても魔法使い」なコスプレ的な風貌を見事に現実世界に溶け込ませる役者陣の演技、そしてストーリーテリングに圧倒される。それらどこか一つでも欠けていれば一気に嘘くさくなるだろう。
特にティルダ・スウィントン演じるエンシェント・ワンの実在感は異様なほどで、彼女の全能感、そして時間を超越していると信じ込んでしまいそうな美しさとその裏の奥行きは言葉では言いつくせない。
ヒーローコミックスという説得力の薄い素材をどこまで観客に信じ込ませるかという挑戦において、マーベル・シネマティック・ユニバースは本当に群を抜いている。
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説明過多なのに説明放棄
一方でイマイチな点もある。
「多元宇宙(マルチバース)」という概念は本作『ドクター・ストレンジ』で初登場した概念であり、本作ではそれらの説明に加え彼らが操る魔術、アガモットの眼(=タイムストーン)の力と危険性、エンシェント・ワンの謎、宿敵カエシリウスの存在、ミラー・ディメンション、ダーク・ディメンション、そしてドルマムゥなど、本編115分という短い時間の中で多くの事柄について解説される。これらは『アイアンマン』や『キャプテン・アメリカ』のような作品とは大きく異なる。
またそれらの説明的なシークエンスと、前述した圧倒的な映像シークエンスがそれぞれ独立した部分が多く、せっかくの視覚的な説得力をイマイチ活かしきれていない気がしてしまう。語りの部分は動きも少なく淡々と話し続けるなど、情報量の割に頭に入って来ず印象に残りづらい。
説明量が他の作品に比べて多いとはいえ、演出的な部分で、例えば宇宙から来た神のような存在を描いた『マイティ・ソー』や、量子世界を描いた『アントマン』のように説明を簡略化・ないし省略し軽快に見せることもできたのではないかと思ってしまう。
何と言っても、この作品の多元宇宙に関する会話を全て整理してみても多元宇に関しては到底理解できそうもなく、エンシェント・ワンも「理解できなくて当然」「理解する必要もない」と言ってしまうのだから、ならばもっとシンプルにさせてしまっても良いのではないかという印象を受ける。
多くの映画レビューで「映像の割に中身がない」と言われてしまうのも、こういう「長々と語った割に最終的に説明放棄」する部分にあるのではないかと思う。
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ストレンジの戦いはこれから
本作でストレンジは天才外科医から魔術師として大きく成長するが、もともと天才的な学習能力の持ち主なので、映画ではあっという間に魔術を習得してしまう。
一方で戦闘に関してはその時々の運の良さや、たまたまあった道具や設備を活用して勝利を導くパターンが多く、彼の魔術師としての力量は「アガモットの眼を使用できる」という部分以外に見いだすことが難しい。初見では「アガモットの眼」のスペックもイマイチよくわからないので、ストレンジが本当に強いのかどうか気づけないだろう。
またヴィランを強力にしすぎた結果、ある種チートな解決法で戦いを終わらせてしまう。そのやり方も「知恵を武器にした」と言えば聞こえは良いが、かっこいい戦闘を期待していた観客にはがっかりだったろう。
そんな不満を一気に解消してくれたのがジョー&アンソニー・ルッソ兄弟が監督を務めた『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』である。
『インフィニティ・ウォー』において『アベンジャーズ』シリーズに初参戦したドクター・ストレンジは、全宇宙最強の敵サノス相手に互角とも言える戦闘を繰り広げるだけではなく、魔術を活用した様々な戦い方を見せてくれる。
『ドクター・ストレンジ』での彼はまだまだ序の口でしかなく、さらに大きく成長した彼の姿を見れるのだ。本作では世界観の表現に拘った結果、ドクター・ストレンジという魅力的な素材を完全に活かしきれていなかったと言っても良い。
そして『インフィニティ・ウォー』のおかげで、今後製作されるであろう『ドクター・ストレンジ』の続編は大いにハードルが上がっている。『インフィニティ・ウォー』のルッソ兄弟のような神がかった戦闘アクションシーンを構築するのは難しいとしても、本作と同レベルのアクションではファンは納得しないだろう。
スコット・デリクソン監督はそんな我々の期待に応えてくれるのか否か、非常に楽しみである。