僕みたいな、アメコミをきちんと読んできたわけではないミレニアル世代にとって、一番親しまれたアメコミヒーローってやっぱりスパイダーマンだと思う。
ティム・バートン版『バットマン』が1989年でちょうど僕の生まれた年。
クリストファー・ノーランの『バットマン・ビギンズ』が2005年、『ダークナイト』で社会現象となるのが2012年。ジョン・ファヴロー『アイアンマン』でMCUがスタートするのが2008年だけど、MCU開始当初は日本では客入りが芳しくなかったのはよく言われている通り。
2000年に『X-men』が公開されているので、映画好き・アメコミ好きな友人たちはそれらも追いかけていたけど、社会現象となるほどにヒットした作品といえば2002年のサム・ライミ版『スパイダーマン』になってくると思う。
2002年といえばちょうど中学生くらいの頃。ライミ版『スパイダーマン』は幾度となくテレビ放送されていて、映画館で見たことがなかった僕らでもみんな知っていた。
関西在住の僕としては、2004年にユニバーサル・スタジオ・ジャパンに『アメージング・アドベンチャー・オブ・スパイダーマン・ザ・ライド』がオープンしたことにも、スパイダーマンを身近に感じるきっかけになっていたと思う。
僕らの世代にとっては、一般人でも映画好きでなくても「格好良さも生い立ちもヒーローになったきっかけも知っている」ヒーローがスパイダーマンである。
そんな『スパイダーマン』映画の最新作『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』が6月28日に世界に先駆け日本で先行公開される。
今回はその前作『スパイターマン:ホームカミング』について話そう。
目次
いびつなヒーローオリジン
ヒーロー映画のシリーズ第1作は、主人公がどうやってヒーローのなるのかを描く「オリジン映画」から始まることが多い。
前述した『バットマン・ビギンズ』や『アイアンマン』などはもちろんMCUの主要ヒーローたちはほぼオリジンが描かれたし、サム・ライミ版『スパイダーマン』もマーク・ウェブ版『アメイジング・スパイダーマン』も第1作はどのように能力を得てヒーローになるかが描かれる。
もちろん例外もあり、複数のヒーローたちが登場する『X-men』シリーズは主人公ローガンがなぜその能力を得たのかをシリーズの一つの大きな謎として描くことで個人のオリジン描写を省きつつ、様々なキャラクターたちを共演させることに成功し、主人公ひとりではないヒーローチーム『X-men』としてのスタートを描いている。
ではこの『スパイダーマン:ホームカミング』はどうかというと、そもそもMCU世界のスパイダーマンのデビュー作は『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』なのである。
メインタイトルではないクロスオーバー映画にサプライズゲスト的な出演を果たしたスパイダーマンの「どうやって能力を得たか」「なぜヒーローになったのか」は数分のシーンでさらっと説明されるのみに留まる。
過去5作に渡り『スパイダーマン』が映画で描かれてきたことを逆手に取り、繰り返しになるオリジン描写を省き、その尺を使ってすぐさまMCU世界のストーリーへと視聴者を引き込ませる作りはいびつでありながらも軽快さに溢れていて見やすい。
それでありながら主人公スパイダーマン/ピーター・パーカーが「真のヒーローとして腹を括る」という精神面でのヒーローオリジンとしての要素もうまく取り入れている。
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軽快で甘酸っぱい語り口
『スパイダーマン:ホームカミング』は全体的に「明るいヒーロー映画」が多いMCUの中でも明るめの作風である。(『ガーディアンズ〜』や『アントマン』には敵わないが)
『キャプテン・アメリカ/シビルウォー』以降アベンジャーズたちがバラバラになり、クライマックスへ向けての鈍重な雰囲気が漂い始めたMCUのなかで、『ホームカミング』が描くものはズバリ、ティーンの学園生活とヒーロー世界の中で生きる一般人・弱者たちの姿である。
それこそ『シビルウォー』で描かれる「ソコヴィア協定」の直接原因になったように、世界を守るためのヒーロー活動による、二次的な被害を直接被るのは一般市民である。
世界を守るための活動が人々の生活を脅かし、恨みや貧困から新たな悪を生んでしまう。それをよりミニマルな視点で描いたのがこの『ホームカミング』である。
MCUの映画というよりはMCUスピンオフドラマの『エージェント・オブ・シールド』的であるこの手法を、誰もが知るスパイダーマンというキャラクターに用いることにより、宇宙からの脅威だとか世界の危機以前に、彼が自称「親愛なる隣人」であることを意識づけることに成功しいるほか、彼がただ悪を罰するだけでなく「救い」を与える存在であるという、ちょっと青臭く10代らしい爽やかさを描いている。
そして「学園生活」である。
過去の『スパイダーマン』映画シリーズは役者が成熟していたためか、学園生活の描写は短いシーンにまとめられることが多かった。
『ホームカミング』ではヒーロー業に加えてピーターの学園生活がしっかりと描かれるほか、歴代映画と同じように恋愛も描かれる。
どれほど強くてイケてるヒーローであっても、その正体は誰にも知られてはいけない。(一部の人には知られているが)
学校では好きな子にまともに話しかけられないような、ウブでダサい奴なピーター。家は貧乏だし、親友はイケてるとは言い難いふとっちょのオタク。憧れの子は大きな家でパーティー、クラスメイトは親の高級車を乗り回し、パーティーでピーターをイジりながらDJ。
そんな日常生活&恋愛とヒーロー業との葛藤は、スーパーパワーを持っていない我々でもわかるほどに甘酸っぱい青春映画に仕上がっている。
そしてこの軽快な語り口と、アットホームな学園生活描写を逆手に取ったクライマックスの展開は衝撃的で、あの「驚き」は劇場で体験した時に思わず声が出そうになったくらいだ。
それがあるからこそ、その後のピーターの「ヒーローとして意思を固める」シーンが映え、その決意に震える。
ヒーローとして生きることは周囲の人間に危害が及ぶ可能性があるというのは、これまでも『スパイダーマン』映画で幾度となく言及されてきた通りで、それを言い表す劇中の有名な言葉に「大いなる力には、大いなる責任が伴う」というものがある。
『ホームカミング』はスパイダーマンのオリジンを描かず、この言葉も登場しないが、主人公ピーターの生き様を見れば、その精神が踏襲されていることは目に明らかである。
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謎が謎を呼ぶ「時系列問題」
だから、僕は『スパイダーマン:ホームカミング』が大好きだし、いい映画だと思うのだ。
もちろん『アベンジャーズ』のシリーズや『シビル・ウォー』などと比べるとスケールが格段に下がり実にミニマルで、『アベンジャーズ』シリーズに繋がる重大な伏線を期待するようなファンの中には「今このタイミングでこの話やる必要ある?」という人がいるのも事実だ。『アントマン』のシリーズや『キャプテン・マーベル』などもそういう面で槍玉に上がりがちである。
そういう面白さはわかりつつも、僕自身は単独ヒーロー映画は単独ヒーロー映画として基本的には評価したいし、それを鑑みると『ホームカミング』は十分アリな作品だと思う。
一方で物議を醸して当然、と言える部分もある。それが「時系列問題」である。
同じ世界観を共有するMCUというシリーズのうちの1作でありながら、本作は『アベンジャーズ』の8年後として劇中で記される。
8年後。『アベンジャーズ』のニューヨークの戦いは2012年の出来事として描かれているため、8年後は2020年。
一方で『ホームカミング』は『シビル・ウォー』の2ヶ月後という言及も劇中で描かれている。『シビル・ウォー』が勃発したのは2016年である。シビル・ウォーが冬が舞台だとすれば、その2ヶ月後で2017年の可能性もあるが、それを考慮しても3年近いタイムラグが存在する。
これは矛盾ではないのか?
この解釈は、マーベルスタジオ社長ケヴィン・ファイギは「間違っていない」としているが、一方で『シビル・ウォー』や『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』『アベンジャーズ/エンドゲーム』を監督したジョー・ルッソ監督は間違いだと発言しているとのことである。
ただし、現在公開中の『エンドゲーム』の出来事や、最新作『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』で起きるであろう出来事を鑑みると、もしかすると超ミラクルが起きてこの矛盾が解消される可能性も無きにしもあらずで、謎が謎を呼ぶといった状態だ。
いや、社長や監督が「間違えました」とさらっと言ってくれてblu-rayで修正していてくれれば、すくなくとも僕は普通に受け入れるんですけど。ミラクル伏線回収できるのであればそれはそれで観たいです。
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