やっと『トイ・ストーリー4』が観れた。
仕事が忙しく、ちょっと日常がおざなりになりつつあったこともあって、公開日に休みを入れていないというミスを犯してダラダラと2週間が過ぎてしまった。
おれはもう、本当のトイ・ストーリーを知っている。
— すん@投票済 (@s_ahhyo) July 20, 2019
15年かけ、3作連続で名作を見せつけてきた『トイ・ストーリー』というシリーズは、シリーズとともに成長してきたファンも多く、それこそ「人生」とも呼べる思い入れを抱く人もいるだろう。
そんな『トイ・ストーリー3』からさらに9年の時を経て公開されたこの『トイ・ストーリー4』のキャッチコピーはなんと
あなたはまだー本当の『トイ・ストーリー』を知らない。
なのである。
いやいや、待ってくれよ。24年目に知らされる「本当」ってなんなんだよ。
誰もが困惑したこのキャッチコピーと、高評価の米国各紙のレビュー、製作陣や主演のトム・ハンクスやティム・アレンたちの絶賛、そして日本語吹き替えを担当した唐沢寿明や所ジョージたちまで予告編で「ウッディが信じられない決断をするからね(意訳)」というような発言をして、公開前からかなり煽る煽る。
とはいえ、『1』『2』を監督し、当初監督を予定していたジョン・ラセターは2年前に監督を退き、ピクサーおよびディズニーからも半ば追放的扱いになっているし、『3』を監督したリー・アンクリッチも家族と過ごす時間を作るためにピクサーを退社したという。ピクサーの主要人物であるアンドリュー・スタントンやピート・ドクター、そしてピクサーを去った彼らはエンドロールにこそ名前があるが、どこまでストーリーに関わっているかは謎である。本作の監督ジョシュ・クーリーは長編作品の監督としては本作が初挑戦である。(『インサイド・ヘッド』の短編『ライリーの初デート?』の監督は経験済み。)
果たして『トイ・ストーリー4』はどんな仕上がりになっているのか。どんな結末を迎えるのか。
※この記事は現在公開中の映画『トイ・ストーリー4』および同シリーズ、また公開済みディズニー関連作品のネタバレを含みます。
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目次
衝撃の結末?
『トイ・ストーリー4』はボニーからの愛を受けられなくなり、押し入れで過ごすことが増えたウッディが「ボニーの保護者目線」から、ボニーを助けようと奮闘する物語である。
ボニーの幼稚園入学を機に、小旅行へ出かけるボニーの一家とおもちゃたちだったが、彼女のお気に入りの自作おもちゃフォーキーが「自分はおもちゃじゃない、ゴミだ」と実存不安を爆発させたため、車から飛び出してしまう。ウッディはフォーキーを呼び戻すため同じく車を飛び出し、フォーキーに自らの過去と子供とのふれあいの楽しさを解く。
他のおもちゃたちとの合流地点でウッディはかつての恋人的おもちゃのボー・ピープと再会し「子供に遊ばれるため」ではない彼女の自由な生き方を知る。
そして、ラストシーンでは予告編で散々煽られた「衝撃の結末」として、ウッディはボニーのおもちゃたちと別れ、ボーとともに外の世界で自由に生きることを選ぶのだ。
しかしこれ、本当に衝撃の結末だったであろうか。
一緒に映画を観に行ったツレは「あの結末がびっくりした」と言っていたので、一般層の感覚としては衝撃の結末に値するのだろう。
それでもSNSのタイムラインでは公開される遥か前から「ウッディがレリゴー*1しそう」とかなんとか言われ、あらかた結末が予想づいていた。
というのも、ここ数年のディズニー映画は「役割からの脱出」を強く推し進めている。
『トイ・ストーリー4』におけるボー・ピープも、かつての「何もできずヒーローの帰りを待つだけの陶器人形」という立ち位置から、自らがサバイバルを生き抜き先頭に立つ力強いおもちゃへと変貌を遂げている。
またティム・バートン版実写版『ダンボ』の結末や『シュガー・ラッシュ:オンライン』で見られたヴァネロペの決断なども『トイ・ストーリー4』とかなりテーマが近い。
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ここまでお膳立てされて、さらに「衝撃の結末」なんて言われた日には流石に察しがつく。しかもこれらの作品の公開日は『シュガー・ラッシュ:オンライン』が2018年11月で『ダンボ』が2019年3月とかなり時期が近い。
故に『トイ・ストーリー4』の衝撃の結末は僕の期待を超えることなく、予想通りに落ち着いてしまい、『トイ・ストーリー3』並みの大号泣のカタルシスを期待していた僕は全く泣けずに終わってしまった。
ストーリー自体には個人的にはなんら問題もなく、ヴィランかと思われていたキャラクター、ギャビー・ギャビー周辺の救いのあるストーリーも、物語を動かす大冒険とホラー展開、そして笑えるシーンは高く評価できる。アンティークショップや移動遊園地のようなノスタルジーを掻き立てる場面設定もイカしていて、ピクサー初期短編のキャラクター「ティン・トイ」が登場したのもアツい。
一方で過去3作でともに冒険してきた仲間であるハム、レックス、スリンキー、ポテトヘッド夫妻やジェシー、ブルズアイなどの面々が本作ではほとんど活躍せずに、新キャラクターたちが中心となっていたために、ラストシーンでの感情移入をどこに向けていいのかわからなくなってしまった。
泣ける映画がそんなに大事か?とも思えるが、『2』『3』であれだけ泣かせたんだから『4』でも泣かせてくれよと思ってしまう。
批判
そしてこんな結末を用意した『トイ・ストーリー4』にはやはり心無い批判も飛んでくる。ディズニーが会社としてやりたいことが明確に変わってきている中で、従来のファンが多い『トイ・ストーリー』というシリーズのキャラクターに、これまでの映画のテーマと全く異なる選択をさせるというのは、批判があって当然だ。
『トイ・ストーリー』シリーズにおいて、「おもちゃは子供を喜ばせるために存在する」「遊んでもらってこそおもちゃの幸せ」という、絶対法則のようなものがあった。
そして同時に、たとえ持ち主から忘れ去られるようなことがあっても「おもちゃどうし一緒にいれば大丈夫」という強い絆もこれまでなんども描かれ、特に『トイ・ストーリー3』では唯一アンディに連れられ大学に行くはずだったウッディが「仲間とともにいること」を選択しボニーの元へ行くことになる。
ウッディはこれまで持ち主のことも、そしておもちゃの仲間たちのことも決して裏切らない存在であった。
だからこそ『トイ・ストーリー4』の結末は反発を呼んでいる。
子供たちを、親たちを、僕ら自身を許す物語。
『トイ・ストーリー4』はアンディ&モリー兄妹の家からウッディの恋人的おもちゃボー・ピープが知人の家に譲られていくところから始まる。
『トイ・ストーリー2』の頃から繰り返し描かれるように、子供たちは成長するにつれおもちゃに飽きたり、忘れられたり、捨てられたり、売られたり、譲られたりする。
あれほどまでにおもちゃを大切にするアンディでさえ、雨の中RCレーサーを置き忘れてしまう。『トイ・ストーリー2』で忘れ去られ埃を被っていたペンギン人形のウィージーだってそうだ。知っての通り『トイ・ストーリー3』では彼らはゴミ袋に詰められ屋根裏に仕舞われそうになった。結果的に彼らは救出されるものの、本作で譲られてしまうことになったボーはモリーとの別れを受け入れ、新たな人生を歩むことに決める。
2代目の持ち主の元からアンティークショップへ行き、さらにそこも抜け出して自由に生きるボーには、「持ち主がいない」ことを後悔しておらず、持ち主がいた時代を(懐かしむことこそあれ)未練にも思っていない。
これは今までの『トイ・ストーリー』のシリーズと、決定的に異なることだ。
『トイ・ストーリー2』におけるジェシーやブルズアイ、プロスペクター、そして『3』におけるロッツォは、持ち主がいないことを呪い、腐り、怯えたり悲しんだり恨んだりしてきた。故にプロスペクターやロッツォはヴィランとなりウッディたちを苦しめるようになる。
だが『4』では違う。
持ち主のいないおもちゃたちがたくさん登場し、『3』のサニーサイドとはまた違った形で「遊ばれる」ということに拘らずに生きている。アンティークショップのおもちゃたちがそうだ。
これは何を表現しているのか、これは我々に対する「許し」じゃないだろうか。
この章の冒頭で語った通り、子供はおもちゃをなくす。飽きるし、捨ててしまうことだってある。『3』であれほど「私のカウボーイ」とウッディを愛でていたボニーでさえ、本作では彼のことなど忘れてしまっている。
我々人間はおもちゃのことをずっと覚えていることなんてできない。それでもおもちゃは持ち主のことを忘れられない。この『2』でジェシーが吐露したようなこの残酷な真実が、子供たちの心を蝕んだりはしないだろうか。なくしたおもちゃをふと思い出して苦しめたりしないだろうか。
大人になった我々は?成長しておもちゃを捨てた我々は悪だろうか?勝手におもちゃを捨てた両親は悪だろうか?
おもちゃを改造するのは?コレクションとして棚に飾っておくのは?
これまで散々おもちゃにとっての「悪」や「悲しみ」や「虚しさ」として描かれてきたものが、『トイ・ストーリー4』では許されるのだ。
なくしたという事実も、なくしたことで悲しんだ記憶も、忘れてしまったことすら忘れてしまっても、それらが全て子供たちの成長につながっていることはピクサーの『インサイド・ヘッド』が描いている通りだ。
あの日忘れ去られたおもちゃも、我々の知らないところで自由に生きている。新しい持ち主に拾われてるため、日々奮闘している。アンティークショップの美しい照明に見とれている。
ボー・ピープは(自我はなさそうだが)ラジコンカーのようなものを改造しスカンクにみせかけ、アンティークショップでは下半身を猫に千切られたぬいぐるみが楽しそうに談笑する。『2』のアルがヴィランなのはコレクターだからではなく、彼がウッディを盗んだからだ。バズはコレクターズアイテムを否定し、博物館で展示されることには反対するが、大人になったトイ・ストーリーのファンでキャラクターグッズを飾るだけじゃなくちゃんと遊んであげている人がどれほどいるだろうか。
『トイ・ストーリー4』は「忘れ去られたおもちゃたち」の救いを描くことで、これまで登場してきた様々なおもちゃたち、そして様々な持ち主たちにも救いを与える包容力を持っていると僕は思う。
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期待しないこと、裏切られることもあること
前述のこともあり、僕はこの映画が「子供に全く期待してない感じがいいな」と思った。もちろんいい意味でだ。
子供に期待しないというのはディズニー映画としてあるまじき行為かもしれないが、それでも『トイ・ストーリー』シリーズは「おもちゃを大切にするべし」というメッセージをさも当然のように発信してきた。
基本的にはその方がいいだろう。
それでも『トイ・ストーリー』1作目の制作者インタビューで脚本家のアンドリュー・スタントンは「子供は普通シドのように遊ぶのであって、アンディがおかしいんだ」と言う。シドをヴィランとして描くことで『トイ・ストーリー』は教訓として成立するが、実際問題子供が遊び方をそこまでコントロールなんてできるはずがない。
『ファインディング・ニモ』で描かれたダーラ然り、『ドリー』のタッチプールで魚たちと遊ぶ子供達然り、『3』のサニーサイドのいもむし組の子供達然り、そしてロッツォたちを忘れて帰ってしまったデイジー然り、子供たちに変に期待をしないことで、「おもちゃを大切に扱わなきゃいけない」という呪いから解き放っている。
そしてこれは新たに「期待は裏切られることだってある」という教訓にもつながる。
子供達は時に残酷だ。いや、子供に限ったことではない。本作でギャビー・ギャビーがお気に入りの女の子ハーモーニーに「要らない」と言われたように、自分の理想と相手の理想が噛み合わず、全く見向きもされないことだってありえる。
それでもウッディは、ギャビー・ギャビーを励まし、新たな持ち主を探すための行動へ出る。そしてこの行動が「ボニーじゃなきゃだめだ」と固定観念に囚われていたウッディ自身をも変えていく。
期待は裏切られることだってある。それでも、自らが正しいと思う道を、そして幸せだと思える場所を、自らが選びに行くことだって可能であると『トイ・ストーリー4』は教えてくれる。
大人だろうが子供だろうが、たとえ期待を裏切られてもどうにかして生きていかなきゃいけない。でもその道はきっと頑張れば自分で掴み取ることだってできるはず。
子供達はこの映画を見て何を思うだろうか。少なくとも、強い子供に育つだろうと僕は信じている。
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*1:Let it go https://youtu.be/ol1_zYrSflA