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Pixar SparkShortsと『殻を破る』無視されてきた人々にも居場所がある。

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サービス開始から約1年。

ディズニージャパンのストリーミングサービス「Disney DELUXE」が2020年6月11日に米国ディズニーのストリーミングサービスと同名の「Disney+」に変貌した。

 

それにより今まで公開されることのなかった「Disney+」オリジナル作品が次々と日本に上陸することとなった。

 

その作品のうちの一つが今回取り上げる『殻を破る』(原題:Out)である。

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目次

 

Pixar SparkShorts

この『殻を破る』という短編映画作品は、ピクサー・アニメーション・スタジオが制作する、アーティスト養成プログラム「Pixar SparkShorts」(日本版ディズニープラスによる正式名称は「スパークス 奇跡の瞬間」)より生まれた作品である。

 

ディズニープラスが展開される以前の2018年8月に『心をつむいで(Purl)』『ハイタッチ(Smash and Grab)』『猫とピットブル(Kitbull)』が発表され、それらはディズニープラスに先駆け、YouTubeでも無料公開された。

『猫とピットブル』は2019年アカデミー賞短編アニメーション部門にもノミネートされている。(受賞ならず)

 

3作の"予行演習"ののち(あくまでも配信の予行演習であって作品のクオリティはピクサーの"それ"である)、ディズニープラスが米国で展開された後は『宙を舞う(Float)』『風に乗る(Wind)』『ループ(Loop)』と作品を次々発表。

そして2020年の5月、『殻を破る(Out)』が公開された。

『Out』

『殻を破る』という邦題はいかにもディズニージャパンらしい当たり障りのないタイトルで非常にわかりにくいが、この作品はカミングアウト、つまり性的指向の告白を題材にしている。

主人公グレッグにはマニュエルという恋人がいるが、両親には自身がゲイであることを告白できないでいる。引越しの最中、突然手伝いに来た両親にボーイフレンドとのツーショット写真を見られまいと奮闘するドタバタ劇、かつ家族の絆と自身の本当の姿をさらけ出すことの勇気を描いた作品である。ちなみにファンタジー要素もある。

 

ディズニーとして長編映画ではLGBT"風味"なキャラクターを登場させることは度々行われてきた。

 

顕著なのが実写版『美女と野獣』のル・フゥで、彼は監督やル・フゥを演じたジョシュ・ギャッドらにより「ディズニー長編初のゲイのキャラクター」として宣伝された。しかしそれらはあくまで匂わせ程度のレベルであった。(それでも一部の同性愛者を認めていない国々では年齢制限が課されたり、公開延期になったりした)

 

『ファインディング・ドリー』や『トイ・ストーリー4』にはほんの一瞬レズビアンカップルらしい二人組が写っているが、モブキャラすぎて言われないと気がつかないレベルだ。

『ズートピア』のジュディの隣人のレイヨウの男性二人組は、あの狭そうな部屋に二人で暮らしているが彼らがゲイカップルである可能性は噂どまり。またガゼルはトランスジェンダー女性である説が噂されているが、監督によって否定されている。

 

マーベル作品の『マイティ・ソー/バトルロイヤル』に登場するヴァルキリーにはレズビアンという裏設定があり、それを思わせるシーンもある。(明確なシーンも撮影されたようだがカットされている)『アベンジャーズ/エンドゲーム』ではキャプテン・アメリカが主催するカウンセリングのシーンにゲイの男性が登場する(演じているのはジョー・ルッソ監督)。

 

『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』にはラストシーン付近で女性同士のキスシーンが登場したが、やはりモブキャラであり、それでも画面の端に映る程度だった。(それでも多くの国でカットの対象になった)

 

描写が匂わせ程度で止まっているのは、やはり大規模な収入源であり、同性愛描写に厳しい中国市場を意識してのことだと思われる。 (特に同性愛男性の描写に厳しいらしく、『スカイウォーカーの夜明け』はカットされずそのまま上映されたとのこと)

 

ディズニーチャンネルはどうかというと、アニメーションシリーズの『悪魔バスター☆スター・バタフライ』のとある1話(2ndシーズン第39話『ただの友達(Just Friends)』)では、 モブキャラではあるが、ディズニーアニメーション史上初めて同性どうしのキスシーンが(ジョークの流れではなくロマンティックな場面で)描かれた。

 

またティーンの恋愛や家族の問題を描くドラマ『アンディ・マック』にもメインキャラクターのひとりとしてゲイの少年サイラスが登場する。また、サイラスを演じたジョシュア・ラッシュ自身もバイセクシャルであることを公言している。

 

これらの流れから、ディズニーという会社として LGBTなキャラクターを登場させることは非常に多くなって来てはいる。

それでも表立ってゲイのキャラクターを登場させること、それも主人公として登場させたのはこの『殻を破る』が初めてである。

 

監督はスティーブン・クレイ・ハンターで、この作品も「事実に基づく」という冒頭の字幕の通り、彼自身の経験が映画に反映されているという。

 

『Purl』

ディズニープラスに先駆け、YouTubeで『心をつむいで(Purl)』が公開された時も非常に心を打たれた。

 

本作は『Mr.インクレディブル』などを思わせるピクサーらしいCGの男性キャラクターたちが働く会社に、可愛らしいピンクの毛糸玉が入社し奮闘するという短編映画である。

 

ピンクの毛糸玉のパールはつまりは女性であり、男性ばかりの男らしく、荒々しく、ちょっと下品な会社の雰囲気に溶け込めない。意を決して自らを「男らしく」イメチェンしたパールは彼らと平等に扱ってもらえるようになったのだが・・・。という話。

 

この作品で描かれるのはつまりフェミニズムの問題である。

 

この作品も監督のクリステン・レスターの経験に基づく短編であり、彼女が初めて就職した会社での「居場所」に関する物語だ。

映画の中ではこれまで様々な場面で無視されてきた女性という存在、女性への抑圧、そして人それぞれが自分らしくあることが描かれている。

 

 

描かれなかった人々を描いていく

ディズニーはかつて描かれなかった存在、または不当に扱って来た存在への懺悔に追われている。

過去のアニメーション作品などの実写化リメイクは、まさに過去の「間違った描写」を改めるために行われているようなものだ。

 

一方でピクサースタジオは、その「描かれなかった存在」「不当に扱われた存在」に救いを与えるために、今まで作品を発表し続けて来た。

使い古され忘れられたたおもちゃたちに、抑圧される弱者であるアリたちに、栄光から切り離され隠れて暮らすヒーローたちに、田舎の寂れた街に取り残された車たちに、救いを与えて来た。

だが、Pixar SparkShortsはそれともまた違っている。その「描かれなかった存在」「不当に扱われた存在」である人たち自身が、次世代の発信者として自分たちに似た人たちへ向けて作品を制作しているのだ。

『アーロと少年』に併映された『ボクのスーパーチーム(SANJAY's SUPER TEAM)』や『インクレディブル・ファミリー』で併映された『Bao』もそのひとつだろう。

 

『リメンバー・ミー』がアカデミー賞長編アニメーション部門を受賞した際、リー・アンクリッチ監督はこう述べている。

 

With Coco we tried to take a step forward toward a world where all children can grow up seeing characters in movies that look and talk and live like they do,

Marginalized people deserve to feel like they belong.

Representation matters.

 

私たちは、すべての子供たちが自分たちのように見たり、話したり、生活するキャラクターを見て成長できるような世界に近づけるように挑戦しました。

社会的に無視されている人々が、自分たちにも居場所があると感じるのは当然のことです。

(※Representation mattersは訳が難しいのであえて訳していません)

『殻を破る』という作品は、「同性愛者」や「ゲイ」という、社会的に無視されて来た人々、不当な扱いを受けて来た人々に「自分にも居場所がある」と思わせる作品だ。

まさに「Representation matters」にピクサーのクリエイターたちが向き合った結果だろう。

そしてPixar SparkShortsはそういった作品に多く触れることのできる、素晴らしい企画である。

今はまだ短編作品だが、SparkShortsで蒔いた種が、いつか『リメンバー・ミー』のような、世界的に評価される長編作品へと成長することを期待している。

 

 

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