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『オリバー/ニューヨーク子猫ものがたり』ディズニールネサンス期の夜明け。

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Oliver and Company (20th Anniversary Edition)

 

キャプテン・アメリカを演じた俳優として有名なクリス・エヴァンスの飼っている犬の名前が「ドジャー」であることを、つい先日知った。

 

クリス・エヴァンスは映画『ギフテッド』の撮影で訪れた収容施設でとある保護犬を引き取り、その犬に「ドジャー」と名前をつけて今も一緒に暮らしているという。

people.com「ドジャー」とはディズニーアニメーションの『オリバー/ニューヨーク子猫ものがたり』に登場する野良犬の名前である。写真をみるとなるほど、アニメに登場するドジャーそっくりだ。

クリス・エヴァンスは彼を一目見たときにディズニー映画『オリバー』を思い出して彼にこの名をつけたらしい。

 

日本では比較的知名度が低いこの『オリバー』だが、

公開時期的には大作『リトル・マーメイド』の前年であり、米国では前作の『オリビアちゃんの大冒険』の倍以上の興収を記録している。

この時期に行われたディズニー社の大改革の影響が強く反映された作品であり、そもそもの作品の質も高い。

今回はこちらの作品を紹介していこうと思う。

 

目次

 

『オリバー・ツイスト』の翻案

『オリバー/ニューヨーク子猫ものがたり』はチャールズ・ディケンズの小説「オリバー・ツイスト」を下書きとし、大幅なアレンジを加えた作品である。

 

当時(1980年代)のニューヨークを舞台とし、主要キャラクターを猫や犬に置き換え、原作の孤児たちを人間の世界で荒波にさらされながら生きる野良犬・野良猫として描く。

 

原作未読で申し訳ないのだが、原作の「オリバー・ツイスト」はハッピーエンドの物語ではあるものの、そこに至るまでにはなかなかハードな困難が立ちふさがる。

ディズニー版『オリバー』は原作のダークさをうっすらと残しつつ、全体的にコメディに、明るく優しく可愛いというフォーマットで見事に転換している。

原作は貧困層の現実と貧富の差を良しとする社会制度への批判が含まれているが、ディズニー版はそういった批判の雰囲気は鳴りを潜め、貧富の差の中で育まれる友情や、悪へ立ち向かう勇気などが強調されている。

 

共同脚本ではあるが、のちに『ニューヨークの恋人』『ローガン』『グレイテスト・ショーマン(クレジットなし)』『フォード vs フェラーリ』などの大ヒット映画の脚本/監督となるジェームズ・マンゴールドの脚本家デビュー作でもあるというのだから驚きである。

 

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 ルネサンス期の夜明け

一般に90年代のディズニーアニメーションの最盛期を「ディズニールネサンス」と呼び、その始まりは1989年公開の『リトル・マーメイド』からだとされているが、

前述の通り、その前年に公開された本作『オリバー』はその「ディズニールネサンス」の幕開けを予感させる作品であったといっても良い。

 

『コルドロン』や『きつねと猟犬』などの作品でアニメーター達の世代交代を行い、それが終わったタイミング、そしてパラマウントから凄腕映画人ジェフリー・カッツェンバーグがやってきて映画製作に本格的なテコ入れが入る。

カッツェンバーグこそが『オリバー』をミュージカルテイストで製作するという企画を持ち込んだ人物であり、この企画に作詞家ハワード・アッシュマンを参加させた人物でもある。(ハワードは本作には1曲目「Once Upon a Time in New York City」でのみ参加している)

 

前作『オリビアちゃんの大冒険』にもミュージカル要素はあったし、劇中歌の存在する作品はいくつかあるが、本格的ミュージカルは1970年公開の『おしゃれキャット』以来である。

また、声優にビリー・ジョエルやベット・ミドラーなど実力派のシンガーを起用することで、劇中歌のクオリティを高めるだけでなく、ポップ・ミュージックのファンへもアピールする話題性を獲得している。

 

彼らが歌唱する曲もアニメーションの面白さを加速させる非常に楽しい音楽で、その後に続く『リトル・マーメイド』『美女と野獣』『アラジン』『ライオン・キング』などの作品の登場を予感させるワクワク感がある。

 

中でも代表曲とも言えるのが「いつでも一緒(Good Company)」である。

オリバーの飼い主となる少女ジェニーが歌うこの曲は、構成もメロディーも実にシンプル。

作詞・作曲はロブ・ミンコフとロナルド・ロチャという2名が行っているのだが、なんとこの二人映画プロデューサーであり、本業音楽家ではない。

ロブ・ミンコフはその後『ライオン・キング』実写版『ホーンテッド・マンション』などを監督する売れっ子プロデューサーであるし、ロン・ロチャは『オリビアちゃんの大冒険』『ロジャー・ラビット』『美女と野獣』などを経て、ドリームワークスの『プリンス・オブ・エジプト』などに参加する。また『魔法にかけられて』のアニメーション部分のプロデューサーとしても活躍する人物だ。

 

『オリバー』の楽曲は様々な人物が参加しているオムニバスのアルバムのようなミュージカルである。

様々なミュージシャンが参加している実験的なミュージカル作品でありながら、映画を牽引していくタイトル曲がプロデューサーたちによる作詞作曲というのは実に面白いと思う。

「いつでも一緒」は音楽的な実験要素は少ないが、シンプルであるからこそ老若男女に受け入れられやすいし、童謡のような普遍性を持った楽曲となっている。イントロのピアノフレーズは頭から離れないし、後半のオーケストラアレンジも新たな生活に胸を踊らせるオリバーの心情のように広大で素晴らしい。

 

 ドラマティックなカメラワーク、ド派手アクション

ドジャーの劇中歌「ホワイ・シュッド・アイ・ウォーリー?」のシーンなどを見てもわかるように、本作ではより様々な角度から、縦横無人に、そしてドラマティックにキャラクターが動いている。

 

 

そして極め付けは終盤のド派手なアクションシーンである。

サイクスのアジトでの、ドジャーVSロスコー&デソートの戦いや、立体的で大胆な大脱走劇、CGアニメーションを大胆に利用した地下鉄でのスピード感溢れるカーチェイスはこれまでのディズニーアニメーションではなかなか見られなかったものだ。

CGアニメーションの導入やド派手なアクションは前作『オリビアちゃんの大冒険』でも見られたが、本作ではよりダイナミックに進化している。

 

 窃盗団と少年

『オリバー』の最大の魅力は少女ジェニーとオリバーの友情・・・と言いたいところだが、実際のところは犬の窃盗団とオリバーとの友情だろう。

 

売れ残った子猫であるオリバーはある日ドジャーという犬に出会ったことから、ボロ船に住む貧しい男性フェイギンとその飼い犬ドジャー率いる5匹の犬の仲間となる。

フェイギンはサイクスという男に借金をしており、それを返すためにドジャーら犬達に盗みを働かせていた。

 

このドジャーらはいわゆるメンター、「人生の先輩」であり、そこにくっついて回るオリバーは彼らとともに行動することにより、経験値を積んでゆく。

序盤の眠るドジャーの元に寄り添うオリバーの姿や、レフト・ハンギングのくだりを活かしたラストなど、この師弟関係、兄貴分と弟分の関係性は実にグッとくる。

これらのような師弟関係は、後続の作品で言えば『ライオン・キング』やピクサーの『アーロと少年』などがより濃密に描かれている。

そして、世話焼きのドジャー達は出会ったばかりのオリバーを助け出そうと奮闘し、またさらには彼の大事な家族であるジェニーをも助けるために動き出す。

 

一方でこの犬たち、ドジャー、ティト、リタ、フランシス、アインシュタインは「生きるため」とはいえ盗みを働く窃盗団、つまり悪党でもある。

ウォルト・ディズニーは『ロビン・フッド』ですら「義賊であるから」として存命中の映画の制作には至らなかったので、この『オリバー』もきっとウォルトが生きていたら認められることはなかっただろう。

ドジャー率いる犬達は実にナチュラルに盗みを働き、どうやらそれを悪いことだとも思っていない。

これらの描写はこの後『アラジン』でも描かれるが、『アラジン』が盗みを違法なこととして明言し、そのような生活から脱出することを描くのに対し、『オリバー』ではオリバー自身は裕福な家庭にもらわれるが、フェイギンやドジャーらのその後に関しては曖昧なままで終わっている。

 

貧困とサイクスによる脅しが原因ではあるが、(まさか少女がやってくるとは思いもしなかったが)ジェニーに身代金を要求したのは他でもないフェイギン自身だし、そもそもサイクスへの借金の理由が描かれていないので絶妙に感情移入しづらい。

それでもギリギリのラインで少女に対する優しさを見せてしまうほどには根は悪いやつじゃないという憎めなさもある。

そして最後にはジェニーを助けるために、あれほど恐れていた巨悪に勇気を振り絞って立ち向かうのである。

 

そのような倫理観の歪みをはらみながらも『オリバー』のフェイギンらは「盗みは働くが根は優しい」とサイクスという「より大きな悪を倒す」というフィルターをかけることによって、「窃盗諸々はとりあえず目をつぶってもらう雰囲気」が出ている。

 

そこらへん、もうちょっとフォローがあれば名作になっていただろうに、映画としては面白い分、惜しいと思うところでもある。

 

 

まとめ

『オリバー』はいいぞ。

毎度のことすべてを手放しで褒めるわけにはいかず、欠点も多い作品ではある。

 

今はやっぱり善悪とかを冷静になって考えてしまう時代だから、

結局フェイギン達は改心したのかとかがどうしても気になってしまうのだが、

アツい師弟関係と大迫力アクション、そして映画を彩る名曲達がディズニールネサンスの始まりを感じさせる、過渡期のような作品。

 

オリバーのような可愛いネコちゃんも登場するが、ドジャーもフェイギンもサイクスも全体的にシブいキャラクターばかりで華やかさには欠けるものの(ジョルジェットもある意味でシブい)特にドジャーは、そのシブさが抜群に化学反応を起こしている感じはある。

日本語吹き替え松崎しげるであんなにカッコイイなんて誰も思わないでしょ。

イケオジだからこその説得力。そしてディズニーらしさ。

いつだってディズニーの魅力的なキャラクターはオジサンばっかりなんだよ。

七人の小人からトイ・ストーリーまで。

 

というわけで、オリバーがかっこいい主人公のようで、

本当にかっこいいのはその師匠ドジャーな『オリバー/ニューヨーク子猫ものがたり』

よかったら是非見てくれ。

 

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