ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオには暗黒期が3回ある。
1回目がウォルト時代の1942年ごろから『シンデレラ』が発表される1950年ごろまで、
2回目はウォルトの死後、1970年ごろから『リトル・マーメイド』で復活する1989年ごろまで、
そして3回目は2000年ごろから『塔の上のラプンツェル』で復活する2010年ごろまでだ。
この時期の作品は、それぞれ時代の波であったり会社の空気感や派閥争いによるものであったり、様々な理由で駄作が生まれてしまったり、内容は良くても映画がヒットしなかったりした。
その1回目にあたる暗黒期はちょうど戦時中〜戦後にかけてである。
『ダンボ』や『バンビ』も名作として讃えられながらも戦中の煽りを受け、興収としては成果を上げられず、その後スタジオはコストカットのために短編を複数寄せ集めて1本の映画にするようなシリーズを製作するようになった。
中にはキャラクターにスポット当てることで近頃有名になってきたり、そのオムニバスの中のある話だけが有名だったりと、知名度は様々である。
海外では全てDVD化しているが、一部はまだblu-ray化していなかったり、日本ではDVD
すら発売されずパブリックドメインの廉価版での購入しか見る方法がない作品もある。(最近はディズニー+の登場により配信されることになった作品もある)
今回はどうにかこうにか観ることができた僕がそれらの作品を解説して行こうと思う。
目次
- 目次
- ラテン・アメリカの旅(1943)
- 三人の騎士 (1945)
- メイク・マイン・ミュージック (1946)
- ファン・アンド・ファンシー・フリー(1947)
- メロディ・タイム(1948)
- イカボードとトード氏(1949)
- まとめ
- おすすめ記事
ラテン・アメリカの旅(1943)
まずは『ラテン・アメリカの旅』
ディズニーのスタッフが南米に視察旅行に行きましたという報告映像(実写)も含まれるちょっと変わった作品。
アニメ作品で実写のスタッフ達が文化を学んだりスケッチしたりする映像が普通に映る。
そういう意味ではちょっと戸惑うが、それこそディズニーの分野の一つである「教育」とか「異文化理解」につながっていて、最終的にエプコットとかのパークに還元されてるんだなぁと。
含まれる短編としては、すでに知られてるキャラクターが登場するものが多いです。
ドナルドのアンデス旅行
ドナルドを通してアンデス文化を学ぼう、って感じ。おもしろい。
ドナルド短編でもあるのでドタバタもしっかり。
小さな郵便飛行機ペドロ
オリジナルキャラクター、ペドロが登場。飛行機擬人化のアニメ。これが『プレーンズ』の原型になるんですね〜知らんけど。
文化的なものより物語性が強いです。
ペドロが可愛くて応援したくなる。
グーフィーのガウチョ
グーフィーの短編How Toシリーズ的なノリで、南米版カウボーイ「ガウチョ」をグーフィーが説明。おもしろくないわけがありません。
イヤーホホウ。
ブラジルの水彩画
ホセ・キャリオカが初登場。ドナルドも登場します。
前半の流れるインクの色彩がだんだん絵になっていくシーンが圧巻。芸術性が高い作品です。
後半キャラクターが登場するのは嬉しいんだけど、前半のノリだけでも完成度が高いです。
「ラテン・アメリカの旅」総合評価:★★★★☆
三人の騎士 (1945)
これは有名ですね。ホセ・キャリオカ、パンチートは古くから東京ディズニーランドとかにも登場していましたので。
近年では「レッツ・パーティグラ!」というショーもあるし、ディズニー+で『三人の騎士の伝説』というシリーズも公開されてますね。
知名度は上がってきていますが、そもそものこの作品が有名かはちょっと微妙なところがあります。
一応『ラテン・アメリカの旅』の続編という立ち位置でもあります。
また、導入が「ドナルドの誕生日を祝う」という流れで始まるためにドナルドの誕生日がスクリーンデビュー日の「6月9日」以外に「13日の金曜日」という複数の可能性が生まれてしまっています。
短編の寄せ集め、というにはいささか区切りがわかりにくい作品ですが(特に後半は1エピソードでもいいと思う)Wikipediaに準じて区切っていきます。
ちなみにメアリー・ブレア祭り。
さむがりやのペンギン パブロ
パブロ!大好きなエピソードですね。
東京のパークでもグッズとしてちらほら登場するかわいいやつです。
エピソードもおもしろい。
空飛ぶロバ
『三人の騎士』の中ではちょっと浮いてる話。空飛ぶロバだけに。
翼こそあるけど、これロバの話だけど、それはいいんか?
おもしろいけどねー。
バイーア
ンナ〜〜〜〜〜〜バイ〜〜〜ヤイヤ〜〜〜〜〜!
もう最高。ホセの魅力がめちゃくちゃに詰まっている。
バイーアは素晴らしいところ、男はついつい狼になる。
実写とアニメーションの合成も超いいです。米!米!米!
ドナルドがキスをされる=カオスのスタートです。
ダンスしてたはずの男の人のシルエットが鳥になって戦います。何を言っているかわからねぇだろうが。
次への繋ぎのところで、ドナルドたちがギア・サードみたいなことをします。
ラス・ポサーダス
記念すべき、パンチート・ロメロ・ミゲル・フニペロ・フランシスコ・クインテロ・ゴンザレスの初登場。
ホセは意外にも3作長編に登場していますが、パンチートが登場する劇場長編は本作のみ。そのため『三人の騎士』はここから後半パンチートのウェイトが重めです。
『ファンタジア』のサウンドトラックのアイデアをそのまま使っているみたいなシーンもある。
ピニャータ割る前の、メアリー・ブレア全開の絵本のシーンはちょっと怖い。
(セクション的にはここが『ラス・ポサーダス』のメイン)
メキシコ〜パクツアロ、ベラクルス、アカプルコ
お勉強タイム。パンチートがナビゲーターの旅番組。
メキシコの国の成り立ちを学びながら魔法の絨毯、もといサラッペに乗ってメキシコの観光地を旅します。
水着ギャルを追いかける下品なドナルドダックが観れます。
WDWの『グラン・フィエスタ・ツアー』とかはここからきている。
ドナルドにキスされても「よしてくれよドナルド!」っていうだけでそんなに怒らないホセ、かっこよすぎない?
ユー・ビロング・トゥ・マイ・ハート
ドナルドがワイプ(?)で登場するシンガーの女性に「シャイコ〜〜!」してしまうシーン。
ドナルドが突如登場した大量の唇たちにキスされてしまったところから、なんとも言えないトリップ映像がスタートし、全体的にバグが加速していく感じがします。
ドナルドの白昼夢
『ユー・ビロング・トゥ・マイ・ハート』からの境目がよくわからんけど、無限トリップ映像が全力で加速していく感じです。
ワイプの女性シンガーも旧版『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』みたいになる。
カワイイナ、カワイイナ、カワイイナ、、、
『ダンボ』の「ピンクエレファント」や『プーさんの大あらし』の「ズオウとヒイタチ」に次ぐ、いや下手したらそれよりもやばい未知の映像。
もうなんのアニメを見てるのか全然わからないし狂ってる。
最後はサボテンとメキシコ感溢れる女性ダンサーが登場し、なんか「まともにメキシコ文化を表現しています」感を出した後、ドナホセパンで戯れて爆発して終了します。
説明すればするほどわからない。
アーティストの想像力っていうのは時折人智を超えるんだなぁ・・・とも思うのですが、
正直に言ってください!ドラッグやりながら作ったんでしょ!?
「三人の騎士」総合評価:★★★★★
メイク・マイン・ミュージック (1946)
現状、日本で見るのがカナリムズカシイ作品。
ディズニー+未配信、DVD/Blu-ray販売なし(パブリックドメインは知らん)
『ファンタジア』や『シリー・シンフォニー』シリーズをかなりしっかりめに踏襲した短編オムニバスで、その短編数はなんと10作。
ミッキーたちが出てこないながら、キャラが濃い登場人物も多く、
海外ではグッズがあったり、エリアで再現されていたりすることもあったりなかったり。
特徴としては、キャラクター色・アニメーションの強い明るい話と、芸術要素の強い眠気を誘う話がだいたい交互にやってくる感じです。
谷間のあらそい
カントリー風の曲。
一発目から、なんやねんこの話って感じのストーリーです。
戦時中だり、割けるリソースが少ないことは理解できるけど、白雪姫を生み出したスタジオのアニメーションと思うと、やっぱりなんかショボく感じる 笑
おもしろいけど、だから何感が強い。
イヤーホホウ。
青いさざなみ
眠気を誘いますね。
アニメーションは『ファンタジア』にドビュッシーの「月の光」を入れようとした時に制作されていたのが、結局使用されず楽曲を差し替えたのがこちらとのこと。
綺麗ですが、特にコメントはないかなぁ。
みんなでジャズを!
ジャズミュージック。
これ最高じゃないか!おすすめです。
芸術性、ポップカルチャー、大衆性、アニメーションとしての楽しさを全て兼ね備えた良作。とてもよいよい。
『ファンタジア2000』の「ラプソディ・イン・ブルー」はどちらかというと、ファンタジアよりもこっち側のテイストなんだな。
女の子が身支度をしているシーンで、かつてはおっぱいが見えるシーンがあったらしいのですが、現行版はおっぱいサイズを修正して見えなくしているそうです。
あなたなしでは
またもや眠気誘発タイム。
はい、ごめんなさいあんまり感想はないです。
猛打者ケイシー
キャラクターグッズも(ピンとか)それなりにあるディズニーキャラクター。
マジックキングダムとディズニーランドパリにはレストランもあるとかないとか。(あります)
原作はアメリカで大人気を博したベースボール・ポエム。
楽曲はあんまりメインではなく、アニメーションで笑かしに来ています。
面白いんだけど、オチがまぁそりゃそうだろうなという感じ。
キャラクターが全体的に狂っていて良いです。
ふたつのシルエット
シルエットが踊ります。眠い。
実写とアニメーションの合成だと思われます。眠い。
眠い。
ピーターとおおかみ
ロシアの有名な物語交響曲だそうです、確かにフレーズはなんか聴いたことある。
登場キャラクターと使用楽器やフレーズをリンクさせて、キャラクターの動きを表現するという試みをやっていて、音楽もアニメーションもいいのですが、最初にそれを全部説明してしまうのがくどい、ナレーションもちょいくどい。
話に緊張感もあり、素直に面白いと言える作品。
気合の入り方の違いを感じるというか、全体的にクオリティは高め。
歌曲ではないし既存曲で、『ファンタジア』っぽくも『シリー・シンフォニー』っぽくもある。
本作ではいちばんディズニーアニメっぽいかな。
『ファンタジア』がやろうとしていることを、わからない人向けに分かりやすいアニメで説明してるみたいな、ファンタジア入門編っぽいアニメ。
ぽいぽい。
君去りし後
こちらもアップテンポなジャズ。いいねー。
メインアートに採用されているだけあり、インパクトは強い。
『メロディ・タイム』にもこんな感じのあったね。
抽象的アニメーションだけど楽しめます。
プロモーションビデオとしてはかなりクオリティが高いみたいな。
帽子のジョニーとアリスの恋
素晴らしいです。
ジャズバラードでもあり、途中アップテンポにもなる。
帽子のジョニーとアリスってそういうことなん。
ピクサーの『ブルーアンブレラ』とかに強い影響を与えていそうな作品。
というかほぼそのまんまですね。
くじらのウィリー
オペラが歌えるクジラ、ウィリーを主人公にしていながら、
最初の方は人間のおじさんたちがバタバタしているだけの、ちょっと変な導入のアニメーション。
オペラだけあってお堅い感じがすると思いきや、それが逆にコミカルで良い。
ウィリーが出てきてからの楽しさ。
『ラ・ラ・ランド』を思わせるIfと、ストレートなバッドエンド。
『プリンセスと魔法のキス』のルイス的でもある。
「メイク・マイン・ミュージック」総合評価:★★★☆☆
ファン・アンド・ファンシー・フリー(1947)
旧日本語タイトルは『こぐま物語』
『ボンゴ』と『ミッキーと豆の木』の2本立てですが、この二つの話を繋ぐアニメーションと実写セクションがあります。
序盤は『ピノキオ』のジミニー・クリケットが登場、後半は実写で腹話術師のエドガー・バーゲンが語り部的に登場。
腹話術人形のモーティマーが子供にはトラウマ級に顔がめっちゃ怖いんですが、
嫌な奴度でいうとチャーリーのほうが上。
ボンゴ
サーカス出身のこぐまのボンゴが主人公。サーカスを抜け出し自然に帰って恋をします。
クオリティは高め。今までの映画や短編の総括と言わんばかりの「っぽさ」の連続。
『ダンボ』や『バンビ』や『白雪姫』を思わせながら、『花と木』とか『ミッキーのつむじ風』(1941)っぽいシーンも。
意外にも、イヤーホホウはこっちに。
夜寝るときに虫の立てる小さな音が恐怖を掻き立てる・・・はその後『プーさんとティガー』(『くまのプーさん/完全保存版』収録)にも引用されますね。
短編のドタバタ感を楽しみながら、ちゃんとメリハリもある、みんなが好きな話です。
序盤、檻を出ようとするシーンとかやっぱちょっと狂ってるけど。
ミッキーと豆の木
いわゆる「ジャックと豆の木」をミッキー、ドナルド、グーフィーに演じてもらったスターシステムのアニメ。
巨人のウィリーは『ミッキーのクリスマスキャロル』に現在のクリスマスの精霊として再登場、魔法のハープは『ロジャー・ラビット』に登場します。
また、グーフィーが食べたいご飯を延々と歌うシーンは『ミッキー、ドナルド、グーフィーの三銃士』にも出てきますね。
何と言ってもミッキーたちが薄い食パンとひとつぶの豆を3人分にスライスしてサンドイッチにして食べるど貧困食事シーンが強烈に脳裏に焼きつく、若干のトラウマ短編です。
このキッツイ描写を描きたいアニメーターの気持ち、狂ってるね〜〜。
そして周りで何が起きても絶対に目覚めない三馬鹿が愛おしい。
全体的にミッキーの機転と賢さが光るストーリーです。グーフィー短編的なドタバタ感もあり。
また、映画の最後に「これは作り話で巨人なんて存在しないんだよ!」とディズニーらしからぬ展開を持ってきたかと思えば、そのあとの展開がディズニーすぎた。
舞台がハリウッドなのも、ロジャー・ラビットを思わせてくれて好きですね。
「ファン・アンド・ファンシー・フリー」総合評価:★★★★☆
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メロディ・タイム(1948)
ディズニープラス配信のおかげで日本でも観れるようになりましたね。
ソフト化は日本ではまだされていません。
構成は『メイク・マイン・ミュージック』に近いですが、絵筆がストーリーを紡ぎ出す演出とかは『ラテン・アメリカの旅』の「ブラジルの水彩画」とかに通じています。
ジャケはこんなんですが、ドナルドが主人公っていうわけでもない。
冬の出来事
シャイなカップルが凍った湖でスケートしていたら事件が起き、それがきっかけで距離を近づけるなんやかんやカワイイエピソードです。
ウサギの可愛さ。
キャラクターデザインが特徴的ですね。
陰影の少ないベタ塗り感。
クマンバチ・ブギ
『ダンボ』のピンク・エレファントや『三人の騎士』のラリってるシーンと『ファンタジア』の融合的な、クマンバチの可愛さもありながら悪夢的不気味さと、音楽のノリの良さが絶妙に合わさった良作。
「君さりし後」と似たようなシリーズ。
りんご作りのジョニー
ジョニー・アップルシードの伝説のアニメ化。
このキャラクターもピンとかになってます。
グリム童話や北欧神話と同じくらいディズニーは米国神話を大事にしているのです。
「ポール・バニヤン」とか「ジョン・ヘンリー」とか。
この話は宗教色も強め。
最高ですね〜。
いかにもディズニーっぽいキャラクター作り。
背景がメアリーブレアのコンセプトアートをまんま使ってる感あります。
小さな引き舟
『ペドロ』とかに続く乗り物擬人化アニメ。あかちゃんタグボートの話。
大失敗恥晒し少年が一発大逆転する『チキンリトル』みたいな感じ。
明るい感じかと思いきや、ちょっと怖いところもあります。
船なのに顔のところ肌色感あるのがなんかヤダ。
Do or die!
Do or die!
Do or die!
Do or die!
「やるか死ぬか」ですよ。人生はそんなもんだ。
丘の上の一本の木
『メロディ・タイム』は全体的に見やすいのですが、ちょうどいいタイミングで眠気を誘ってくるのがコレ。記憶に残りづらいかなって作品です。
ただアニメーションはめちゃくちゃキレイ。
ちゃんと「絵画」でありながら写実感も感じさせられる。
『バンビ』の「四月の雨」感あります。
短い。
サンバは楽し
ホセとドナルド、そしてアラクワンが登場します。
アラクワンはウッディー・ウッドペッカーを若干意識してるんじゃなかろうか。
さすがに『ラテン・アメリカの旅』や『三人の騎士』色が強い。
実写もあります。アニメーションは自由で変幻自在、想像力は無限!って感じ。力強さを感じます。
基本狂ってますね。
青い月影
こちらも米国の伝説「ペコス・ビル」の物語。みんな大好きペコス・ビル。
ディズニーランドのウエスタンランド(フロンティアランド)にもその名が使われたレストランがあったりショーの題材になっています。
『メロディ・タイム』における、一番代表的な作品かな。
めちゃくちゃ力入ってるのがわかります。『サンバは楽し』もいい勝負だけど。
みんなが大好きなヒーローでありながら、ちゃんとオッサンとして描いてるところとかもいかにもディズニーって感じ。恋人のスルーフット・スーもクールで何事にも動じない強い女性感があり、描き方次第ではもっと現代的にアレンジできるんじゃない?という可能性を感じる作品。
導入はなぜか実写。
ディズニー初期実写の常連、ボビー・ドリスコルやルアナ・パットンが登場します。
しかしこの実写いる?さっさとアニメに入って欲しい。
ポール・バニヤンもそうだけど、ちょっとマウイっぽいんだよな。雲を引っ張ってきて雨を降らせてメキシコ湾を作ったとか。マウイもハワイにおける伝説なので。
ディズニー短編らしいバカバカしさも、
長編ではありえないバッドエンド感のある終わり方もGood。
気づいたらイフアイエーアイエー、エフアイオー!って歌ってる、かもね。
イヤーホウ!イヤーホウ!
「メロディ・タイム」総合評価:★★★★☆
イカボードとトード氏(1949)
ディズニー初のクライムアクションとも言える『Mr.トード(たのしい川べ)』とディズニー初のホラーとも言える『イカボード氏(スリーピー・ホローの伝説)』の2本立て。
スリリングさは短編オムニバスの中でも随一。
一方で全く子供向けとは言えず、全体的にクレイジーで学びも救いもないというディズニーらしくなさが全開。正直長編作品で一番ヤバいのこの作品なんじゃないだろうか。1949年にもうすでに一番ディズニーらしくない作品があったのだ・・・。
とまぁ、ディズニー作品における「ディズニーらしくない作品」というのは、本当にバランスが大事で、世間一般のイメージゆえに「大人も子供も楽しめない」作品になってしまうというのがこの作品で明らかになったんではなかろうか。僕は楽しかったけど。
たのしい川べ
「たのしい川べ」っぽいシーンが一瞬しかないんだよな。
というのも原作小説のタイトルが「たのしい川べ」ってだけな模様。
多趣味でなんにでも興味が移り変わってしまい、その度に浪費を繰り返してしまう主人公、トード氏は借金漬けの生活を送りながらも最新の自動車に心を奪われ、ある夜バーでギャングの一団の車とトード氏の屋敷を交換してしまう。
その上、ギャング団にハメられて車泥棒の罪を着せられたトード氏は有罪になってしまう。
親友の愛馬セシルの助けで牢獄を抜け出したトード氏は・・・。
「はじめての法廷映画」みたいな感じで、法廷で交わされる英語とかを勉強できるのではないでしょうか。時代性を意識してか、ブリティッシュイングリッシュの中でも言い回しや発音が若干特殊な感じがしました。
最後までトード氏は反省する気配がないし、50:50くらいでトード氏が悪い気がする。
車に心を惹かれるトード氏のシーンはマジで薬物常習犯みたいな描かれ方でカオス。
後半のドタバタシーンはやっとディズニーっぽくなったかなって感じ。
ちなみに『ジャングル・ブック』の「I wanna be like you」の後のシーンに流用されたトレス元と思われるシーンがあります。
また、トード氏にラット、モールは『ミッキーのクリスマスキャロル』にも登場。
最高にクリスマスっぽくないクリスマスのシーンがあるからね。
スリーピー・ホローの伝説
『トード氏』がイギリスのお話なので、『イカボード氏』はアメリカのお話、というバランスの取り方。
このお話の元となった『スリーピー・ホローの伝説』は結構有名らしく『スリーピー・ホロウ』としてジョニー・デップ主演で実写化されてます。ディズニーちゃうけど。
面白おかしい感じにはしているのだけど、最高に後味の悪い不気味な作品で、『白雪姫』でなんとなく気づいてたけど、ディズニーってホラーを作らせたらピカイチなんですよね、しかもグロが必要ない。
そもそも主人公のイカボード氏のキャラデザがまぁまぁ不気味なので彼が驚いてるだけでまぁまぁ怖い。動きはだいたいグーフィー。
ヒロインのカトリーナが見事に男たちを翻弄していくさま、そしてズッコケてしまう結末が意外性ありまくり。
オープニング曲が「朝の風景」っぽさもあり、なんか全体的に『美女と野獣』な風味も感じるんだけど、多分僕の勘違いです。偽ガストンが出てくるからだな。
ディズニーは美男美女の恋愛しか描かないとかいう人はこの映画をどう評価するんでしょうね。
なかなか本題に入らないテンポの悪さと度を越したコミカルさ、怖さ、そして虚無しか残らない絶望のエンディングからカルト的人気を誇って欲しいけど、多分カルトなだけで人気はない。
ハロウィン・ムービーでもあります。
「イカボードとトード氏」総合評価:★★★☆☆
(追記)
単独記事を書きました。
まとめ
では、それぞれの作品別評価をもう一度見ていきます。
「ラテン・アメリカの旅」総合評価:★★★★☆
「三人の騎士」総合評価:★★★★★
「メイク・マイン・ミュージック」総合評価:★★★☆☆
「メロディ・タイム」総合評価:★★★★☆
「ファン・アンド・ファンシー・フリー」総合評価:★★★★☆
「イカボードとトード氏」総合評価:★★★☆☆
※筆者の独断と偏見による個人的評価です
5段階評価で2以下はありません。
やはりディズニー映画としての最低ラインのクオリティは担保していると言ってもいいでしょう。それか僕の頭がおかしくなっているかどちらかです。
これだけ連続で狂気映像を見続けていると自信がなくなってきます。
なんというか、芸術と狂気はやはり表裏一体なのだなと思います。
そして、それらと大衆を楽しませるエンターテイメントを両立するのは、本当に本当に難しいのだと。
シュールレアリスムやアバンギャルドを求めすぎると、やはり大衆性は失われていく。
その救済措置としての「ディズニーキャラクター」の強さも感じます。
ミッキー、ドナルド、グーフィー、ホセ、パンチート、ジミニー・クリケット、巨人のウィリーにトード氏らなど、複数のディズニーアニメーションに登場するキャラクターが多いのもそのためなのかな?と思ったり。
まぁでも、一言でまとめるとね
「ディズニー初期のオムニバス長編、全体的に狂ってる」
これが一番です。