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『ヘラクレス』は名作?キャラの魅力と最強の音楽でパッケージされた、不思議な作品。

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ヘラクレス(吹替版)

『ヘラクレス』(原題:Hercules)という不思議な作品がある。

 

『リトル・マーメイド』『美女と野獣』『アラジン』『ライオン・キング』『ポカホンタス』『ノートルダムの鐘』という作品が次々と発表されたディズニー・ルネサンスの時代。

それらの作品たちはディズニー的な軽快さやキャッチーさを持ちながらも、大人でも楽しめるような重厚感やシリアスさを併せ持つ魅力的な作品ばかりであった。

 

そんな中、公開された『ヘラクレス』という作品はそれらと明らかに空気感が異なっていた。

私はギリシア神話に詳しいわけではないし、「こんなのギリシア神話なわけないだろ!」という怒りの声自体は『ヘラクレス』を見て明らかに伝わってはくるけど、今回そこにはあえて触れない。

結果的に、面白い、愛される作品なのだけど、本当に不思議な作品だと思う。

 

というわけで『ヘラクレス』のお話。

 

目次

 

大ヒット監督×作曲家の盤石な布陣

本作の監督は私が愛してやまない監督コンビ、ジョン・マスカー&ロン・クレメンツ両監督による作品である。

『ヘラクレス』以前は『リトル・マーメイド』や『アラジン』をこのコンビで生み出している(一応、『オリビアちゃんの大冒険』という映画もこのコンビ)

 

そして言わずと知れた名作曲家、アラン・メンケンが劇中曲の作曲を担当している。彼の代表作といえば『リトル・マーメイド』『美女と野獣』『アラジン』『ポカホンタス』『ノートルダムの鐘』ときている。

(作詞はディズニーではこのあと『ムーラン』でも活躍するデイヴィッド・ジッペル)

 

こんな無敵のタッグにより作られた作品であるのだから、『ヘラクレス』という作品もまた、最強に違いない。

 

まさにその「期待値」こそが本作の敗因といっても過言ではないのだろうか、

本作は決して駄作ではないし、魅力的なキャラクター、心を射抜く名台詞、そして耳から離れない名曲、と見所は数知れず存在する。

ところがそれらの要素はいくつもの「点」として存在して「線」になっていないような歪さ、その「点」すらも大小まちまちで、そして「めちゃくちゃ楽しみながら作ったんだろうな」という事こそ伝わってくるものの、ディズニールネサンス期を支えた作品と比べるとあまりにもコメディ重視で、軽快すぎるきらいがある。

 

詰め込まれたギャグ、軽すぎる作風

『ヘラクレス』という作品は「ギリシア神話」に基づきながら、そのほぼ全編にわたりオリジナルストーリーとも言えるアレンジがなされている。

そして、ディズニー映画ではよくある話ではあるが、時系列無視とも言えるような、古代ギリシアで現代的な品々がパロディ的に登場する。

テーベの街を「ビッグ・オリーブ」と呼ぶのは、ニューヨークを「ビッグ・アップル」と呼ぶことへのパロディだろうし(ググっても『ヘラクレス』関連でのWEBページしか出てこない)、信号機の代わりをする男性や、アメリカン・エキスプレスのパロディ、ギリシアン・エキスプレス、エアジョーダンのパロディ、エアハーク、ディズニーストアのパロディヘラクレスストア、そして、一躍有名となったヘラクレスの邸宅はおそらくエルヴィス・プレスリーを意識している。

 

神々の物語をテーマにしているとはいえ、舞台としているのは我々と同じ人類の世界。人々はモンスターには恐れおののくわりには、半身がヤギのフィルには皆割と普通にその存在を認めて接していたり、割とディズニー的な「説明なし」「ツッコミどころ満載」な設定で物語が進む。

 

そして「ツッコミどころ満載」な割には登場人物に比較的まともなキャラクターが存在せず、終始ふざけているような印象もあり、物語がなかなかピリッとしないのも本作の特徴である。「ツッコミ」自体が日本の独特の文化だからなくても良いのだけど、冷静で話を切り替えていくような存在がいないのでダラダラと物語が進んでいくような印象になる。

 

ハデスとメガラの矛盾

上記のダラダラと進んでいくような印象に、大きく影響しているのがハデスとメガラの存在だと思う。そして同時にこの2キャラクターは『ヘラクレス』の大きな魅力でもあるという矛盾を生み出してしまってもいる。

 

本作のヴィラン「ハデス」は今までにないディズニーヴィランだ。

ボソボソと早口で喋り、比喩やジョークを織り交ぜ、時折感情を爆発させたり突然正気に戻ったりする、感情表現豊かなキャラクターだ。

当初はかなりシリアスなキャラクターだったというが、声優のジェームズ・ウッズのアドリブをほとんどそのまま採用したという、それこそ『アラジン』における「ジーニー」のような存在で、それがしかもヴィランという絶妙なバランスが魅力的なキャラクターだった。

 

このキャラクターがどうにも魅力的で、正直主人公のヘラクレスよりも好きな人が多いんではないかと思う一方、映画内の役割としては、その凶悪な野望と卑劣さの割に、「コミカル過ぎて悪いやつに見えない」弊害もあり、ヘラクレスの無敵感も相まって「ただただ振り回されているかわいそうな悪役」のようなポジションにもなってしまっている。

 

そしてメガラだ。通称メグと呼ばれる彼女は、これまでのディズニーヒロイン史上最もミステリアスで、最もセクシーとも言えるキャラクターである。

別にそれはよくて、彼女がミステリアスでありすぎるが故に、ヒロイン的魅力が「見た目」に全振りされている。そして彼女が事実上「嫌々ハデスに従わされている存在」であるが故に、彼女の行動のからは「ヘラクレスが彼女に惚れた理由」がわからず、結果として「ヘラクレスはただの面食い説」が浮上する。別にいいんだけど。メグは魅力的だからね。

 

それ故に、ヘラクレスとメグとのデートの際、ヘラクレスが彼女にいう「君には嘘がない」というセリフが、今まさにメグがヘラクレスをたぶらかして弱点を聞き出そうとしている最中のセリフで、ヘラクレスのマヌケっぷり、この言葉の空虚っぷりを表す結果となっており、全くの実感が伴わない。

同監督の『アラジン』では、主人公こそアラジンではあるが、ジャスミンの魅力が存分に描かれていた。自由を求め、囚われた小鳥を逃す仕草、飢えた子供に売り物のリンゴを渡す行動。それらは非常に効果的で、アラジンがたとえそれを目撃していなくてもジャスミンの魅力が視聴者に伝わるようになっている。

(メグがなぜハデスの支配下に置かれるようになったかは、物語終盤でやっとハデスの口から語られるようにはなる。)

 

ここではないどこかへ

『リトル・マーメイド』『アラジン』そしてこの『ヘラクレス』の3作は、同じ監督による作品であり、同じ作曲家が曲を作っていることもあり、構造も非常によく似ている。

『リトル・マーメイド』では「Part of Your World」で、『アラジン』では「One Jump Ahead(Reprise)」で、彼ら彼女らは今の現状が自身の居場所ではないことを実感し、「ここではないどこか」を求めている(『美女と野獣』の「Belle(Reprise)」もまた)

このI wishモーメントは『ヘラクレス』では「Go The Distance」という名曲になる。

この楽曲は、ディズニーファンであれば知らない人がいないほどの名曲で、世間的な知名度こそ『アラジン』の「A Whole New World」などには劣るものの、ディズニーのヒストリーにおいて非常に重宝されており、パークやイベントでも度々使用されている。

 

一方で、アリエルが海の世界のルールや父トリトンからの抑圧、そして自身の知的好奇心から「ここではないどこか」を求めていたり、アラジンが貧困からくる差別や嘲笑から逃れるために豊かな暮らしを望んでいるのに対し、ヘラクレスは若干性質が異なる。

 

彼もまた他者から差別を受ける存在ではあるが、映画を見ている限りでは基本的に悪いのは彼だ。

コミカルに描かれてはいるが、普通に街を大破していて「力がコントロールできなくて・・・」で済まされようとしていて、そして彼のI Wishは「どこか違うところでなら受け入れてもらえる」と安易に考えているようにすら感じてしまう。自身がもともと神であること知った後も、贖罪としてのヒーロー活動に励むのではなく、自身が元の神様に戻るためにヒーローを目指すと、どこまでも利己的だ。(「利己的であることはヒーローではない」につながるので、後々理にかなってはいるのだが)「Go The Distance」の名曲感に飲み込まれていい話っぽくなっているが、冷静に考えてヘラクレスが悪い。

 

真のヒーローとは何か

本作は「ヒーロー映画」としてのフォーマットをもちながら「ヒーローとは何か」を主人公に考えさせるようなシーンがあまりない。

ゼウスからの指摘、そこから極端な落ち込み、そして結果的に偶然とも言える行いによって彼は「真のヒーロー」として認められる。

「真のヒーローは力のみでなく、心の強さで決まる」とゼウスはいう。

当然、「世界から人気者になること」が「真のヒーロー」ではないとしても、実際に彼は命を賭して他者を守り続けてきたのは、最初の戦いでヒドラに飲み込まれた時から一貫している。彼のヒーロー活動はこれまでもずっとそうしてきたはずでもある。

 

ただし総じて、良い

これだけ厳しく本作を批判しておいて、この結論に至る意味がわからないかもしれないが、『ヘラクレス』良いのだ。少なくとも私は。

このレベルのディズニー作品というのは実はゴロゴロ存在していて、その中でも『ヘラクレスは』飛び抜けてキャラクターと音楽がいい。

 

キャラクターがいいというのは、ディズニーにおいてはあらゆる展開をする上で非常に重要な項目でもある。ゲーム『キングダムハーツ』において、『ヘラクレス』異様に重宝されているのは、やはりキャラクターが良すぎるからだろう。全然活躍しないタイタンとかケルベロスもちゃんとボスキャラとして登場する。

 

本作はテーマが一貫しているようで、全体的にふわっとしている。

いいこと言っているようで実感が伴っていないような気がする中で、まぁ終わりはうまくまとまっている方ではないだろうか。全体的に乗りと笑いの映画でもあるので、指摘する方が野暮、という気さえしてきてしまう。

 

そんな不思議な映画『ヘラクレス』

数々の名作に負けず、劣らず、そして唯一無二の「ディズニー映画見たわぁ」という気持ちには間違いなくさせてくれる満足感のある作品なので、僕が長々と語った上記の批判を全部忘れて見てください、ぜひ。

 

 

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