イギリスの伝説のロックバンド、クイーンの活躍を描いた映画『ボヘミアン・ラプソディ』を観た。
タイトルだけで勘違いされないように最初に書いておきます。
体が震えて、泣きました。本当に最高の映画でした。
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※この記事は映画『ボヘミアン・ラプソディ』のネタバレを含みます。
目次
バンドは奇跡で成り立っている
ある種のバンドは、奇跡的なバランスで成り立っている。
バンドとはいえ、それぞれのクリエイターの頭の中なんてお互いにわかりっこない。
口で説明するのも難しいし、それがフレディ・マーキュリーのような人物ならばなおさらだろう。
それでも彼らは、その得体の知れない「フレディ・マーキュリー」という才能に触れ、才能を爆発させていく。
クイーンは彼という強烈なフロントマンがいるが、決してワンマンバンドではない。
メンバー全員が曲を作り、それぞれが大ヒットしている。
怪訝な顔をしたメンバーと、わけのわからない実験現場で始まったレコーディングが、次第に興奮し、曲を完成させていく。
延々と繰り返す「ガリレオ」のコーラスから、次第に形が見えてきた「Bohemian Rhapsody」のレコーディング終盤の笑顔。
「We Will Rock You」の圧倒的なリズムで一つになるスタジオ、そしてライブ会場。
言い争いすらも文字通り音で黙らせる「Another One Bites The Dust」のクールなベースライン。
音が鳴った瞬間に、重なった瞬間に、今までの事などどうでもよくなってしまうほどに、その音に惹かれ、曲によりつながり、絆が深くなっていく。
映画『ボヘミアン・ラプソディ』では、その天才たちによるバンドのケミストリーが弾ける瞬間の爽快感、高揚感が、時間の流れとともにじわじわと高まっていく。
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『ボヘミアン・ラプソディ』 という曲
クイーンの代表作である『ボヘミアン・ラプソディ』という曲がこの映画のタイトルである。
(Queen公式YouTubeチャンネルより)
この曲が批評家やレーベルのプロデューサーに酷評されながらも、如何にしてヒットしたかは劇中でも描かれている通りなので説明は不要だろう。
「ラプソディ(狂詩曲)」の通り、ピアノバラードで始まるロックミュージックでありながらもオペラのように物語のシーンごとに楽曲が様々に姿形を変え、意味のわからない言葉の羅列、実験的なサウンドと誰も思いつかないような構成でできた曲で、日本で有名な彼らの「We Will Rock You」や「We Are The Champion」などと比較しても、比べ物にならないレベルでロックに革命を起こした曲だと思う。
「ボヘミアン」とはボヘミア人の意味ではあるが、転じて自由奔放な放浪者、はぐれもの意味を持つらしい。
意味のないように聞こえる単語の羅列はイタリア語だったり、ムスリムの言葉だったりする。
この曲に関してクイーンのメンバーはいう。
「曲は聴く人々のものだ」「それぞれの解釈に任せる」「聴いた人が自分たちのことだと感じる」と。
本当は意味なんてないのかもしれない。
それか、フレディの頭の中で、この歌詞に著されたメッセージは説明しようがないのかもしれない。
映画はこの楽曲のように、予想できない様々な展開が繰り広げられる。(伝記映画なのだから知ってるよというツッコミは置いておいて)
ポスターにでかでかと描かれている、最高の「ラスト21分」の、ライブエイド再現シーンという大クライマックスへと続く波乱万丈の物語。
クイーンというバンドの視点において、まさにこの映画は『ボヘミアン・ラプソディ』「はぐれ者たち(=クイーン)の狂詩曲」である。
それでも、クイーンというバンドを少し離れ、フレディにスポットを当てると、タイトルが少し変わってくるように思える。
フレディの物語
『ボヘミアン・ラプソディ』という映画は、クイーンというバンドの物語であるという以上に、ボーカリストでありこの映画の主人公の「フレディ・マーキュリー」という人物の物語という側面が大きい。
フレディ・マーキュリーは、17歳までインド育ちのインド人で、伝説的ロックバンド・クイーンの伝説的作詞作曲家でありパフォーマー。
ゲイ(もしくはバイセクシュアル)であり、エイズの合併症の肺炎で1991年に45歳の若さで死亡する。
『ボヘミアン・ラプソディ』においてどこまでもテンポよく、挫折を知らず成功へと突き進んでゆくクイーンというバンドと、対比するかのように、フレディ個人の人生はどんどん歯車が狂っていく。
インド系であるというコンプレックス。
親にもらった名前を変え、イギリス人フレディ・マーキュリーとして生きる生活。
それと相反する家族や両親への愛情という本音。
妻とはお互いに愛してはいるが、ゲイのとしての自覚により疑問が生まれ、満たされなくなる。
一方でゲイ・パートナーにとって自分は都合のいいセックス・マシーンでしかない。
その他大勢の「自分を愛してくれるかもしれない誰か」へ、乱行パーティーを通して、途方もなく振りまく愛情と報われない、満たされない思い。
それぞれに悩まされ、切り捨て、切り捨てられ、
愛とは一体なんなのか、わけも分からずに孤独になっていく。
そしてとどめがHIVへの感染。
劇中、一番最初に流れる曲は「Somebody To Love」である。
(Queen公式YouTubeチャンネルより)
Ooh, each morning I get up I die a little
Can barely stand on my feet
(Take a look at yourself) Take a look in the mirror and cry (and cry)
Lord, what you're doing to me (yeah yeah)
I have spent all my years in believing you
But I just can't get no relief, Lord!
Somebody (somebody) ooh somebody (somebody)
Can anybody find me somebody to love?Somebody to love - written by Freddie Mercuryああ、毎朝起きる度ちょっとづつ死んているほとんど自分の足で立てないくらい(お前の顔を見てみろ)鏡を見て泣く(そして泣け)神様、僕になんてことをしてるんだ生涯ずっとあなたを信じてきたけど僕はまったく救済を得られない、神よ!誰か(誰か)ああ誰か(誰か)誰か僕に愛すべき人を見つけてくれないか?(筆者訳)
僕はこの曲こそが、まさにこの映画の本質、テーマであるように思えて仕方がない。
この曲自体は1976年に発表されたもので、フレディがエイズであることがわかるのはずっと後の出来事である。
それでもこの曲がまさにその後の「フレディの人生」を言い当てているかのように、苦しく重たい歌詞のように刺さってしまう。
製作陣もそれを意識してこの曲を一番最初に流し、この曲が「Bohemian Rhapsody」以上のテーマソングになるように脚本を組んで行ったのだろう。
フレディのエイズ発覚年や、ソロデビューとバンドのライブエイドへの参加の経緯などは史実とは全く異なるらしい。
そのような荒技を駆使してまで、劇中のフレディをボロボロにして、そして彼自身が
「Somebody To Love(愛すべき誰か)」を見つける物語が、この『ボヘミアン・ラプソディ』である。
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『ボヘミアン・ラプソディ』は『ボヘミアン・ラプソディ』だけど『ボヘミアン・ラプソディ』じゃない。
クイーンの映画を作るにあたって、クイーンで最も売れた楽曲であるこの「ボヘミアン・ラプソディ」は避けて通れなかったと思う。
「We Will Rock You」や「We Are The Champion」ならあり得たかも知れないけど、映画のタイトルにしてしまうとありがちで薄っぺらい。
前述した通り、僕にとってこの映画は「Somebody To Love」だな、と思った。
それでもバンドの波乱万丈の歴史を語る上で「Bohemian Rhapsody」も決して間違っていないし、「Somebody To Love」だとクイーンの映画だと気づいてもらえない可能性もある。
劇中フレディが歌う曲は字幕で日本語訳が出るが、この「Somebody To Love」はあくまでもBGMであり、日本語訳歌詞は出てこない。
日本語訳を載せたり、わざわざタイトルにしたりなんて説明的なことをするのは、野暮ってもんだ(と思うことにする)
それにしてもこの『ボヘミアン・ラプソディ 』
クイーン映画部分の、成功まっしぐらで、興奮し心震えるパートと、フレディの個人を描いた、孤独と矛盾と暴挙にまみれた切ないパートはどちらも素晴らしく、この映画に欠かせない要素だと思えた。
しかしこの2つのパートはより一層濃密に、どちらの魅力も殺さずに、バランスよく描けていればと、ちょっぴり惜しく思う部分もある。
でも、最後のシーンで「惜しい」なんて言葉は吹き飛んだ。
家族、”友人”、そしてクイーン。
そして「クイーンを愛する名も知らない誰か」
お金やセックスが全てではない、「繋がり」のある彼らを、神様の力を借りず自分の力で、時には電話帳で調べたりしながら、見つけることにより救われる。
映画終盤、最初のシーンと同じく「Somebody To Love」の流れる中、フレディが彼らと再会し、ライブを終え、映画が終わるまでるまでの間が、
それまでキラキラているけど断片的だったいくつかのシーンを、まとめて凌駕し、包み込んで救い上げるようなレベルで、最高で、最高すぎて、この『ボヘミアン・ラプソディ』は涙なしには見れなかった。
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