僕のブログではないのですが、まずはこちらの記事をぜひ最後までお読みください。
製作費 約309億8,700万
上映時間 92分
1分あたり単価 約3億3千万
やはり世界で最も金で殴っているのはディズニーだった。恐るべき結果だ・・・。
1分あたり3億3千万。何気ない1分間に平均で3億3千万が費やされている。途方もない、としか言いようがない。
すごいですね、「塔の上のラプンツェル」
1分あたり3億3千万というものすごい贅沢な映画です。
もちろんアニメ作品ということで他の実写映画に比べると100分近く短いのでそこで単価が上がってしまっているというのもあるのですが、この「塔の上のラプンツェル」は製作過程でどうしても予算が上がってしまう出来事がありました。
そこら辺も含めて今回は「塔の上のラプンツェル」を再考してみたいと思います。
目次
- 目次
- 『塔の上のラプンツェル』は記念碑であり、象徴
- 『塔の上のラプンツェル』のアイデア
- グレン・キーンのこだわり
- キーンの病気、監督交代、名シーンの誕生。
- タイトル変更、プリンセス&ヒーローの大冒険バディムービー
- 公開、そして評価
- まとめ
- 関連記事
『塔の上のラプンツェル』は記念碑であり、象徴
「塔の上のラプンツェル」という作品はディズニーアニメーションスタジオ作品として第50番目に作られた映画です。
ディズニーは複数の映画を同時進行で製作しながらスケジュールを調整していくので、どこまで「50番目にこの映画をぶつけよう」という意図があったのかは不明ですが、この50という数字がディズニーにとってもやはり象徴的で勝負の数字だったのだろうということは容易に見てとれます。
「塔の上のラプンツェル」のソフトには「Count Up to 50th Animated Motion Picture」というボーナス映像が収録されています。
こういうの大好きなのでもっと軽率に作って欲しい。
この記念すべき50作目の「塔の上のラプンツェル」は2006年にディズニーアニメーションスタジオのCCOを兼任することとなったピクサーのジョン・ラセターのもと、ディズニールネサンスを支えた大御所アニメーター、グレン・キーンが中心となって進められていきました。
題材はグリム童話、そしてディズニー王道のプリンセスもの。
ピクサーのブレイン、ルネサンス期のアニメーター、プリンセスの童話原作。ディズニーは最強の布陣を持ってこの記念碑的作品へと挑戦します。
が、我々が思っている以上にスタジオ内は混乱していたようです。
『塔の上のラプンツェル』のアイデア
グレン・キーンが「塔の上のラプンツェル」のアイデアを思いついたのは作品公開の14年前、1996年ごろと言われています。ルネサンス期ど真ん中です。
2003年頃に2007年公開予定でCGアニメでの映画化の話が立ち上がるのですが、時のディズニーCEOマイケル・アイズナー による提案が「現代のサンフランシスコに住むヒロインが童話の世界に入り込む」というぶっとんだ内容だったらしく、キーンが対応しきれずに計画は頓挫してしまいます。
それ・・・「魔法にかけられて」の逆パターンやないか!!
このエピソードは後にディズニースタジオの社長を兼任するピクサースタジオ社長のエド・キャットムルが語ったものです。
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実写映画「魔法にかけられて」は「塔の上のラプンツェル」を思わせるイースターエッグが存在しているので、撮影が開始された2006年ごろには「塔の上のラプンツェル」の計画が進んでいたのだろうと思います。
2005年にマイケル・アイズナーCEOが辞職、その後任はロバート・アイガーが引き継ぎます。
「塔の上のラプンツェル」の製作が滞った状態で放置されていた2006年、ピクサースタジオがディズニーに友好的に買収され、エド・キャットムルとジョン・ラセターがディズニースタジオへとやってきます。
そして、「プリンセスと魔法のキス」で手描きアニメーションの分野を力押しで復活させ、滞っていたラプンツェルの企画も再始動されます。
グレン・キーンのこだわり
「ラプンツェル」は3DCGで製作されましたが、当初グレン・キーンは手描きアニメーションでの製作を希望していました。スタジオの意向がCGだったために、キーンはスタッフたちを集めて意見交換。2D(手描き)と3DCG、どちらが作品をよりよくするかという議論を重ね、最終的に3Dで製作されることが決定します。
しかしながら、当初から手描きアニメーションに強い思い入れがあったキーンは、「3DCGによる手描きアニメーション」や「鉛筆で書いたような温かみのある質感」を目指しました。
グレン・キーンが目指したものは当時の技術では難しく、様々な試行錯誤とCG製作ソフトの開発がなされました。
特にラプンツェルの髪の毛の表現はかなり困難で、2010年11月公開であるにも関わらず、2010年3月に「Dynamic Wires」と呼ばれるソフトを開発するまで試行錯誤が続けられたと言われています。
この映画の制作費が莫大に跳ね上がったのも、このソフト開発によるものが大きいかと思われます。
その試行錯誤の甲斐あってか、「ラプンツェル」以前のディズニースタジオCG作品である「チキン・リトル」「ルイスと未来泥棒」「ボルト」などとは、CGの質が格段に違うのが目に明らかです。
また「プリンセスと魔法のキス」を2Dで作ったことでスタジオでのノウハウの引き継ぎや、2D製作により生まれてしまう問題点などが浮き彫りになったことも、おそらくディズニースタジオとしては「ラプンツェル」以降のCG作品のクオリティを高めるのに寄与していると思われます。
2011年の「くまのプーさん」以降、再び手描きアニメーションの部門は閉鎖されますが、CGで作られた「塔の上のラプンツェル」はディズニースタジオに再び黄金期をもたらす作品になりました。
キーンの病気、監督交代、名シーンの誕生。
当初グレン・キーンが監督として製作を進められていたラプンツェルは、2008年にバイロン・ハワードとネイサン・グレノという若手の監督コンビに交代することが発表されます。
後にわかったことですが、キーンは当時心臓発作を煩わっていたとのことです。
交代後のキーンは製作総指揮として作画を中心にスタッフへのアドバイスを続けていました。
また、バイロン・ハワードが監督を務めたことにより、「塔の上のラプンツェル」でもっとも印象的で重要となる要素が追加されます。
それがラプンツェルの誕生日に飛ばされる、「空飛ぶ灯り」のシーンです。
バイロン・ハワードがインターネットで見つけた、東南アジアなどのランタンフェスティバルを参考に作られたこのシーンは、アラン・メンケンが作曲した「輝く未来」(I see the light)の素晴らしさもあいまって、「アラジン」のA Whole New World以来の屈指の名シーンとなりました。
このシーンが産まれたというだけでも、ハワードが「ラプンツェル」の監督に選ばれたのは大正解だったと言っていいかと思います。
彼はその後、ジョン・ラセターに自ら企画を持ち込みアカデミー賞作品となる「ズートピア」を製作します。
まさに、次世代を担うディズニーの才能あるスタッフのひとりとなりました。
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タイトル変更、プリンセス&ヒーローの大冒険バディムービー
当初「Rapunzel」というタイトルで公開予定だった「塔の上のラプンツェル」は「プリンセスと魔法のキス」(Princess and the Frog)の興行収入を見て「Tangled」というタイトルに変更されます。
これはディズニーにより「プリンセスを意識させるタイトルでは男性客に敬遠される」という理由からでした。
「塔の上のラプンツェル」は製作当初から「恋愛もの」である以上に「プリンセスとヒーローの冒険バディムービー」として強く意識して作られていました。
のちのプリンスでありヒーローのフリン・ライダーの造形は何度も変更され試行錯誤され、皮肉屋でイケメンすぎず同情の余地がある素晴らしいキャラクターとなりました。
映画では彼が飛んだり跳ねたり走り回ったりするシーンが多くかなり印象が強いほか、プリンセスであるラプンツェルもそれに付いて回るだけでなく、協力して戦い、活躍する。次世代のプリンセス像の確立に一役買いました。
プリンセスであるラプンツェルも、歴代のプリンセスのように全てが完璧で男性好みというわけではなく、もごもご喋ったりもすれば、長く幽閉されたことが原因でメンタルの浮き沈みが激しく手に負えなかったりするなど、魅力的ながら共感も得られやすい「平凡さ」すら兼ね備えています。
生まれて初めて体験する未知の世界を、広大な森の中を、靴も履かずに大冒険する彼女の姿は、王国城下町で誰彼構わず手を取って踊りに巻き込むその姿は、歴代のプリンセスの誰とも違う、新たな魅力を放っています。
"Tangled"(「こんがらがっている」という意味の形容詞)というタイトルも、ラプンツェルの長い髪の毛を表しただけでなく、魅力的で活発な女性に自分の運命が巻き込まれるという男性視点のダブルミーニングも含まれていると語られています。
公開、そして評価
満を辞して公開された塔の上のラプンツェルは増えに増えた制作費をものともしないレベルで大ヒットを飛ばします。
数々の賞にノミネートされ、技術的にも、そして作品内容的にも「古き良きディズニー」と「現代的にアップデートされたディズニー」の共存は高く評価されました。
日本では公開日前日に起きた「東日本大震災」の影響によりかなり収益が落ち込んでしまうこととなりましたが、その後じわじわと人気が高まり、2022年には東京ディズニーシーにエリアが生まれるなどの大躍進も遂げています。
ラプンツェルの吹き替えに中川翔子が参加したことも話題となりました。よくある芸能人声優というような感じではなく、ラプンツェルの魅力を存分に発揮した素晴らしい演技だったと思います。
まとめ
「塔の上のラプンツェル」はいいぞ。
かつて「きつねと猟犬」という作品が、ディズニースタジオが暗黒期からルネサンス期へと転換する際に、スタッフたちのバトンタッチとなりました。
ジョン・ラセターが台頭した2000年代の黄金期へのバトンタッチとなる作品は「プリンセスと魔法のキス」や「くまのプーさん」だったかもしれません。
じゃあこの「塔の上のラプンツェル」は何か?といえば、その黄金期を決定づけた「リトル・マーメイド」ような作品に近いと思います(だから「アナ雪」は「美女と野獣」で「シュガラ」は「ライオン・キング」で「ベイマックス」は「アラジン」)
2010年以降のディズニースタジオの大躍進は皆さんも知っての通り。
スタジオ内で様々な議論や、新しい技術の開発がなされ、監督交代やそもそも社長の交代などいろんな事件が起きながらもこの名作は生まれました。
バイロン・ハワードは「ズートピア」でアカデミー賞を取り、ラプンツェルのあとディズニーを去ったグレン・キーンも新たに設立した自社スタジオでNBA選手のコービー・ブライアントとともに「Dear Basketball」という短編映画でアカデミー賞を受賞します。
どんな作品も会社やコンピューターが「ぽん」と生み出すのではなく、いろんな人々の努力や涙や、出会いや様々な偶然が重なって生まれていきます。
そういうことにふと思いを馳せて「やっぱりディズニー映画は面白いなぁ」とますます思うのです。
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