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ディズニーファン向け娯楽ブログ

『ソー:ラブ&サンダー』の悪ふざけを、ずっと受け止めきれずにいる。

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ソー: ラブ & サンダー (字幕版)

 

結構前の話ですが、『ソー:ラブ&サンダー』を観たよ。

ちゃんと劇場で見たのだけど

なんやかんやで感想を書くのがこんなにも遅くなってしまいました。

 

タイカ・ワイティティ監督の作品は『マイティ・ソー:バトルロイヤル』("Thor:Ragnarok")はそれなりに面白いかな、という感じで

サーチライト・ピクチャーズで作った『ジョジョ・ラビット』がとても良くて大好きだったので、本作もまぁまぁ期待はしていたのですが

何となく求めていたものとは違っていた上に、私の価値観と相違する部分もあり、結構苦しい作品でした。

 

目次

 

もっとジェーン・ソーが見たい

アイアンマン、キャプテン・アメリカ、ハルク、ブラック・ウィドウ、ホークアイといった初期アベンジャーズの面々が、次々とヒーローとしての継承と引退を行なっているMCUフェーズ4、『ソー:ラブ・アンド・サンダー』も、予告から大々的に「ジェーン・ソー」を登場させることでその継承を行うものかと思っていた。

 

ところがナタリー・ポートマン演じるジェーン・フォスター博士=女性版マイティ・ソーは本作で登場して、本作でその役目を終えるキャラクターであった。

これはコミック原作に比較的忠実な描写であるらしく、

確かに現代医学で治癒不可能なガンを宣告されたジェーンが、超医学的なムジョルニアによる代替療法で病を克服しようとして、むしろそのパワーを受け止めきれずに蝕まれていくという流れは理解に容易いし、

いくらアメコミファンタジー映画とはいえ、「神の力で病気が治って無敵になっちゃいました!みんなも信仰を大事にしましょう!」みたいな流れになってしまうのは絶対的に危うい。

 

もうこれは、「ただの人間であるジェーン・フォスター博士が、どうやってソーの力を手に入れたのか?」を描く上で、どうあがいてもリアリティを欠いてしまう中で「死という代償」を条件にその力を与えるというのは、理性的で仕方ない。

少なくともこの映画の中でナタリー・ポートマン演じるジェーン・ソーはその魅力を余すことなく表現できていたので、飲み込むしかない。

 

ただ、他のヒーロー達が継承と引退を描いて行く中で「クリヘムソー、まだやるの?」という気持ちもなくはなく、ジェーン・ソーの活躍を今後も期待しながら映画を観ていた身としては少し残念でもある。

 

まぁ、私の想像とは全く異なるながらも、結果として「継承」に関して言えばこの映画の最後にきちんと描かれてはいるし、

ムジョルニアのパワーを一時的でも手に入れたジェーンは「神としての死」によってヴァルハラへ行けたので、ヴァルハラから新たな冒険が始まる可能性も無きにしも非ず・・・それこそ、このタイムライン上ではロキもサノスに殺されていてヴァルハラにいる可能性があるので、やろうと思えばロキとの絡みも見せられるのではないかな。

ディズニー+オリジナルドラマの『ムーンナイト』で死後の世界への言及があり、さらにはそれと『ブラックパンサー』の「祖先の平原」との繋がりも示唆されたので、死後の世界を渡り歩くユニバース、できんこともないんではないか。妄想だが。

 

「救いようのない神」を殺すソーとゴア

本作の着目すべきポイントは、ヴィランのゴア・ザ・ゴッドブッチャーの存在である。

 

これまでの『マイティ・ソー』シリーズのヴィランは、ソーの身内であるロキ(『マイティ・ソー』)、もしくはヘラ(『マイティ・ソー:バトルロイヤル』)。そしてソーの父親に恨みを持つダークエルフのマレキスという面々で、中でもマレキスが登場する『マイティ・ソー/ダークワールド』はMCU内でも1、2を争う不人気作でもある。

今後の作品の重要なキーとなる「インフィニティ・ストーン」のひとつ「リアリティストーン」というアイテムを登場させながらイマイチその石の効力もパッとせず、それを手に入れようとするマレキスらダークエルフらもパッとせず、キャラが立っていない。マレキスによって殺される「ソーの母フリッガの死」という重要局面をもってしても、ソーというキャラクターの葛藤と成長が描かれるのは『アベンジャーズ/エンドゲーム』まで待たねばならず、一方で「母の死」に向き合うキャラクターとしてはロキにその役割が担わされていた(一瞬で終わったけど)

 

一方でゴアというキャラクターは、実を言えばソーとは全く接点のない、ごく一方的な逆恨みによってソーの前に立ちはだかる。

黄金の神ラプーによって裏切られ、愛すべき娘を失ったゴアは神を殺せる剣「ネクロソード」の力を手に入れて(むしろ取り憑かれるように操られて)、神殺しの復讐を行う。その神殺しの一環に、アスガルドの(元)王ソー・オーディンソンがいたというだけなのである。

このゴアを怪演しているのが名優クリスチャン・ベールである。絶望的なまでに重く、暗く、恐ろしく、そして悲しいキャラクターであるゴアを迫真の演技で演じて見せ、この映画の序盤から視聴者を引き摺り込むのである。

 

また、物語中盤、ソーの一行は最強の神々のチームを作りゴアに対抗すべくオムニポテンツ・シティへ行き、援軍を要請しようと目論むが、ソーは憧れの神ゼウスに援軍を拒否されてしまう。

憧れのヒーローであったゼウスの、保身のための甘い発言と臆病さに失望し、怒りをあらわにしたソーは最強の武器サンダーボルトを手に入れるためにゼウスを殺してしまう(最終的には生きていたことが明らかになるが)

 

これは、ゴアとソーという、基本的にはなんの繋がりもないヴィランとヒーローが、「救いようのない神」によって裏切られて失望し、怒りに任せて「殺す」ところまでを反復させ描くことで、この物語の本質を描いている。

ゴアでこそ、本来は「悪人」ではないのである。

 

その手に入れた力を「復讐」のために使うのか、しかも自分が失った「子供」を人質に取ってまで。

そこがゴアがヴィランたる所以であり、その逆で、手に入れた力を子供達に分け与え、ぬいぐるみですら「反撃の武器」に変えてしまう、守るべき命のために身を呈して戦うという行動が、ソーのヒーローたる所以でもあるのだ。

 

ヴィランの悲しさや、残酷さを描きつつ、その対比としてのソーのヒーロー論を描く。そこにジェーンという恋人との絡みも込めて、ソーという「子供のまま育ってしまったような男」の成長を描く。

こうまとめると、すごくいい映画のように思えてくる。

 

けど実際は、クリスチャン・ベールの怪演が嘘みたいに思えるくらい、シリアスな場面をぶち壊すギャグシーンが合間合間に登場して辟易するし、

ソーがゼウスに裏切られるシーンも、ゼウスの無駄に長すぎるシュールな見せ場シーンに長尺をつかった他、(子供達がゴアに人質に捕らえられているとはいえ)ソーが「裏切られた」とするにはあまりにも展開として弱い。絶大な力を持っているのはわかるが、戦いを嫌がっている人を無理やり戦場に連れて行くのは賢明とは言えないし、だから殺すのもどうなんだ。まぁ、すっぽんぽんにされて恥はかかされたので怒る気持ちはわかるが。

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子供を政治の犠牲にするな

私はこの映画が始まって、ゴアの神殺しのオリジンを見た時、こう思った。

「子供を政治の犠牲にするな」っていうテーマなのかな?と。

 

ゴアの種族は金の神ラプーを信仰する一族の生き残りで、彼は荒廃した砂漠で水も食料もなく、愛娘を失う。

だが、ゴアの世界には実際に神、ラプーが存在していて、その気になれば彼の一存で水や食料を与えることもできたのである。

ラプー自身は「信仰する人々が神のために死ぬことは当然のことだ」と考えていて、ゴアの娘はその犠牲となったのである。

神を統治者とすれば、ゴアは民衆の一人で、私はこの物語の冒頭に政治批判的な側面を見た気がするのだ。

 

それでも、この勘は間違っていたのかな・・・と思ってしまったのが、主人公、およびヒーローであるソー自身が、率先して子供達を戦争に巻き込んでいるような描写である。

 

ニューアスガルドの子供達は、100歩譲っていい。

彼らはただ単にゴアに誘拐され、なすすべもなく怯えていたところを、ソーによって「身を守る術」を与えられたにすぎないのだから。

私が気になったのは、ゴアの娘「ラブ」の描写である。

 

ネタバレすると、物語の結末で、ゴアの娘「ラブ」は生き返る。

「永久」にたどり着いたゴアが本当に願うのは「すべての神の死」ではなく「愛する娘が生き続けること」だったからである。

 

ゴアにより娘のラブを託されたソーは、またもやタイカ・ワイティティの悪ノリコメディ展開に乗っかって、海外ドラマみたいなアットホームなパパを演じつつ、ラブとともに戦場へ向かう。

 

戦場へ向かう?

マーベル世界において「大いなる力には大いなる責任が伴う」のがセオリーではあるけれども、いくらスーパーパワーを持っているからといって、ゴアがあらゆる神を殺して、ソーからストームブレイカーも奪って、「永久」にたどり着いて、自身の悲願であった「娘の蘇生」を成し遂げたのに、その娘を託されたソーはその子を戦場に向かわせるのか?倫理観どうなってんの?

 

本当に「ふざけすぎてるけど、まぁタイカ・ワイティティだから仕方ないか」くらいの感じで、まぁまぁ楽しんではいたのだけど、最後の最後で私の価値観との相違がハンパなくて、一気に嫌いになりました。

 

素材はいいのに、調理の仕方を間違った

というわけで、今回は「割と期待していた分、失望がすごかった」作品かな、と思います。

期待していたっていうほど期待もしていなかった気がするんだけど、本当に失望がすごい。

 

ジェーン・ソーにしろ、チャンべのゴアにしろ、ヴァルキリーやクロナン人のさりげないクィア要素にしろ、素材はいいのだけど、結果的にできたものがふざけすぎてとっちらかっていて、少なくとも読解力のない私には何が言いたいのかわからなかった、です。

 

もう一度、『ジョジョ・ラビット』みたいな作品を作ってくれよ。

 

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