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『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』あり得た「幸せ」に別れを告げて。

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ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス (字幕版)

『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』(原題:Doctor Strange in the Multiverse of Madness)を観た。

すごい濃度だったね。

 

まだ『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』やもっと言うと『ブラック・ウィドウ』の感想も書いてないのだけど、そもそも求められてない気もするので良いことにする。

 

ここずっと心にも時間にも余裕がなかったこともあり、どういう話になるかあんまり予想もできてなかったので、その分衝撃展開に「なんだってーー!」と楽しめたので良かったです。

 

語るね。

 

※この記事は映画『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』のネタバレを含みます。

 

目次

全く予想していなかった

今回、事前予想を一切しておらず、トレーラーもそんなに繰り返し見ていなかったこともあり、

それが功を奏して新鮮に劇場で楽しむことができた。

 

当初から本作は、アベンジャーズのメンバーであるスカーレット・ウィッチことワンダ・マキシモフの登場が発表されており、その前日譚とも言えるDisney+オリジナル・シリーズ『ワンダヴィジョン』が公開されていた。

そのドラマでは、ワンダの悲劇的なバックグラウンドの説明と、彼女が力を抑えられなくなってしまって発生した暴走(ウェストビューでのヘックス事件)、そして彼女がさらに新たな力を手に入れ「スカーレット・ウィッチ」となるまでを、シットコム風のコミカルかつ不気味な演出で描いている。

 

その『ワンダヴィジョン』を全話見た上でも、私は本作でワンダがヴィランとなる事を予想できていなかった。なんてこった!

 

前述の通り、この予想外はサプライズとして映画を観ながら楽しめたので結果オーライなわけだが、よくよく考えるとトレーラーでもワンダがストレンジに「あなたはヒーローなのに私は悪役なの、不公平よね?」みたいなセリフを言っていた気がするので、「もしかしてみんな気づいてたのか…?」とちょっと恥ずかしかったりもするのであった。

 

ワンダは初登場の『エイジ・オブ・ウルトロン』から(正式なデビュー作は『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』のエンドクレジット映像だが)「強大なパワーを持ちながらも、若さと精神的な揺らぎによりパワーをコントロールできない女性」として描かれており、それはシリーズとして一貫していた。

これまでは、サノスとタイマン張れるレベルの力を持ち合わせていながらも、そういう「弱点」を持っているという、パワーバランス調整的な要素を制作側の意思からも感じられたし、それはそれで受け入れられていた。

サノスが倒れ、『ワンダヴィジョン』で自身の理想や喪失、過ちに真正面から向き合って、さらに強大なパワーを手に入れた今、

「どうしてまだ『ワンダは精神的に弱い女性』扱いを受けなくてはいけないの?」という、ファンの気持ちもとてもよくわかる。

 

しかしながら、だ。

『エンドゲーム』時点でサノスとタイマン張れるパワーを持ったワンダが、さらに強力なパワーを手に入れて、理不尽に襲いかかってくる姿は、ヴィランとしてあまりにも魅力的であった。

 

そして、ワンダのファンには非常に申し訳ないが、本作は同じく「強大なパワーを持ちながらも、コントロールできない若い女性」であるアメリカ・チャベスという新キャラクターのオリジンでもあるのだ。

ワンダにはいつかどこかで報われてほしい、と願いながらも、本作におけるエリザベス・オルセンの熱演は本当に素晴らしかったし、アメリカ・チャベスという新たなるキャラクターの誕生を私は純粋に祝福したいと思う。

 

 

MCU初のホラー要素

本作『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』は、MCU映画初のホラー映画テイストの作品として発表された。

これは制作発表段階から大々的に伝えられており、多くのファンが興奮し、あるいは「観れるかな・・・」と不安に思っていたりした。当初1作目を監督したスコット・デリクソンはもともとホラー出身の監督でもあった。

そしてその後、スコット・デリクソンが降板し(制作総指揮として名を残す)、初代『スパイダーマン』3部作を制作した監督サム・ライミが引き継ぐ。彼もまた『死霊のはらわた』等のホラー映画を作った監督として有名だ。(地味に『オズ はじまりの戦い』というディズニー映画も作っている)

そして本作の音楽は『スパイダーマン』3部作でサム・ライミとタッグを組み、またティム・バートン作品などのカルト色の強い作品の作曲でおなじみのダニー・エルフマンが担当。MCUとしては『アベンジャーズ:エイジ・オブ・ウルトロン』以来のカムバックとなった。

 

そんな体制下で作られた本作は、正直全然怖くはなかったものの、所々に「ホラー映画」を思わせる展開とシーンが散りばめられ、

また「次の瞬間絶対に驚かされる・・・」というようなタメの演出が多用されており、いろいろな意味でニヤニヤしながら楽しめた。

中でもカマー・タージの寺院を『エクソシスト』よろしく関節バキバキで這い回るワンダとか、初代『ターミネーター』みたいに無心でストレンジたちを追うワンダとか、さらにはゾンビ・ストレンジの登場は、序盤の伏線がバチっと繋がった上にディズニー+配信の『What if...』のうちの一作やコミックの『ゾンビ・アセンブル』の実写化のようで実に楽しめた。

『What if...』といえば、その他闇落ちストレンジや中盤登場するエージェント・カーターなど『What if...』を見ているとより楽しめる要素が盛り込まれていたのも、ホラー関係ないけどよかった部分だ。

 

 

イルミナティのサプライズ

本作でストレンジがアメリカ・チャベスとともに迷い込むマルチバースのひとつ「アース838」にはアベンジャーズは存在しておらず、その代わりと言えるヒーロー集団「イルミナティ」が存在した。

そのメンバーとは、ストレンジの兄弟子であり、前作終盤に「魔術師殺し」を誓ったヴィランのバロン・モルド、MCU最大の失敗作とも言えるドラマ『インヒューマンズ』に登場するブラックボルト、スティーブ・ロジャースの代わりに超人血清を打ちファースト・アベンジャーとなったエージェント・ペギー・カーター、キャロル・ダンバースの代わりにキャプテン・マーベルとなったマリア・ランボー、ファンタスティック・フォーのリーダーであるリード・リチャーズ、そして『X-メン』シリーズでおなじみのプロフェッサーXことチャールズ・エグゼビアだ。

 

これらのキャラクターたちは、ストレンジたちの世界(アース616)とは無関係であるほか、『インヒューマンズ』『X-メン』そしてこれから制作される『ファンタスティック・フォー』や過去の作品とも関係のない「全く別の存在」とされている。

だが、皆に馴染みのある、同じ俳優が、少し異なった設定の同じキャラクターを演じるということは、それだけでそのオリジナル作品のスピリットを引き継ぐ役目を果たしているし、本作においては「マルチバース」という作品設定も功を奏して、オリジナル作品がMCU世界の裏に実在したマルチバースのひとつとしての解釈の余地も与える。全く異なる作品が繋がる瞬間の爽快感。

最初に『アベンジャーズ』を見た時の感覚を改めて呼び起こすようなお祭り感覚を感じるのだ。

 

このイルミナティのサプライズは、同じくサプライズでお祭り騒ぎとなった『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』の、過去のスパイダーマン勢揃いというミラクルがあったにも関わらず、決して同じ印象に感じなかったのは、『NWH』が湿っぽくドラマティックに彼らを登場させたのに対し、

本作は満を辞して登場した彼らを、あくまで「無数にあるバースのひとつ」として、無惨にも皆殺しにしてしまうというサバサバした演出が効いているからだろう。

アース838においてサノスすら倒したイルミナティたちを瞬殺するワンダもえげつない。

 

そして、MCUとは別の作品で登場したキャラクターを「ちゃんと同じキャラクターで登場させた」というのも、

『ワンダヴィジョン』にエヴァン・ピーターズ演じる『X-メン』シリーズのピエトロ・マキシモフ(ピーター・マキシモフ)が、同一原作のMCUキャラクターのピエトロ・マキシモフとしてサプライズ登場した際、結果的には「同じピエトロじゃないどころか、ピエトロですらない」というストーリーが付けられてしまった事によって、大いに反感を買った事を思うと、非常に誠意のある登場だったように思うのだ。それがたとえ瞬殺される役目であっても。

 

ファンはマルチバースの本格始動を『ワンダヴィジョン』で期待し、大いに肩透かしを喰らい、『ロキ』で肩透かしを喰らい、『スパイダーマン:NWH』と本作でやっと、その楽しみを実感できたのだ。

 

あり得た「幸せ」に別れを告げて

 

ドクター・ストレンジというキャラクター、そして作品は「時間」というテーマに密接に結びついている。

1作目では「アガモットの眼」=「タイムストーン」というインフィニティ・ストーンを司る至高の魔術師として世界の危機を救い、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』では、サノスにタイムストーンを奪わせる事により、逆にサノスに勝つための道を切り開く。

 

だが彼は世界を救うための唯一の判断を下した人物であるにも関わらず、物語冒頭で元同僚のドクター・ウエストに「他の方法はなかったのか?」と問いかけられる。

本作のヴィランとなるワンダ・マキシモフは、ドクター・ストレンジが渡したタイムストーンによりサノスが時間を巻き戻し、愛するヴィジョンの死に様をもう一度見せつけられたことになる。

 

何かを失った者たちにとって、彼の下した決断は「本当に最善唯一の方法だったのか」

「他の方法はなかったのか」と疑問をもたらす。

 

本作はタイムストーンを失ってから初めての『ドクター・ストレンジ』の単独作品となるが、この「不可逆性」を提示することにより、タイムトラベルや時間の巻き戻しをすることなく、改めて彼の物語に「時間」が密接に結びついていることがわかる。

 

そしてドクター・ストレンジもまた、デシメーション(サノスの指パッチン)により消えていた空白の5年間の間に、愛するクリスティーン・パーマーとの恋愛関係が完全に解消されてしまう事となる。

それでも彼は言う「私は幸せだ」と。

彼が彼自身で選んだ全世界の運命を「正しい選択だった」と言い聞かせるために。

 

それが、「マルチバース」の登場により、どこかに別の人生を歩んだもう一人の自分がいる事をストレンジは知る。

ワンダはドリームウォークにより、あり得た「子供たちと幸せに暮らす世界」を手に入れようとする。シニスター・ストレンジは「クリスティーンと結ばれる世界」を求めてドリームウォークし、自分の住むユニバースを崩壊させてしまう。(インカージョン)

ストレンジ自身も、幾つものユニバースを渡り歩き、たどり着いたアース838において、そのバースでストレンジを失ったクリスティーンと出会う。

 

もしかしたら、アース838のクリスティーンとならば、結ばれる運命を辿れたのかもしれない。

それでも彼はあえてアース838のクリスティーンに別れを告げる。

彼自身がユニバースを渡り歩き、「どの世界でもスティーブン・ストレンジは同じ」と実感を持って知るからだ。

シニスター・ストレンジが言ったように「クリスティーンと幸せになるユニバースはなく」アース838のイルミナティのメンバーが言うように、勝利のために手段を選ばずドリームウォークを使用してしまう。

思い返せば1作目では好奇心から禁断の魔術を使っていたし。

 

それでも彼が他のユニバースのストレンジと違ったのが、彼がクリスティーンの言う「自分でメスを握らなければ気が済まない人」から、一歩前進し、最後の一撃をアメリカ・チャベスを信じて託すようにした事だ。

これによりワンダが起因となるインカージョンを防ぎ、他のユニバースであり得た「アメリカを殺そうとするストレンジ」という構造を脱したのである。

また、全てが解決したあと、ストレンジはクリスティーンにこれまでなかったほど素直に、彼自身の本音を吐露する。

あり得た、他の世界の「幸せ」を掴むためではなく、ただ想いを伝えるためだけに。「伝えない後悔」を払拭して今の世界で本当の幸せを掴むために。

 

アース616のストレンジの選択は、いつだって、誰よりも正しい。

それは他のユニバースと比べてもだ。

だからこそ、『アベンジャーズ/エンドゲーム』において、エンシェント・ワンは彼を信じてブルース・バナーにタイムストーンを託したとも言える。

 

「ノー・ウェイ・ホーム」くらいエモかった

サム・ライミマジで映画撮るのが上手い。

 

制作初期から過去のスパイダーマンが集結する噂が流れ、実際に結実した『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』ももちろんエモかったし、お祭り騒ぎの楽しさというのはかなりあった。

 

私にとって『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』はそれに匹敵するくらい、いやそれを超えるくらいのエモさを感じられた作品だった。

序盤に話したように、どんな物語になるのか全く想像せずに挑み、まったく予想しなかった展開が繰り広げられていた。にもかかわらず、「観たかった、期待した何か」が映画の中にはふんだんに詰まっていた。

主人公スティーブン・ストレンジのパーソナルな想いや、決断をしたことによる後悔、あり得た「幸せ」そして「それを手に入れる力」を持ちながら、世界のために、自分のためにそれを手に入れるという決断はしない、

ストレンジの至高の魔術師としての相応しさを物語る内容であった事に感動を覚えた。(本作では至高の魔術師の座をウォンに譲っているが)

 

『ワンダヴィジョン』を経て以降のワンダの扱い方に関しては批判こそ多かった本作だが、私としては大きな矛盾も感じず、エリザベス・オルセンの怪演もあってMCU初の「闇落ちするアベンジャーズ」が最高の形で観れたことが嬉しかったし、むしろ「スティーブン・ストレンジ」という人物をこれほどまでも理解して描いてくれた事に感謝している。

 

結果としてドクター・ストレンジが行った「ドリームウォーク」の代償が、今後どういう形でアース616に影響を与えるのかは、これ以降の作品次第となるが、

たとえむちゃくちゃな選択をしても、きっと最後はストレンジが正しいとわかる。

きっとそんな気がする。

 

 

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