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『シャン・チー/テン・リングスの伝説』「ありのまま」は負の面をも受け入れること。

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シャン・チー/テン・リングスの伝説 (オリジナル・スコア)

『ブラック・ウィドウ』の感想も、早く書こうね。

 

というわけで、観て来たぜ『シャン・チー/テン・リングスの伝説』

IMAXで観るのは『アナと雪の女王2』以来な気がするな。

 

で、この『シャン・チー』

主演はほぼ無名のアジア人俳優、コテコテのステレオタイプ中華色全開のあのトレイラーなどで、不安要素もあるにはあったのだが、

 

もう、文句のつけようがないくらい快作であった。

いや、多少の文句は言うけど。

 

※当記事は現在公開中の映画『シャン・チー/テン・リングスの伝説』の内容に触れます。

 

目次

 

存在自体に価値のある映画

身も蓋もないことを言う。

『シャン・チー/テン・リングスの伝説』は存在自体に価値のある映画だ。これはもちろん、ポリティカル・コレクトネスの文脈において。

 

これまでMCUのメインおよびサブ・キャラクターを演じたことのあるアジア系俳優は、ファラン・タヒール、浅野忠信、ケネス・チョイ、キム・スヒョン、ポム・クレメンティエフ、ジェマ・チャン、ジェイコブ・バタロン、ランドール・パーク、真田広之、そして本作にも出演するベネディクト・ウォンやベン・キングスレーなどがいる。

それでもいわゆる「ヒーロー」にあたる役柄を与えられているのはホーガンを演じた浅野忠信、マンティスを演じたポム・クレメンティエフ、ウォンを演じたベネディクト・ウォンくらいまで絞られる。

 

急速に成長する中国映画市場と、『クレイジー・リッチ!』や『フェアウェル』などのヒット作で描かれる「アジア系アメリカ人」のアイデンティティの追求、そして主要キャストをアフリカ系アメリカ人で固めたマーベル・シネマティック・ユニバース作品『ブラックパンサー』の大成功もあり、この『シャン・チー』を主要キャストをアジア系で固めて制作するのは「作る側としても」「観る側としても」求められている作品と言えるだろう。

実写版『ムーラン』で、作品内容とは関係ないところでいろいろとやらかしてしまったディズニーにとって、この『シャン・チー』は肝入りの作品だっただろう。

(の割に、社長自ら「壮大な実験」とか言っちゃって主演俳優に叩かれる失敗を早速犯しているが)

 

天下のディズニーが制作する、社会現象を巻き起こしたマーベル・シネマティック・ユニバースで、ビッグバジェットをかけて、無名といってもいい中国系俳優が主演を務め、その他メインキャストもほぼアジア系で固められたヒーロー映画。

 

このブログでも何度か繰り返し伝えているが、これは映画の存在自体が「あなたのような人たちが存在していい」という、ポジティブなメッセージとなる「Representative Matters」を体現しているのである。

 

だからもう、内容を鑑みるまでもなく、この映画の存在は「強い」のだ。

 

今後公開予定の『エターナルズ』ではジェマ・チャンが別の役柄で再出演、韓国俳優のドン・リー(マ・ドンソク)とパキスタン系のクメイル・ナンジアニらが出演予定であるし、監督は『ノマドランド』を監督しアカデミー賞に輝いた、中国人のクロエ・ジャオが務めるとあって、実に楽しみである。

 

www.sun-ahhyo.info

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軽快な、エンターテイメント&アクション

『シャン・チー』は前述した主要キャストがほぼアジア系、だからこそ存在自体に意味があるという「強み」を完璧に活かした映画である。

 

この映画は、アフリカ系アメリカ人をメインキャストに据え、黒人社会の現実や問題点、それらとどう関わっていくかという「問題提起」を行い大傑作となりアカデミー賞作品賞にまでノミネートされた『ブラックパンサー』や、女性の自己決定権について改めて宣言し直した実写版『ムーラン』やMCUの『ブラック・ウィドウ』とは、かなり性質が異なっている。

 

純粋に「面白い映画」を追求し、それを軸にストーリー構築し、展開やアクションを繰り広げていったような、エンターテインメント全振り映画なのである。

そこには鑑賞後にうんうん唸りながら考えるような「問題提起」はなく、映像に魅入られるがままに楽しむことができる。

コメディ色の強かった『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』や『アントマン』とも、近いようで今までになかったテイスト。いい意味でシンプルに何も考えずに楽しめる映画として、迷わず人に勧められるような作品だ。

 

それは、ちょっと考察とかしたいタイプの映画ファンである僕には(MCUだからこそそういうのを期待していただけに)ちょっと残念でもあるのだが

『ゴジラ対キングコング』や『ザ・スーサイド・スクワッド "極”悪党、集結』『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』といったような、「それ系」作品(厳密には「それ系」でもなんでもないのだが、言いたいことはわかって欲しい)が次々押し寄せる中で、このエンターテイメント全振りっぷりは、MCUだからこそ新鮮で、「攻めて来たな!」と思わせる。そして、このアクションや展開の「インフレっぷり」は、これまでのMCU作品とも引けを取らないどころか、史上最高なんじゃないか?とすら思わせる。

 

これまでもMCUは『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』でポリティカルスリラーを、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』ではスペースオペラを『アントマン』でクライムアクションを、『スパイダーマン:ホームカミング』では学園モノを・・・といった具合に、それぞれの映画で単なる「ヒーロー映画」に留まらない映画スタイルを取り入れて来た。

では『シャン・チー』は?というと、「カンフー映画」「香港映画」のテイストを取り入れているのは目に明らかだろう。

「カンフー映画」の要素を取り入れるに当たって、しっかりと肉弾戦のアクションを描いて来た他、そこはかとない「胡散臭さ」も映画から感じられるようになっている。カラオケは日本発祥だけど、もしかしたら中国かなんかの文化と思われているのかもしれない。

 

それはともかくとして、本作にさらに要素が付け加えられるとすれば、それは「ファンタジー」とMCUにありそうでなかった「怪獣映画」だろう。

中盤、「私はハリー・ポッターやファンタスティック・ビーストでも観ているのだろうか?」という気にさせられたし、終盤はなかなかクライマックスらしいクライマックスがこないな・・・とうずうずしたところに、あの怪物VSドラゴンの激突である。カロリーが高い。

一足早く公開された『ザ・スーサイド・スクワッド "極”悪党、集結』が予告の時点で宇宙怪獣スターロをガンガンに登場させていた分、観客動員という意味ではちょっともったいない気もするが、知らずに観た私としてはビッグサプライズでもあり、「なんか大変なことになっているぞ」と大興奮できる展開でもあった。

 

てっきり、ムキムキの超強いおっさんが戦うだけの映画かと思ったぜ・・・やられたよ。

 

 

「ホワイトウォッシュ」への反省

本作はタイトルにもある通り、「テン・リングス」という組織が再び登場する。

「テン・リングス」は、本作に登場するヴィラン、ウェンウーが設立したテロ組織であるが、MCUにおける初出は『アイアンマン』に遡る。

MCU第1作『アイアンマン』において、主人公トニー・スタークを拉致・監禁した集団であり、『アイアンマン3』においては、そのリーダー・マンダリンが爆破テロを行なっている、という設定であった。

そう、これはあくまで設定なのである。『アイアンマン3』に登場する「テン・リングス」そしてそのリーダー「マンダリン」もどちらも偽物で、犯行予告に使われた映像で「マンダリン」を演じていたのは単なるイギリス人俳優・トレヴァー・スラッテリー、そして、彼に「マンダリン」を演じさせていたのはトニーに個人的な恨みを持つアメリカ人研究者、アルドリッチ・キリアンであった。

 

「テン・リングス」も「マンダリン」も、原作コミックで人気のヴィランだったこともあり、このいわゆる「スカし」の展開はコミックのファンからかなりの批判を受けた。

トレヴァー・スラッテリーを演じるベン・キングズレーはインド系イギリス人でアジア系ではあるが、真の黒幕であるキリアンはアメリカ人だ。(演じるガイ・ピアースはイギリス人)東洋をルーツに持つ「マンダリン」を白人が「演じさせる」というのは、ホワイトウォッシュに対する皮肉とも取れなくもない。

だがそもそも、コミックで人気だった中国人ヴィラン・マンダリンが、映画においてはハッタリでしかなく、その正体は白人だった、というのはホワイトウォッシュ以上の屈辱ではないだろうか。

 

この「偽マンダリン」に対する反発はかなり大きく、MCUではこれを弁明するために、『マーベルワンショット』というミニシリーズで、当時まだ姿を見せていない本物の「マンダリン」が、刑務所から「偽マンダリン」ことトレヴァー・スラッテリーを誘拐するという映画を作っている。『王は俺だ』という作品である。(『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』のボーナスコンテンツに収録)

 

『シャン・チー』において、「テン・リングス」を再び描きなおすというのは、ただの伏線回収ではない。

MCUが自ら犯した過ちである「偽マンダリン騒動」をホワイトウォッシュに抗う形で、尻拭いしているのが本作の肝でもある。

主要キャストをアジア系で固めたからこそ、この「反省」も、ある種の決意に見えてくる。

 

父と母、そして子

MCUではもはや定番になりつつあるが、本作もまた「父と子」が軸にある物語である。

本作のヴィラン、トニー・レオン演じるウェンウーは妻を亡くした恨みと悲しみから、退いていた闇の世界へ舞い戻り、復讐と亡き妻を取り戻すために世界を危機に陥れてしまう。ウェンウーの息子であるシャン・チーは、父を止めるために彼と戦うのである。

 

この構造は実に『スター・ウォーズ』旧三部作的であり、日本で言えば『エヴァンゲリオン』的でもある。

妻を亡くした悲しみで暴走する父を止める息子の物語。最強の父と、弱々しい(く見える)息子、息子の力を自分のものにしようとする父、といった要素がそっくりである。

これらが多くの作品で定番として描かれるのには、ひとえに冷徹非道なヴィランであるキャラクターに人間味を持たせることや、観客に同情の余地を与える効果があるからだろう。

 

ディズニーはつい最近『クルエラ』で「毒親に同情の余地なし」という映画をやったばかりだ。

愛する妻を失ったからとはいえ、息子を暗殺者に育て上げたヴィラン・ウェンウーは、誰がどう観ても「毒親」だ。

それでも、「妻が生きている間はいい父親だった」描写や、ウェンウーの最期、シャン・チーをかばう描写などで、「どれほどの悪人でも家族は大事」という表現を織り込んでいる。

 

中国を舞台として中国人をヴィランに据えているからこそ、ただの冷徹非道なキャラクターでは好ましく思われないと政治的判断が働いた可能性もなくはないだろうが、トニー・レオンの名演もあって、ウェンウーというキャラクターは実に魅力的になっている。

 

『シャン・チー』が描く「ありのまま」

冒頭で少し触れたが、この『シャン・チー』は、彼のアイデンティティにせまる物語でもある。

シャン・チーは父親のウェンウーに暗殺者として鍛え上げられ、その初の任務で実の母親を殺した相手を殺害するという任務を請け負う。そしてそれを、「実際に遂行してしまったこと」がトラウマとなり、単身アメリカに逃亡して、身分を偽って暮らすこととなる。

身分や自分の本来の姿を隠すこと、偽ることは「自身が何者であるか」の一時的な喪失でもある。それは同時に、癒しでもあるからこそ、しがないホテルの駐車場係という仕事でも過去の傷を癒しながら生きていくことができるのである。それもある意味では一つの処世術だろう。

 

それでも、シャン・チーという人間は、自分や、友人や、家族や、世界の危機において「立ち向かう力があるのに何もしないのは間違いである」ということを、本能的にわかっているのだろう。

これは「スパイダーマン」のシリーズで繰り返し語られる「大いなる力には、大いなる責任が伴う」の体現でもある。

自らが持つ力で誰かを守るということは、「自分が何者であるか」に改めて向き合うことだ。そして、「自分が何者であるか」と向き合うことは、自分が過去に犯した罪も、世界を闇に陥れんとする父の存在をも背負って、自分の一部であると受け入れるということである。

 

シャン・チーは、自分のもう一つのルーツである、母の故郷「ター・ロー」の探索を経て、自らの文化と力を改めて学び、そして「負の側面をも受け入れる」という訓示を受ける。

 

『クレイジー・リッチ!』や『フェアウェル』などで描かれたように、アジアとアメリカの文化の大きな違いから、自らのアイデンティティを模索し続けるアジア系アメリカン人たち。

彼らを主役とするこの映画は、自らのルーツがなんであろうとも、どういう組み合わせであろうとも、どれほどの闇に包まれていようとも、それぞれがそれぞれに、「自分は自分である」と認めていいのだと、メッセージを送ってくれている。

「アジア人」であることも、「アメリカ人」であることも、誇りに思っていい。

 

反省は教訓に、教訓は生きるための力になる。過去に囚われて行動できなくなることよりも、「過去をもとに、今どういう行動をするのか」こそが何よりも重要だと、この映画は教えてくれる。

 

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まとめ

にしても、『シャン・チー』面白かった。

中国政府に対する忖度がないとは言えない作りだけど、それを超えてエンターテインメントにしてきたのは本当にすごい。そして結局検閲なのかなんなのか、こんだけやって中国で公開してもらえないというのもすごい。

 

深く考えなくてもいい作りにはなっているけど、うっすらと感じるメッセージはやはり「ありのまま」に集約される。ディズニーらしい作りの映画だなと思った。

 

そしてオークワフィナが良い。

今回紹介した『クレイジー・リッチ!』も『フェアウェル』もオークワフィナ出てるしね。全然違うテイストの映画だけど『フェアウェル』のオークワフィナはすごいぞ。

『クレイジー・リッチ!』にはミシェル・ヨーも出てる。

 

 

ベン・キングズレー演じるトレヴァー・スラッテリーの再登場も、しっかりクロスオーバーで伏線回収なのにオリジンの邪魔をしない超良いバランスだったし、あのキャラ自体も良くて超よかった。

アボミネーションとウォンはどういう経緯で仲良くあそこで喧嘩してたのか教えて欲しい。

 

とにかく、マーベル・シネマティック・ユニバースのフェーズ4、『ブラック・ウィドウ』で始まったけど、正直ブラック・ウィドウはフェーズ3までのキャラクターだし、もはやインフィニティ・サーガだと思うんだ。(素晴らしい映画だけど)

 

そういうわけで、『シャン・チー』は真の意味で「フェーズ4の始まり」を告げる映画だったような気がする。

楽しかったね。これからもわくわくするね。

 

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