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世界を旅するDオタの旅行記/映画レビューブログ

『エターナルズ』ではじめる人類愛。個に触れること、個に向き合うこと。

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Eternals (Original Motion Picture Soundtrack)

 

公開されてからもう1ヶ月経ったので、ええとこの映画レビュアーのええ感じのレビューはもう出るだけ出ただろう。

それはそれとして僕は僕で、『エターナルズ』の話をしようと思う。

「この作品はこう読み解く!」とか「こういう見方の映画!」とかではなく、

もう、ただ好きだった話をしていくことにしよう。

 

『エターナルズ』すごく好きだった。

すごく僕はしっくりくる作品だった。

 

※この記事は現在公開中の映画『エターナルズ』のネタバレを含みます。

目次

 

宇宙人だけど、人間臭い、魅力的なヒーローチーム

10人のヒーローたちを、2時間半の一本の映画で、誰一人余すことなく、キャラクターを際立たせて完成させる。

この映画の難しさはそこだろう。

『エターナルズ』はセルシ、イカリス、セナ、ギルガメッシュ、スプライト、キンゴ、ファストス、マッカリ、ドルイグ、エイジャックの10人の新ヒーローが初登場して、物語を紡いでいく。

「ディヴィアンツ」と呼ばれる怪物に対する守護者として地球にやってきた10人のエターナルズの物語はメソポタミアの文明に始まり、実際の人類史と重ね合わせながら展開していく。人類の歴史は戦争の歴史であり、過ちの歴史である。

エターナルズは人類をディヴィアンツから守り、人類の文明を発展させるという使命を託されながらも、人類同士の戦いには介入してはいけない。それは戦争が文明、発明、医療を飛躍的に発展させるからだ。

エターナルズの、少なくとも彼らに名を下したセレスティアルのアリシェムの考える「人類の発展」には、そこで生きる人々「個人」は存在しない。ただ「数」としての、人口増加のみを目的とした「発展」が彼らの使命である。

 

だが、実際に命を受けて地球にやってきたエターナルズらは異なっていた。

アリシェムにより意図的にデザインされた宇宙人であるにも関わらず、無機質でなく、実に人間らしく、ウェットな感情の起伏を持った面々なのである。

人々と言葉を交わし、打ち解け、共存の道を探る主人公のセルシ。人類の戦争に介入し、人々に争いをやめさせ、平和をもたらすべきだと主張するドルイグ。成長しないこと、セルシとイカリスの関係に嫉妬をするスプライト。目立ちたがり屋で、俳優としての名声を求めるキンゴ、等々・・・。

 

私個人の意見ではあるが、本作の面白さは十人十色のキャラクターの面白さと人間臭さ、それらと歴史的事実を重ねた上に浮かび上がる、映画全体にはびこる「人類愛」というテーマの大きさにあると思う。

 

多国籍ヒーローチームなんかカッコいいに決まってるだろ

 

あんまり詳しくないので多くは語れないけど私は石ノ森章太郎の『サイボーグ009』が好きだ。

平成版『サイボーグ009』のアニメシリーズが放送されていたのはちょうど私が小学生くらいの時である。

 

多国籍なメンバーからなり、メンバーそれぞれが個性と特殊能力を持ち、それぞれが自らの生い立ちやサイボーグとなった経緯に葛藤や悩みを持ちながら、自らを創造した悪に立ち向かっていく。時には戦場に生きる仲間として、時には生活を共にする家族として。

多国籍といっても彼らの人種は欧州や米国に偏っているし、特に中国系の張々湖などの描写は露骨なステレオタイプ描写でもある。

石ノ森章太郎のキャラクターやストーリー描写の秀逸さが素晴らしいことも本作が好きな理由のひとつだが、そもそも「色んな国から色んな特徴を持った人達が集まったチーム」って、私個人はどうしようもなくかっこよさを感じるのだ。

『ザ・ドラえもんズ』然り。

 

『エターナルズ』の彼らは宇宙人種のエターナルズなので、地球人のもつ「国籍」は存在しないが、パキスタン系アメリカ人のクメイル・ナンジアニが演じたキンゴは現代でインドのボリウッド・スターとして活躍しているなど、人種的背景を踏襲した設定も意識されている。

 

また、『サイボーグ009』のように、『エターナルズ』もそれぞれが攻撃手段や特殊能力を持っている。マッカリは009、イカリスは002、キンゴは003、ギルガメッシュは005、のように(逆に言えば共通する能力はそれだけなんだけど)

だから『エターナルズ』の予告を見た時から、ずっとワクワクしていたのだ。

 

歴史的出来事から「愛を説く」

発明の能力を持つエターナルズのファストスは、人類の文明の発達過程において、さまざまな「ヒント」を提示することで、人類を手助けしてきた(ということになっている)食物の生産を安定させるための農耕器具などが例だが、時には順序をすっ飛ばしてレオナルド・ダ・ヴィンチ的な発明を古代人類に教えてしまいそうになり制止される。タイムトラベル・パロディみたいだ。

そんなファストスが人類に「失望」し、自らのエターナルズとしてのあり方を見つめ直す出来事が、なんと、第二次世界大戦における広島・長崎への原子爆弾投下という歴史的事実であった。

原爆投下以前、それこそドルイグと決別をした、エターナルズ解散の時には

「戦争は医療の発展に必要不可欠」と言っていたファストスが、

広島の焼け野原で涙を流しながら「私たちは間違っていた」と訴える。

 

アメリカ文化圏において、「原爆投下」は「戦争をやめるために必要不可欠な行為だった」とする考えが主流であるとはよく聞く。

アメリカ映画において、しかも2021年現在もっともヒットしたフランチャイズのマーベル・シネマティック・ユニバースにおいて「原爆投下」を「間違いだった」と表現する。このこと自体が、実に挑戦的であったことを改めて理解したい。

 

セレスティアルズにしてみれば、地球人だってマイノリティ

多様性のあるチームを描くにあたって、一部の人たちは「その人種や属性をキャスティングする必然性」を求めるらしい。

すごい馬鹿らしいんだが、そもそも『エターナルズ』って宇宙人の話なので、そんなことを言い出すと本物の宇宙人を連れてくる以外は、全部不自然だろう。

 

彼らの中には男女の違いだけでなく、地球人で言うアジア系の顔立ちであったり、有色人種であったり、スプライトのような子供にデザインされた者、ファストスのような同性愛者、マッカリのような聴覚障害をもつキャラクターもいる。

7000年もの間、様々な時代、様々な文明において、彼らは守護者として、そして指導者のような立場でそれらの文明に影響を及ぼしてきたという設定である。

そんな超人類的な存在を、逆に白人ヘテロセクシャルの美男美女で固める必要性ってどこにあるだろうか。

 

これらのキャスティングやキャラクターの設定は、明らかに制作側が意図したものだ。

これまで偏見であったり、興収のために無視され蔑ろにされてきた存在に「ヒーロー」としての役割を意図的に与える。

「違和感」をもし感じるのであれば、その違和感の正体や原因が、制作側にあるのではなく自分の中の偏見にあることを、こっそりとでいいから見つめ直してほしい。「こんなキャスティングおかしい」と言う前に。

そもそも本作の説く「人類愛」は「地球人」という大きなカテゴリで判断するのではなく、「個」に触れ合っていこうよ、というのがテーマである。

これらのキャスティングを非難する人たちが見ているのは「有色人種」であったり「同性愛者」であったり「障がい者」というカテゴリでしかなく、それらを演じる俳優や、キャラクターを見てはいない。

何か、映画にとてつもない欠陥があるだろうか?取り返しのつかない自体が起きているだろうか?

彼らはそれらの属性である以前に、「個人」であることを忘れてはいけない。

 

そもそも、カテゴリとしてみることを善とするならば、

アリシェムに個人は見えていないから、

「地球人」は滅ぼされるべき存在なのだ。

 

 

これもまた「優しさ」の映画

本作、『エターナルズ』はざっくり言えば「優しさ」についての映画だ。

MCU世界における広大な宇宙の、ほんの小さな一部である地球における物語である。

この映画、いやMCU世界でセレスティアルを中心とするならば、地球人でさえも「マイノリティ」であることを思い出してほしい。

そんな滅ぼされる運命だった弱小惑星の地球人を「過ちを犯す生き物だけど、全体としてではなく、個人として見れば、全員が悪い奴じゃない。生きていてもいい」と、存在価値を認めていく物語なのだ。また「エターナルズ」自信が、「人類の命を奪い滅ぼすことの傲慢さ」について向き合い、それを阻止することを目指す物語である。

 

彼らは神のような存在でありながら、その内面は実に人間くさくて憎めない存在である。強大な力を持ちながらも完璧ではない。

 

他のマーベル映画とどう絡めていくのか、ちょっとまだ想像つかないし、

解決したようで全く解決してない心残りを引きずったままエンディングになって、そりゃそうだと思わなくもない展開ではあったが、

 

少なくとも私はこの映画、めちゃくちゃ好きだ。

 

ギルガメッシュを殺したのだけは許せないが。

拡大するユニバースにおいては、地球なんて本当にちっぽけで、

そのちいさなちいさな地球で、肌の色が違うとか、誰がどの性別が好きかとかで差別しあってるのなんか、本当にくだらないと思うぜ。そのうち取り残されちゃうぜ。

 

世界は狭い。世界は同じ。世界は丸い。ただ一つ。

そうか。エターナルズは「イッツ・ア・スモールワールド」だったんだな。

 

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