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世界を旅するDオタの旅行記/映画レビューブログ

10周年だから『魔法にかけられて』の素晴らしさを改めて語る。

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魔法にかけられて (オリジナル・サウンドトラック)

夜空に輝く星、"When You Wish Upon A Star"(星に願いを)のメロディーが流れ、次々に打ち上がる花火と、尖塔のアップからだんだんとズームアウトし、シンデレラ城の全体像を映し出す。ティンカー・ベルが妖精の粉で城にアーチをかけると"Walt Disney Pictures"の文字が浮かび上がる。おなじみのスタジオロゴである。

 

今ではもう珍しくなくなってしまったが、この作品はこのままでは終わらずに、再びシンデレラ城へとカメラがズームする。

ズームしたカメラはステンドグラスの向こうの1冊の美しい本を映す。

再び"Walt Disney Pictures presents"と文字が浮かんだ後、その本のタイトルが明らかになる。

 

"Enchanted"

 

これがこの映画のタイトルである。

 

目次

 

「魔法にかけられて」が10周年

"Enchanted"(エンチャンテッド) 邦題「魔法にかけられて」がなんと10周年らしいですね。

つい最近の映画だと思っていたけれど、よくよく考えてみると大学受験を控えた高校生の頃にこの映画を話題にしていた気がするので紛れもなく10年は経っているようです。歳をとるわけだ。

米国公開日が2007年11月21日、日本公開日が2008年3月14日と、どっちつかずのものすごく中途半端な2月の終わりというタイミングですが、改めてこの「魔法にかけられて」という映画の素晴らしさを語りたいと思いました。思いが強すぎるあまりに文章がぐちゃぐちゃになること請け合いだですが、ご了承いただきたい。

 

以下「魔法にかけられて」のネタバレを含みます。

 

目次

 

「魔法にかけられて」あらすじ

おとぎ話の国アンダレーシアの森に住むジゼルは夢で見た王子様と真実の愛のキスを交わしプリンセスになることを夢見る女性。ある日ジゼルの歌声を聞いたエドワード王子と出会い意気投合し、出会って1日で二人は結婚することとなる。

しかし王座を奪われることを恐れたエドワードの継母・ナリッサ女王により、ジゼルは「『いつまでも幸せに』なんていうことがどこにもない世界」(a place where there are no "happily ever after")=現代のニューヨークへと飛ばされてしまう。

誰にも親切にされず路頭に迷ったジゼルはロバートとモーガン親子に助けられるが、おとぎの世界の常識と現実世界の常識とのギャップに戸惑い、次第に「真実の愛」に対する考え方を変えていくようになる。

"Enchanted"「魔法にかけられて」というタイトル

まずはタイトルから。

 

"Enchant" という動詞は「魔法にかける、魅了する」という意味で、それの過去分詞系なので"Enchanted"形容詞として「魔法にかけられた、魅了された」という意味になります。

ディズニーでは映画でもパークでも比較的よく出てくる単語なのですが、おそらく受験英語では習わないかなぁといった感じです。

美女と野獣では魔女を"Enchantress"と読んでいるし、薔薇は"The Enchanted Rose"と表現されています。また、香港ディズニーランドホテルには"Enchanted Garden"というキャラクターダイニングのレストランもあります。

 

実は物語の核心をつくタイトル

この"Enchanted"というタイトル、具体性のないふわっとしたタイトルに聞こえるのですが、映画を見ると実はそうじゃないことがわかります。

 

 この映画は一見、おとぎの国から来たジゼルが現実世界の恋愛を学ぶという「ディズニーによるセルフパロディ」「夢と魔法の否定」「ファンタジーからリアリティーへの移行」に焦点が当たっているように見えるのですが、実はそうではありません。

 

この映画の中では「出会って1日、2日で恋に落ちて結婚するなんておかしい」ということが何度も語られます。が、最終的にはジゼルとロバートは出会ってたった2日で恋に落ち、真実の愛のキスを交わし、「いつまでも幸せに暮らしましたとさ」(happily ever after)の結末へとつながります。

 

また、過去に愛していた妻に一方的に別れを告げられた経験から、「愛は幻想」「夢は叶うなんていうたわごと」("dreams come true"non sence.)と話すロバートに対して、ジゼルは「夢は本当に叶う」("But dreams DO come true.")と反論します。

 

つまり「魔法にかけられて」は、セルフパロディによる「夢と魔法の否定」に見せかけた、夢と魔法にあふれた映画なのです。

 

「想いを伝えて」("That's How You Know")のシーンではセントラル・パークにいるミュージシャンをはじめとした見知らぬ通行人が、ジゼルによって魅せられ(enchanted)、およそ現実世界とは思えないようなミュージカルシーンへと発展します。

 

弁護士のロバートが担当していた離婚裁判の当事者バンクス夫妻はジゼルの言葉によってお互いを見つめ直し、離婚を取りやめます。

 

純粋無垢に「真実の愛」や「夢は本当に叶う」ということを信じているジゼルによって、街が、名も知らぬ人々が、現実主義者のロバートが、"Enchanted"されるという映画なのです。

 

※公式見解ではなく個人の感想です

 キラーチューン的命名

 

主人公の名前の「ジゼル」でもなく、設定をタイトルにした「プリンセスと現実世界」でもなく"Enchanted"「魔法にかけられて」

この1単語をバシッと提示する潔さ。

 

「ラブリー」とか「今夜はブギーバック」とか「ぼくらが旅に出る理由」とかほぼベストアルバムみたいな曲を揃えてタイトルに「LIFE」とつけた小沢健二くらいかっこいい。って話が逸れまくっている。

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"Enchanted"という ふわっとしていながらも、意味としてはかなり大きい(ディズニー的にはなおさら大きい)この単語を映画のタイトルにするというのは、ディズニーとしてもかなり勝負だったはずです。

僕個人の感覚ですけど、実にキラーチューン的名付け方というか、傑作だと確信していないとつけられないタイトルだなぁと思います。

 

"Enchanted"以降、"Tangled"「塔の上のラプンツェル」"Frozen"「アナと雪の女王」と、一般的な1単語をタイトルに用いた映画も登場しますが、

"Tangled"(もつれた、こんがらがった)も"Frozen"(凍った)も特にダブルミーニングでもなく、かっこいいんだけど深みのないタイトルになってしまっています。

 

(追記)「塔の上のラプンツェル」の"Tangled"というタイトルは「女性(ラプンツェル)に絡め取られ振り回される男(フリン・ライダー)の視点」も含まれるダブルミーニングだそうです。

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 冒頭8分でわかる「これまでのディズニーアニメーション」

普段からディズニー関連の情報収拾で一方的にお世話になっているdpost.jp*1さんでよく語られていることなのですが、「魔法にかけられて」の冒頭は本当に素晴らしく、良くできています。

「魔法にかけられて」のオープニングからの冒頭8分間にはほぼ「これまでのディズニーアニメーション」とくに「プリンセスストーリー」のすべてが詰まっています。

おとぎ話の絵本が開き、「昔々・・・」("Once Upon a Time...")から始まるナレーション、プリンセスのWish Song、ヴィランズによる騒動、王子登場による解決する騒動、そしてHappily Ever Afterまでが、たった「真実の愛のキス」("True Love's Kiss")1曲で完結してしまうのです。

 

なぜ冒頭8分でこれを全て終わらせてしまうかというと、わかると思いますけれど「この映画はあなたたちが想像しているコレ(今までのディズニー映画)とは一味違うぞ」 という宣言なのです。

 

ディズニー映画らしくディズニー映画の常識を打ち破る

ディズニー映画を好き好んで色々見ている人はきちんとわかっているとは思いますが、いわゆるディズニー映画への評価というのは「いつも同じような展開で同じような結末」というような批評が少なからずあります。いわゆる「ディズニー映画っぽい」という、夢見る主人公が歌を歌って困難を乗り越えて幸せになる、プリンセスならば王子と結婚するという、ステレオタイプです。

ピクサーの脚本家アンドリュー・スタントンは「トイ・ストーリー」制作の際に、ディズニー映画との差別化をはかるため"No Songs, No "I want" moment, No happy village, No love story"の4つをリスト化して徹底していたそうです。*2

また同時期のドリームワークス社による「シュレック」のディズニーをおもいっきりパロディした演出なども、このステレオタイプへの反動とも言えます。

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それくらい、世間には「ディズニー作品はこんな感じだ」というイメージが存在しており、90年代のディズニーはそれを打破するためにいろいろやってきた。そしてこの「魔法にかけられて」冒頭8分ではあえて自分たちの「ディズニーっぽさ」を徹底して、リスペクトしてやり尽くすことで「今までの作品と一線を画す」映画となっています。

 

そして「魔法にかけられて」以降、「プリンセスと魔法のキス」の、貧しさを受け入れて働く王子と王女、という結末や「塔の上のラプンツェル」では精神不安定な引きこもりながら、フライパンで戦うプリンセスという変わったアプローチに始まり、「シュガー・ラッシュ」「アナと雪の女王」「ベイマックス」「ズートピア」「モアナと伝説の海」などはどれも物語の核心に恋愛を絡めることなく、愛や夢、そして自分自身・個性のあり方を社会問題的に追求しつつエンターテインメントとして昇華しています。

 

2007年公開の「ルイスと未来泥棒」からピクサーのジョン・ラセターがウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオのCCOを兼任したことによる影響もかなり大きいとは思いますが、いわゆる「第三期黄金期」とファンに呼ばれている現在のディズニー映画の豊作ぶり、クオリティの高さはある意味「魔法にかけられて」でふっきれたからこそ、と言ってもいいんじゃないかと思います。

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その他最高である点

ここまで書いて5200文字(原稿用紙13枚分)超えたので、まとまりませんが、その他の部分を簡潔にまとめます。

音楽がアラン・メンケン

「魔法にかけられて」の歌曲はアカデミー賞8個受賞、総ノミネート数19回の天才作曲家アラン・メンケン氏によるもの。

ピンとこない人は「リトル・マーメイド」「美女と野獣」「アラジン」が全部この人、って言ったらその凄さがわかると思います。

しかも「魔法にかけられて」を作るにあたってディズニーが「ディズニーのパロディ曲を作れる人」を探していたところ「自分のパロディ曲だって作れるよ」と言ってのけた(らしい)ので驚き。

「魔法にかけられて」からは"Happy Working Song"、"That's How You Know"、"So Close"がアカデミー賞にノミネートされましたが、惜しくも受賞はなりませんでした。

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 パロディ&カメオ出演たくさん

散々パロディパロディ言ってきたので、もう聞き飽きたかと思いますが、本当に最初から最後までディズニー映画のパロディがぎっしり詰まっています。

そして「メリー・ポピンズ」のジュリー・アンドリュースがナレーションを務めていたり、「リトル・マーメイド」のアリエル役ジョディ・ベンソン、「美女と野獣」のベル役ペイジ・オハラなどなど、マニアじゃないとわからないようなカメオ出演もたくさん。もう詳しくはWiki見てって感じ。

出演俳優たちの素晴らしさ

何と言っても素晴らしいのがエイミー・アダムス演じるプリンセス・ジゼル。当時既に34歳という、決して若くはない年齢ながらもその動き、声、夢見る瞳はどれをとっても完璧な「プリンセス」であり、可愛らしさ、美しさを惜しみなく披露している。

彼女にとっては「魔法にかけられて」がブレークのきっかけとなりその後「メッセージ」や「マン・オブ・スティール」などで大役に抜擢されるようになりました。

また、X-メンシリーズやミュージカル映画「ヘアスプレー」にも出演しているジェームズ・マーズデンでもナルシストで夢見がちな王子を完璧に演じその美声を惜しみなく披露してくれた。

同じくミュージカル出身でその後「アナ雪」のエルサ役を務めるイディナ・メンゼルも歌なし(歌は時間の都合でお蔵入りになったらしい)の演技を披露し、ロバート役パトリック・デンプシーも、「ハリー・ポッター」ワームテール役でお馴染みティモシー・スポールも、モーガン役のレイチェル・コヴィーも、挙げたらきりがない。

あと全然関係ないけどマンホール整備のアーティ役の人がロバート・ダウニーJr.に似てる。

ディズニーとしてギリギリのラインのブラック描写

ゴキ(ry

まとめ

「魔法にかけられて」はいいぞ。

 

まとめはこれで全て解決するなー魔法の言葉だなーすごいなー。

 

このブログでいろいろ映画を紹介したりしていますが、やっぱり見てもらわないと何も始まらない、何一つディズニーに還元できないので、よかったら見ていただいて、もっとディズニーのことを好きになってもらえたらいいなと思います。

 

ちなみに本監督のケヴィン・リマは名作「ターザン」の監督なのですが、意外にも監督デビュー作はこちらです。

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 これ見たらグーフィーがめっちゃ好きになるよ。

 

おまけ

theriver.jp

タイトルはその名も"Disenchanted"

10年の時を経て魔法が!解ける!!笑

そしてエイミーアダムス43歳、40歳のプリンセス!

いろいろ楽しみですが、当然、ちょっと不安ですね 笑

 

(追記)

続編の感想です。

www.sun-ahhyo.info

 

 

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