迷子になる感情の行方。ピクサー短編『Bao』であなたは泣くのか、笑うのか。

「インクレディブル・ファミリー」2回目行ってきました、さっき。

 

カナダの映画館は毎週火曜日ほぼ半額のため、ダウンタウンの映画館夕方の回は満員御礼でした。

前回は郊外のシネコンIMAXで観たのですが、ビクトリアのダウンタウンは大きい映画館がないため小さいスクリーンで観ました。

上映前に映像が映らなくなるトラブルが起きて、20分くらい遅れてからスタート。

映像が復帰した際には拍手が起こるなど、つくづくこの国の人たちの心の余裕っぷりに驚かされます。

 

 

余談はここまで。

前回は本編「インクレディブル・ファミリー」について語りましたが、今回はさらっと同時上映の「Bao」について語りたいと思います。

そもそも映画が短いので感想も短めになるかもしれません。

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ピクサー短編『Bao』(バオ)

 

Bao(バオ)とは「包」のことで、中国語で「蒸しパン」などをそう呼びます。

この短編では、中国系カナダ人の女性が食時用に中華まん(小籠包?)を蒸したところ、その一つに命が宿ったというコミカルなストーリーが描かれます。

 

ピクサーのストーリーボード担当だったドミー・シーが原案を思いつき、そのまま監督に抜擢。ピクサー短編史上初の女性監督となりました。

彼女自身も中国系移民の子であり、親から大切に育てられた思い出を、この短編にも活かしています。

「インクレディブル・ファミリー」との同時上映にふさわしい家族愛ストーリーです。

 

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©︎Disney/Pixar
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「Bao」のもうひとつの意味。

知らなくても問題ないかもしれませんが、監督がインタビューで語っているので明記しておきます。

「Bao」という発音で当てられる漢字はもう一つあって、それは「宝」。

文字通り「大切なもの」という意味です。

 

ピクサー英語圏の会社なので当然といえば当然ですが、タイトルを漢字にせずに発音のローマ字表記にしています。とはいえ、やはりあえてダブルミーニングであることを意識してるのでしょう。

 

 

迷子になる感情。

カナダの映画館でこれを観たということもあり、会場は始まってから即、爆笑に包まれました。

おもしろい!!

キャラクターの動きもコミカルだし、「生きた中華まんを育てる」という、もはやそれだけで面白い設定をがんがんに活かした笑いが散りばめられています。

 

人間では起きないだろうという出来事が、中華まんだから起きてしまう。

人間であれば普通のなんてことのない出来事でも、中華まんだから笑ってしまう。

 

それでも、登場人物たちは誰一人、何一つふざけてなんかいません。

たった7分の映画の中で起きる、とある一瞬の出来事で状況は一変し、観客はそれを笑うべきか、悲しむべきか感情が迷子になってしまいます。

もちろん、泣くことが正しいとか、笑うことが正しいとかそういうことではありません。

 

ずっと感情を描いてきた。

ピクサーはずっと「感情」を描いてきました。

「感情」こそが行動の理由であり、「感情の動き」がキャラクターの性格を形作ってきました。

僕の尊敬するピクサーの脚本家/監督のアンドリュー・スタントンが語るストーリーテリングの手法でもその重要さが語られています。

 

 

トイ・ストーリー」にしろ「モンスターズ・インク」や「ファインディング・ニモ」「カーズ」「カールじいさんの空飛ぶ家」などなど、様々なピクサー作品が他の追随を許さないレベルで感情移入できるのは、やはりこのキャラクターの「感情の動き」が論理的であり、その組み立てをおろそかにしないからだと思われます。

 

そして、ピクサーにおいてはそれこそ「感情」を主人公として据えた「インサイド・ヘッド」という作品で、ある種ひとつの頂点を極めたと言ってもいいかもしれません。

イデアが先か、キャラクターが先か、ストーリーが先か。作り方は映画によって様々でしょうが、少なくともピクサーの作品のほとんどのキャラクターは「ストーリーのための動き」というような、必要にかられた不自然な行動はしません。

本来はそれが普通なのですが、アニメにかかわらず超大作と呼ばれるような映画でも、そこをきっちり描くというのは難しいのだろうなという感じがします。

 

今回のこの「bao」という作品も多分に漏れず。笑いを狙った演出でありながらもきちんと感情移入を狙ってくる巧みさを兼ね備えています。

本編前のたった7分間。この短編に込められた、コミカルだけど思い切り心を揺さぶられる展開は実にピクサーらしく、説明もセリフもないなかで「自分たちは何を観せられているのか」ということに気付いた瞬間に「またしてもピクサーにしてやられた!」と舌を巻いてしまうのです。

おまけの短編なのに、いや短編だからこそ、こういう深みのある演出ができてしまうのかもしれません。

 

勧善懲悪ではありません、アクションもありません、魔法も起きません。

だけどこの7分の間には様々な感情と、登場人物の経験した「人生」の奥行きが込められています。

 

短編はいいぞ。

ズートピア』がアカデミー賞長編アニメーション部門を受賞した2016年度、『ファインディグ・ドリー』の同時上映であった短編『ひな鳥の冒険』(Pipar)がアカデミー賞短編アニメーション部門を受賞したのは記憶に新しいです。

 

臆病だったひな鳥がとあるきっかけで成長を遂げるこの短編は、WDASの「バンビ」を思わせる生命の力強さにあふれていて「これぞアニメーション」というような爽快さが感じられます。

 

短編は映画館で見ないと、ソフトでは別コンテンツだったりして、わざわざホーナスコンテンツのところから再生しないと見れなかったりで、あんまり見る機会ってないかもしれません。

僕自身観ても1、2回くらい?

 

しかしながら、ディズニーもピクサーも、こういう短編は社内コンペの優秀作品だったり、ここから新しい長編監督候補が出てきたりと、スタジオの新たな芽を育むために作られるものだったりします。

人種だったり設定だったり、挑戦的な内容も多く「おっ!」っと思わせるものも多いので、気が向いたらちょっと気にかけてみてもいいかもしれません。

きっと楽しめますよ。

 

 

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