2015年の春、今ほどたくさん映画を見ていなかった僕が、
わざわざ早起きして電車で1時間かかる大阪の映画館まで足を運んで見た映画がある。
それが『スピッツ 横浜サンセット 2013 -劇場版-』である。
この度、スピッツ公式サイトより「新型コロナウイルス感染拡大対策に伴う外出自粛・イベント自粛要請の長期化、スピッツのライブツアーの度重なる延期等を受け」2015年に期間限定で劇場公開され、今までソフト化もなかったこの映画がYouTubeで無料で見られることとなった。
『スピッツ 横浜サンセット2013 -劇場版-』 YouTubeスピッツ公式チャンネルで公開!
新型コロナウイルス感染拡大対策に伴う外出自粛・イベント自粛要請の長期化、『SPITZ JAMBOREE TOUR 2019-2020 “MIKKE”』の度重なる延期等を受け、2015年に劇場公開された『スピッツ 横浜サンセット2013 -劇場版-』をYouTubeスピッツ公式チャンネル“spitzclips”にて公開しました。
SPITZ OFFICIAL WEB SITEより引用
映画を見たのはもう4年も前で、いくら鮮明に覚えているといったところで見返すことはできなかったのが、ここにきて、とうとう再見することができた。
このYouTube配信もまた、おそらく期間限定でいつかは見れなくなるのだろうという予想はあるが、これもいい機会なので、この映画の素晴らしさを伝えたいと思う。
本記事は『スピッツ 横浜サンセット 2013 -劇場版-』のネタバレを含みます。
目次
『横浜サンセット 2013』
スピッツはアルバム発売に伴うツアーライブとは別に、定期的に対バン(ゲストライブのこと)を含むライブイベント『ロックロックこんにちは!』(大阪・関西各地)『ロックのほそ道』(仙台・東北各地)『新木場サンセット』(新木場スタジオコースト)などを開催している。
2013年に横浜・赤レンガパーク特設会場で開催された『横浜サンセット 2013』はこの『新木場サンセット』の派生(ロゴもほぼ同じ)イベントではあるが、『横浜サンセット 2013』は『THE GREAT JAMBOREE '97』の小岩井農場特設会場 以来16年ぶりの野外単独ライブである。
(また『〇〇サンセット』というタイトルはスピッツ自身の曲『大宮サンセット』が由来だと思われる)
夏の終わりの野外ライブイベントで、夏フェスのような雰囲気を持った単独ライブ、しかも16年ぶりというプレミアムなこのイベント。
映画というフォーマットをとってはいるが、この映画は限りなく生っぽいライブ映像である。
登場して、ライブ、MCを繰り返し、退場、アンコール、花火、そしてエンドロールというシンプルな構成だ。インタビューもバックステージの雰囲気を写すこともない。
ノーカットで収録されたMCはキャリア26年とは思えないほどたどたどしさが見え、彼らの人の良さや素朴さを反映しているし、珍しく歌詞を忘れてボーカルの草野マサムネが苦い顔をするところまで、生々しいライブの「そのまま」が収録されている。
だからこそ、リアルにスピッツのライブを疑似体験することができると思う。
スピッツのファンはもちろん、「スピッツのライブをまだ体験したことのない人」にも観て、楽しんでもらいたい作品である。
最高のセットリスト
スピッツというバンドが国民的バンドになったのは『空も飛べるはず』や『ロビンソン』や『チェリー』など楽曲のバブル的ヒットという部分も少なからずあるが、それらのヒットに甘んじることなくキャリアを通して誠実に「彼らにしかできない音楽」を届けてきたからである。
スピッツというバンドは本当に様々な音楽性を兼ね備えており、楽曲によりいろんな顔を見せてくれるが、それでも「スピッツらしさ」という根幹が絶対にブレない。
一般リスナーには「スピッツってロックなの?」と聞かれたり、J-POPであったり歌謡曲的なイメージも強いが、一方で彼らのルーツはパンクロックやポストロック、ニューウェイブであったりして、それらを同じくルーツとするロキノン系やヴィジュアル系からも支持がある。
そんな彼らがこの『横浜サンセット 2013』で披露するのは、26年全14枚のオリジナルアルバム(当時)から選曲された彼らのキャリアを横断するようなセットリストである。
当時の最新アルバム『小さな生き物』からの選曲が多いが、そのほかアルバムにしか収録されていない曲や、彼らのライブでもほとんど演奏されていなかった懐かしい曲までも選曲されている。
それゆえ、シングル曲しか知らないファンにはわからない曲も多いかもしれない。
1曲目から『恋のうた』という、彼らがインディーズ時代から演奏している曲(2ndアルバム『名前をつけてやる』に収録)を披露する、ファンサービスもしっかりしつつ、
大ヒットしたシングル曲『チェリー』やCMや映画でタイアップされた曲らもきちんと織り交ぜながら、彼らの世界観をライブで表現してくれる。
またライブでおなじみの『恋する凡人』や『8823』や『メモリーズ・カスタム』など、これぞロックバンドと思わせてくれる曲もしっかり披露してくれる。
個人的なハイライトは『夏が終わる』と『アパート』だ。
『夏が終わる』も『アパート』もそれぞれバンドがブレイクする以前の4th、3rdアルバムからの選曲でありシングル曲ではない。
特に『夏が終わる』はこの映画で初めて曲の存在を知り衝撃を受けて、その直後に4thアルバム『Crispy!』を買いに走った。
記録映像だからこその体験
この映画に限らずライブ映像には共通して言えることだが、ライブの記録映像には実際のライブでは体験できないものもある。
いくら本物がそこにいて、ステージを凝視していても場所によってはその表情まではっきり見えるわけではない。(ライブにスクリーンがある場合もあるが)
メンバーが演奏する楽器の手元、使用機材が、実際のライブではあり得ない距離でまじまじと観れるというのはミュージシャンにとってはかなり嬉しく実用的な体験だと思う。
また、レコーディング音源とライブでは、同じ曲でも限られた人数で再現するためにアレンジが異なっていることは多い。
どこをどう取捨選択するのか。「プロによる引き算」が聴ける。
往年の楽曲もライブによって生まれ変わるのである。
楽器や演奏に疎くとも、草野マサムネの爪の保護のためのマニキュアにドキッとするのもいいと思う。
まとめ
僕自身は2013年に開催された赤レンガパークの会場へ行くことはできなかったが、さぞかし最高の体験だったろう。
ライブというのは生モノなので、いくら映像化されようと「その場にいた」体験に勝ることはない。
ないが、こうして映像作品としてみることでライブを疑似体験し、彼らのライブを実際に体験してみたいと思う動機には十分なり得ると思う。
そして、個人的な思い出としては、2015年当時このライブ映像を映画館の巨大スクリーンで、ポップコーンをかじりながら見れたというのも、「ライブに参加した」というのとはまた違う、特別な体験になった。
緊急事態宣言の今、実際のライブに行けるのはいつになるかはわからないが、
本作はYouTubeに無料公開されているので
いちファンとしていろんな人に是非楽しんでもらいたいと思う。