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興奮と失望の揺さぶり。Disney+『モンスターズ・ワーク』とは何だったのか。

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モンスターズ・ワーク (オリジナル・サウンドトラック)

 

ピクサー製作『モンスターズ・インク』のその後を描くDisney+リミテッドアニメシリーズ『モンスターズ・ワーク』(原題:Monsters at Work)が2021年7月9日より日本でも配信され、全10話で先日終了した。

 

かねてからの『モンスターズ・インク』『モンスターズ・ユニバーシティ』のファンである我々にとって、この2ヶ月間は期待と失望、興奮と興醒め、天国と地獄のような期間だった。

本作はシリーズの過去2作品を制作したピクサー・アニメーション・スタジオではなくTVシリーズを主に手がけてきたTVAことディズニー・テレビジョン・アニメーションが制作。

 

2021年突如我々の前に現れたメンヘラ彼女こと『モンスターズ・ワーク』

この作品は、一体なんだったのか。

 

※当記事はTVシリーズ『モンスターズ・ワーク』のネタバレを含みます。

目次

 

日本語吹き替え問題

本作では、日本語版に関してのみだけだが深刻な「吹き替え問題」が発生していた。

 

原語版は映画と同じオリジナル声優が続投しており、サリー役はジョン・グッドマン、マイク役はビリー・クリスタルが演じている。二人とも米国では有名なハリウッド俳優、ビリー・クリスタルはコメディアンとしても活動している大御所だ。

一方の日本はというと、第1作の映画化の際に話題作りのために芸能人吹替を採用していた。

サリー役を石塚英彦(ホンジャマカ)、マイク役を田中裕二(爆笑問題)が務めていた。

色々と批判のある芸能人吹替声優の作品の中でも、特にこの『モンスターズ・インク』シリーズのサリーとマイクのコンビはキャラクターにピッタリであると好評であり、ファンも多かった。私自身、全く違和感なく石塚&田中コンビの『モンスターズ・インク』で育った世代である。この吹き替えは東京ディズニーランドにある、『モンスターズ・インク』のその後を描くアトラクション「モンスターズ・インク ライド&ゴー・シーク」でも採用され、続編の『モンスターズ・ユニバーシティ』でも続投された。

 

だが。

news.livedoor.com

これまでもDisney+日本版において、映画版でゲスト声優として吹き替えを担当していた芸能人たちがことごとく降板させられ、Disney+オリジナル作品においては別の吹き替え声優が声を当てている。『ワンダヴィジョン』におけるジミー・ウー(映画ではお笑い芸人の宮川大輔が吹替)『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』におけるファルコン(映画では俳優の溝端淳平が吹替)などだ。

本作『モンスターズ・ワーク』においても、この流れは踏襲されてしまった。

 

『モンスターズ・ワーク』ではオリジナルの石塚&高木コンビではなく『モンスターズ・ユニバーシティ』の日本語予告編などで吹き替えを行なった、楠見尚己&高木渉がサリーとマイクの声を担当することとなる。

 

声優の逝去などの避けられない理由ではなく、おそらく日本語版制作における予算的な問題で、慣れ親しんだ声ではない吹替で繰り広げられる『モンスターズ』シリーズの新作。

もうこの時点で、本編を見る前にかなりのファンが離脱してしまったように思われる。

本職声優の楠見&高木コンビにとっても、上手い下手の部分ではないところで評価・批判されてしまうのだから非常に気の毒な話である。

 

私自身、本作はひとまず言語版で見ることにして、今回の吹替声優交代の件は忘れることにした。

ファン歓喜のスタートダッシュ

そして始まった『モンスターズ・ワーク』本編。

物語の舞台は『モンスターズ・インク』でウォーターヌース社長が追放された直後。マイクとサリーはモンスターズ・インクの新たな経営者となり、会社を「笑い」の新エネルギーに転換して業績をあげるべく奮闘する。

一方、モンスターズ・ユニバーシティ 怖がらせ学部をサリーの歴代成績を抜いて主席で卒業したモンスターの青年タイラー・タスクモンは「怖がらせ屋」としてモンスターズ・インクに採用されるが、突然の会社の方針変更により「怖がらせ屋」ではなく「モンスターズ・インク設備チーム」である通称「ミフト」(Monsters,Inc. Facilities Team)に配属される。

「怖がらせ屋」の夢を断たれたタイラーは、冴えない同僚たちとモンスターズ・インク地下での地味な仕事に不満を抱えつつも、会社の花形職種である「笑わせ屋」に転向するため奮闘していく。

 

物語の流れはざっとこんなものである。

我々の大好きなサリーとマイクの活躍もしっかり描きつつも、新たなる主人公タイラーの葛藤と成長をベースに、「完全なる裏方」である「MIFT」という仕事を描いていく。物語のコンセプトは実に素晴らしい。

 

その上で『モンスターズ・インク』終盤〜エンディングまでの間の期間を、ピクサーが制作過程で保管してきた資料とディズニー・カリフォルニア・アドベンチャーのアトラクション『Monsters, Inc. Mike&Sully to the Rescue!』や東京ディズニーランド『モンスターズ・インク ライド&ゴー・シーク!』のプロップスを含む小ネタやプリクエルである『モンスターズ・ユニバーシティ』の要素も絡ませながら、それまでバラバラだった『モンスターズ』シリーズのパズルのピースを一つにしていくように、絶妙に展開していく。

本作はピクサー制作ではなくTVシリーズを主に手がけてきたディズニー・テレビジョン・アニメーションが制作にあたっており、そのクオリティの未知なる部分から見る前は不安の声も多かった。

ところが蓋を開けてみたら、我々ファンの求めるものがそこにあった。

どう考えても主人公タイラーのキャラは全く立っていないし、MIFTの連中も鼻につく。

それを加味したとしても、最高のスタートダッシュだったと言ってもいい。

 

そう、スタートダッシュは良かったのである。

良かったのはスタートダッシュだけだとも言える。

全力で「仕事をナメてる」ドタバタ劇

3話目以降は、あまりにもワンパターンな展開が続いていく。

主人公タイラーは同僚のMIFTのメンバーの冴えなさぶりにかなりのヘイトを溜めている。大学では成績優秀、憧れの会社で新たな伝説を作るような意気込みでやってきた一流エリートが、突然陰キャラ集団の部署に配属され、しかも自分が一番下、というのだから、気持ちはわからんでもない。

わからんでもないのだが、そのタイラーの行動の一つ一つが、MIFTの連中のウザ絡み以上に、不快。タイラーはMIFTのメンバーを完全に見下しているし、「笑わせ屋」になるためのタイラーの必死の行動は、賄賂、大見得、嘘、不正、不正、不正・・・と『モンスターズ・ワーク』(Monsters at Work)というタイトルなのに、社会人としての倫理観を大いに欠いている。

 

ヘイトを溜める

→「笑わせ屋」になるためにMIFTをないがしろにして不正

→不正がバレる or MIFTメンバーが傷つく

→反省

 

これの繰り返し。

 

各話で細かい展開は異なるが大筋はこれが多い。そもそも10話しかないのに「これが多い」という印象を与えてしまう時点で敗北だろう。もうほぼこれしかない。

これらの話が面白ければいいが、『モンスターズ・ワーク』というタイトルの割に仕事シーンはほぼなく、「裏方の仕事の良さ」みたいな世間で働く人々に勇気を与えるようなシークエンスも存外あっさりしているし、そもそも不正の連続で出世しようとする「仕事ナメてます」な主人公を毎週見せられるという不快感。スタートダッシュの興奮は何処へやら、見れば見るほどにつまらなく、失望させられる。

私たちの大好きな『モンスターズ・インク』のシリーズが、みるみる崩れ落ちていく。

 

7話の異変と終盤

そんな『モンスターズ・ワーク』に異変が起きたのが第7話「帰って来たかわいい雪男」である。

タイトルの通り、『モンスターズ・インク』でサリーとマイクが追放された際に登場したAdorable Snowmanが再登場する回である。

 

正直、これはピクサーから直々にテコ入れが入ったんじゃないかと思うくらいに神回だった。

雪男の「追放理由」に『モンスターズ・ユニバーシティ』で判明した、彼のモンスターズ・インクにおける郵便局員という経歴、ウォーターヌースの不正を織り交ぜ、これまで提示された設定から、ファンが想像する程度の範囲でしかなかったストーリーを実現して見せたのである。

そこに、なんと『スター・ウォーズ』のパロディまでも織り交ぜてくる。

 

『モンスターズ』シリーズと『スター・ウォーズ』シリーズは、どちらも「オリジナル」が作られたあとに「プリクエル(前日譚)」が描かれたシリーズだ。

その構造的妙と、話が一本につながる爽快感の気持ち良さを我々は知っている。だからこそ「あえて」の目配せであるとともに、シンプルにギャグとしても面白かった。

このストーリー以降、「タイラーが不正をするドタバタ劇」に若干のマイルドさが加味される。徐々に努力の片鱗が見られるようになり、さらにはMIFTのメンバーへの理解も深まっていく。

9話では「もう笑わせ屋にはなれない」と、突然の方向転換をしたかと思ったら、

10話で『モンスターズ・ワーク』は突如終了した。

 

 

勝手ながら、打ち切りなんじゃないかと思っている。

だとしたら少年ジャンプ並みのスピードだ。Disney+作品は全部作り終わってから公開している気がするので、私の勘違いかもしれないし、いきなり「シーズン2!」とか言いだす気がしないでもないが、やれることはもう残っていない気がする。

 

 

というわけで、私の予想は大いに外れて物語は全く想像していなかった方向に進んだ。

唐突感は否めないものの、収まりとしては良いものだったように思う。

 

MIFTのメンバーがタイラーとの別れを惜しむシーン、あんなにキャラが立っていない、胸糞集団だと思っていたMIFTのフリッツ、ダンカン、カッター、ヴァルの面々に、ちょっとだけ胸が熱くなった。

終盤は『モンスターズ・インク』の終わりのシーンをほぼ完全再現するという荒技で、少なくないファンを熱狂させていた。(でも私はこの終わり方はダサいと思う)

 

たった10話、そのなかで面白かったのは

1、2、7話の3つ、8〜10話はまぁ許せるかなという程度で、結局シリーズのクオリティとしては大撃沈と言ってもいい内容だったと思う。

マジで4〜6話は見る価値がない。『アレンデール城のクリスマスの薪』でも観たほうがいいと思う。

 

 

私たちが一喜一憂した2ヶ月半、再確認できたのはやはり複数の物語がつながる瞬間というのは、私たちの脳内にスパークが走るような気持ち良さがあるということ、なんだかんだ言ってもピクサー・アニメーション・スタジオという会社は、実にアニメ制作のレベルが高く、普通のアニメ会社でまともな作品を作るのは、こんなにも難しいのだということだろうか。

 

もうちょっと長く続いたらさらなる黒歴史になっていたかもしれないし、

早く終わったことで結局汚名返上できずに終わった感も、どちらもある。

興奮と失望にまみれた『モンスターズ・ワーク』全10話。

 

えっと、音楽とかすごい良いのでよかったら観てください。

 

 

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