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これは「歴史」のひとつ。やっぱり『くまのプーさん』(2011年版)が好き。

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くまのプーさん (吹替版)

映画を映画館で見るのは楽しい。

「今自分は歴史的瞬間に立ち会っている」と感じられるからだ。

 

これは所詮、映画マニアのエゴというか思い込みに過ぎないのだけど、例えば「タイタニック」や「E.T」や「スター・ウォーズ」(新たなる希望)や「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のような作品を、当時劇場で体験することができた人たちは、(それが偉いとかそういうことではなく)将来一生自慢できると思う。

僕はそれらの作品をリアルタイムで劇場で見ることができなかったからとても残念だ。

 

最近劇場で体験できたディズニー長編でいうと「アナと雪の女王」や「ズートピア」やピクサーの「リメンバー・ミー」なんかはまさにそんな作品だったと思う。これらの作品は歴史的大ヒットしただけでなくアカデミー賞というお墨付きまである。今後何十年、何百年と愛されるコンテンツになっていく。

 

そんな中、大ヒットもしなかったし、地味だったんだけど、僕の中で「歴史に立ち会っている」と感じさせてくれた作品がある。

それが「くまのプーさん」(2011年版)である。

 

目次

 

『くまのプーさん』(2011年版)製作までの流れ

『くまのプーさん(2011年版)』の原語タイトルはズバリ"Winnie the Pooh"日本語タイトルも無印の「くまのプーさん」である。

ただそれだとドチャクソややこしいので「2011年版」や「プー2011」などと呼ばれている。

ウォルト・ディズニー・アニメーションスタジオは2005年「チキンリトル」以降2Dアニメーションの部門を廃止し、完全に3Dでの長編製作を行なっていた。

2006年にピクサーを買収し、エド・キャットムルが両スタジオの社長、ジョン・ラセターが両スタジオの製作最高責任者を兼任することとなると、WDASは製作の方法が刷新される。

2009年に公開された「プリンセスと魔法のキス」の制作時には当時退職していたジョン・マスカー、ロン・クレメンツ両監督を再び呼び戻し手描きアニメーションを復活させた。

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CG製作に手描きアニメーションの表現力を取り入れた「塔の上のラプンツェル」を大ヒットさせた後、再び手描きアニメーションで挑んだ作品が前述の「くまのプーさん」(2011年版)である。

 

監督はスティーブン・アンダーソン及びドン・ホール。

劇中歌はロバート・ロペスとクリステン・アンダーソン・ロペス夫妻、またサウンドトラックはヘンリー・ジャックマン。

アニメーターにマーク・ヘン、エリック・ゴールドバーグ、アンドレアス・デジャなど、錚々たるメンバーをそろえて製作された。

 

コミュニケーションの齟齬が産む笑い

 「くまのプーさん」のシリーズのどの作品でも強調されているのは「コミュニケーションの行き違い、難しさ」である。

それぞれのキャラクターの言葉や考え方、知識量の違いにより物語は大きく動かされ、ずれた展開を産む。

プーやピグレットの言葉はくどいくらい間抜けなのに本質をついていたり、ラビットの言葉はストレートできついのに肝心な的を得ていない。オウルの発言は仰々しくほとんどみんな理解できていないし、イーヨーの発言は必要以上にネガティブ、ティガーは常に「俺様」が一番でなかなか話を聞いてくれない。ルーは子供すぎるし、まともなのはカンガくらいだが彼女はみんなを優先し物語を大きく動かそうとしない。

そんな個性や問題のあるキャラクターたちが、「クリストファー・ロビンを助け出す」というミッションに挑む。

そもそものミッション自体が齟齬から生まれたものであり、その勘違いは言葉遊びやジョークの類でもあり、さすがイギリス文学を原作とした物語であると感服させられる内容で、物語がどんどんズレた方向に進んでいくのは笑いを誘う。

 

序盤の「くしゃみ」のシーンや「スグモドル」のシーン、終盤のラビットとピグレットの掛け合いなどは脳が溶けるかと思うほどのゆるくむちゃくちゃな言葉遊びに満ちていてニヤニヤが止まらない。

 

どうあがいてもテンポの悪い彼らのやり取りは正直イライラしてしまう人も多いかもしれない。

でもこれこそが、それぞれのキャラクターの個性を全開にした「くまのプーさん」の良さであり魅力である。

 

 

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友情の物語

また、彼らはそのミッションに挑む中で、彼らの勇気や優しさという部分が試され、うまくいかないコミュニケーションの着地点を見つけていく。

 

この作品は1本の映画であるが、複数の原作を利用しそれらが同時展開しつつきちんと全てに決着がつくすばらしい構成になっている。

そのなかでイーヨーを取り巻くプーやティガーのやり取りはとても温かく、彼らのぐちゃぐちゃなコミュニケーションのなかできちんと育まれた友情を垣間見ることができる。

 

プーやティガーの強引さ、特にティガーの自分勝手ぶりは眼に余るものがあるし、イーヨーはそれにとてつもない被害を受けているのだけど、彼自身はそれが「ティガーの優しさ」からくるものであると知っているから、決して彼を否定することはない。

幻覚を見てしまうほどに空腹だったプーが、ひとまず目の前のはちみつよりもイーヨーのことを優先したのも、彼が大事な友達であり、落ち込んでいることを知っているからだ。

この物語を経ても彼らは変わらない。大きな変化や成長があるわけではない。

それぞれがそれぞれの個性や考え方の中で、落とし所をみつけて、そのバランスの中でみんなが幸せになる方法を探り成り立っていく。

 成長しないから彼らは同じ過ちを何度も繰り返す。繰り返すけど、彼らはそれらの乗り越え方も知っている。

 

はちみつ賛歌!

 「くまのプーさん/完全保存版」の「ズオウとヒイタチ」に代表されるように、過去のディズニー作品にはちょっと怖いシーンが挿入されることがある。

今作はおそらくそれが「スグモドルの歌」に当てられているのだろうが、この歌のシーンはキャラクターが黒板のチョークで描かれたように表現され可愛さが増しているし、それほど怖くはない。

(このシーンは「手描きアニメーションだからこそ」と言える雰囲気を醸し出していて非常に良い)

 

そして、これもまた決して怖いわけではないのだが「はちみつがいっぱい」という曲が挿入されている。

お腹が空きすぎたプーが幻覚を見てしまうという歌である。

 

それ自体はめちゃくちゃに可愛く、コスチュームも世界観も独特であるが、かなり柔らかい表現ではあるが、やっぱりドラッグ的、トリップ的な表現でもある。

 

際どい表現はできないと言われるディズニーアニメーションだが、過去のディズニー作品にしろ、ディズニーにはサイケデリックな演出が結構ある。

それをドラッグが原因だ!とは僕は言わないし、アニメーションはそういう未知の体験との出会いをもたらしてくれるという点で素晴らしいことだと思っている。

「プリンセスと魔法のキス」では「ファシリエの企み」(Friends on the Other Side)という曲で、「くまのプーさん」は「はちみつがいっぱい」で、こういうちょっと行きすぎた「ありえない世界」を体験させてくれる。

ファンタジー映画の醍醐味であり、最近のディズニー作品ではあまり見られなくなったものでもあるので、このタイミングで手描きの2作品で見れたことはとても有意義だった。

 

この映画を見たらやっぱり当分の間は「♪はちみつはちみーつ・・・」というメロディが離れない。

 

そして伝説へ

 

 最初に書いた通り、この作品、全然ヒットしなかった。

 

「プリンセスと魔法のキス」はヒットしたが、それはディズニーの予想をはるかに下回るものであり、さらに「くまのプーさん」は不振に終わる。

 

この不振を受け、手描きで製作されるはずだった「アナと雪の女王」はCGでの製作に完全に切り替わってしまった。

 

これからまたディズニーの手描き作品が今後何十年も続くと思っていた矢先に、たった2作で手描きアニメーションの復活が終了してしまったのである。

 

「プリンセスと魔法のキス」は劇場で見れなかったので、僕が劇場で見た最後のディズニー手描きアニメーション長編作品は「くまのプーさん」が最後になる。

 

とても愛おしく、大好きな作品だけど結果がついてこないとこういうことになってしまうのはとても悲しい。

その後のディズニー作品「シュガー・ラッシュ」「アナと雪の女王」「ベイマックス」「ズートピア」「モアナと伝説の海」はご存知の通り、外すことなく大ヒットを連発し、しかもそれがきちんと面白いというのも、実に愛おしいことであるのには間違いない。

 

それでも、「今でも手描き作品が作られるディズニースタジオ」のことを考えてしまう。

 

「プリンセスと魔法のキス」の特典に入っていたジョン・ラセターのインタビューでの言葉が忘れられない。

 

今、手描きの映画を作るならディズニーがやるべきだ。

ここから始まったのだから。

 

「プリンセス」や「プー」を題材に、今だからこそ描く意味があるとして始まった、手描きディズニーの再始動。

奇しくも残念な形で転換点となり、歴史に名を残す形になってしまったが、僕はいつだってこの作品が大好きだし、素晴らしいと思っている。

 

ディズニーの栄光の歴史がどれほど長く続いても、はたまた潰えても、僕はこの小さな作品を忘れずにいたい。

 

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