巨大な鉄の棺桶で、死へと向き合う『ファースト・マン』感想。

『セッション』『ラ・ラ・ランド』監督のデイミアン・チャゼルがメガホンを取り、ユニバーサルでスティーブン・スピルバーグ制作総指揮のもと作られた『ファースト・マン』

 

『ラ・ラ・ランド』が大好きでオールタイムベスト級に愛している筆者、デイミアン・チャゼル監督作ということでやはり劇場で見ることにした。

もちろん本作はミュージカルでも恋愛ものでもなく、実在の人物の伝記的映画、しかもビッグバジェットの超大作、脚本もチャゼル監督の担当ではなく『ペンタゴン・ペーパーズ』などを担当したジョシュ・シンガーである。

 

各方面の様々な期待が高まる本作、一体どんな出来に仕上がったのか。

そんな『ファースト・マン』感想。

 

First Man (Original Motion Picture Soundtrack)

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※以下公式サイトですが「STORY」に映画の内容ほぼ全部書いてあるのでご注意ください。

firstman.jp

 

目次

 

歴史的偉業は、彼個人の執着。

『ファースト・マン』は1969年に人類初の月面歩行を成し遂げた実在のNASAの宇宙飛行士、ニール・アームストロングの半生を描いた映画である。

彼が月面に降り立つ際に発した「これは一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては大きな飛躍だ」というセリフはあまりにも有名である。

 

「人類初の月面歩行」という歴史的偉業のイメージとは裏腹に、この『ファースト・マン』で描かれるNASAの計画そして実験描写は重厚な雰囲気こそ漂うが全体的に地味で暗い。そして周囲の宇宙飛行士たちと比べ、ライアン・ゴズリング演じる主人公ニール・アームストロングはあまりにも寡黙で、感情を表に出すのが不器用な男として描かれている。

天才的頭脳で、いかなるトラブルの際も冷静沈着である一方、彼の評価や功績や偉業を、どれほど周りが誉めたたえようとも、彼自身は素っ気なく嬉しくもなんともないように振る舞う。

 

『ファースト・マン』という映画はこの歴史的偉業を「彼個人の執着」として描く。

 

First Man: The Life of Neil A. Armstrong

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ニール・アームストロングという男

ニール・アームストロングという男が月面歩行へ異様な執着を持つようになったきっかけとして、映画では「娘の死」を理由に描かれている。

 

宇宙飛行のための厳しい訓練も必死に耐え、心身ともにボロボロになりながらも、ニールの目だけは執着心に燃えている。

時が流れ宇宙飛行、月面着陸計画へと、物事がステップアップしていく一方で、周囲では仲間たちが事故に巻き込まれ次々と失われていく。

その度にニールは1層も2層も殻を作り上げ、家族から、同僚から心を閉ざしていく。

それでも、双眼鏡で月を見上げることをやめない。

 

「おめでとう、君がパイロットだ」

同僚の言葉にもニールはただ「オーケー」と答えるだけ。

月面歩行は彼にとっては「悲願」でも「希望」でもなく「宿命」や「義務」のように思えてくる。

米国が多大なる税金を注ぎ込んだ、世界有数の事業を、自らが当然のごとく向き合うべき存在であるかのように、彼は淡々と物事を受け入れる。

 

どんどん心を閉ざしていくニールに、妻のジャネットは次第に苛立ちを覚え、月に向かう直前の彼に子供達と向き合うよう叱責する。

この最後の家族会議が感涙ものであった。

 

『ファースト・マン』という映画は「人類初の月面歩行」という偉業の裏に覆い隠されてしまった、ニール・アームストロングの内面、彼の孤独や不安へと迫り痛切に描く。

 

「宇宙飛行」という恐怖

『ファースト・マン』の宇宙飛行は怖い。

 

今から50年以上前、1960年代の宇宙飛行のテクノロジーは「スマートフォン以下」とも言われている。

幾度となくテストを繰り返し、安全性を確認し、宇宙へ飛び立っても、トラブルが起きれば「原因不明」だし、飛び立つ前でさえ同僚たちは不慮の事故で次々と亡くなってゆく。

ニールが実際に体験するジェミニ8の事故のシーンや、アポロ1号のあっけない最後は実に恐ろしく描かれている。

 

サウンドや演出に徹底的にこだわり、ニール・アームストロングの心拍音まで聞こえてきそうなその映像は、彼の感じた「恐怖」までも疑似体験させる。

 

「宇宙船は巨大な棺桶だ」とはよく言ったものである。

 

月へ会いにいく。

劇中、ニールはよく双眼鏡で月を眺める。

それが筆者には印象的だった。

まるで死んだ娘がそこにいるかのように、探しているように見えるのだ。

 

宇宙船という巨大な棺桶に自ら乗り込み、宇宙飛行という死と隣り合わせの体験をし、岩と砂だらけ「死の世界」である月へ向かう。

それは「宇宙飛行」というある種の「死」を経て、月にいる娘に会いに行ったのかもしれないと感じた。

月面に辿り着いた時に、ニールはやっとのことで救われたのだろう。

 

まとめ

本作でチャゼル監督らしさを感じられたのはやはり音楽や効果音の使い方だった。盛り上げるためだけではない、迫力のある音楽の使い方、映像や心情とのリンク具合が完璧であった。

誰もが知る偉業をニール・アームストロングの内面から描いていくというのも、彼らしくもある。一方で脚本のジョシュ・シンガーの力もあるのだろう。

ぶっちゃけ正直チャゼルの作品がそれほど多く世に出ているわけでもないので、そこらへんはよくわからない。

 

ハリウッド大作らしいかなりリアルで本格的な宇宙飛行の映像は一方で、訓練シーンやドラマパートで淡々とした重々しさがかなり際立っており、盛り上がりに欠けるとか、素直に楽しめない人もいるだろう。(僕自身、映画を楽しんだ一方でかなり睡魔に襲われた)

リアルすぎる手ブレの映像は画面酔いの辛さもある。(それでも本作は2019年アカデミー賞視覚効果賞を受賞した)

 

内容的には深い意義のある映画であり、名作の域にある映画ではあるものの、観る人を選ぶだろうな、とも感じる作品だった。

 

ラ・ラ・ランド(字幕版)
 

 

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