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大傑作『スパイダーマン:スパイダーバース』アニメーションの可能性を信じて、跳べ。

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2019年(2018年度)アカデミー賞長編アニメーション賞受賞作品『スパイダーマン:スパイダーバース』を観た。

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同年のアニメーション賞ノミネート作品はディズニー『シュガーラッシュ:オンライン』ディズニー/ピクサー『インクレディブル・ファミリー』20世紀FOX『犬ヶ島』そして日本から東宝/スタジオ地図による『未来のミライ』

 

『未来のミライ』に関しては鑑賞できていないが、そのほかの作品と比べると、なるほど『スパイダーバース』が受賞したことにも納得がいく。

 

 単に「絵が綺麗」とか「リアル」とか、そういう次元でなくアニメーション表現がそのほかの作品よりも数段階先を行っている上に、『インクレディブル・ファミリー』よりもヒーロー映画的役割を担っており、『シュガーラッシュ:オンライン』よりも胸の熱くなるクロスオーバーと「元ネタリスペクト」を見せた。

 

筆者はディズニーファンだが、「ディズニー好きなら観ておくべきディズニー以外の作品」というのはいつの時代も存在していて、この作品はまさにそんな一本だと思う。

ここからアニメーションの何かが変わっていく、新時代を感じさせる作品だった。

 

※この記事は一部、公開中の映画『スパイダーマン:スパイダーバース』の内容に触れます。

極力ネタバレは避けておりますが、ネタバレの範囲には個人差があるため全く情報を入れたくない方は閲覧をお控えください。

 

アート・オブ・スパイダーマン:スパイダーバース (SPACE SHOWER BOOKS)

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本物の「動くヒーローコミック」

コミックのアニメ化や実写化は度々「コミックが動いてるみたいだ」と表現されることがある。

その点に関して言うとこの映画はまさに「動くコミック」表現の最たるものであると思われる。

カラープリントされた印刷をイメージさせる点描的描写、コマ割りや擬音を画面に書き込む「漫画的表現」それでいて実写かと思うほどにリアルな風景や乗り物、ビル群、人物の動きが見られるかと思えば、それらが突然見たこともない動きを見せたりもする。

また登場するキャラクターたちの絵柄までもが「異世界から集結した」設定においてバラバラのデザインで描写されており、それらが不自然なまでに自然に調和する。

ディズニー映画で例えるなら、『プリンセスと魔法のキス』の通常シーンと『夢まであとすこし』のシーンが、『シュガー・ラッシュ』のドット絵のラルフたちとCGのヴァネロペが、『インサイド・ヘッド』の通常シーンと抽象化のシーンが、同じ画面で同時に存在しながら違和感がない、むしろ違和感すら味方につけた感じの演出である。

ピーター、マイルス、グウェンたちは現代的アニメーション、ノワールはオールドファッションなクラシックコミック、ペニー・パーカーは日本風コミック、スパイダーハムはカートゥーン(とりわけ本作はタツノコプロ的なデザインに感じる)という具合に、それぞれコンセプトの違うデザインが施されている。

 

ニ次元か三次元か、2Dなのか3Dなのか、色鮮やかででクールかつサイケデリックな演出が予告編終了直後からエンドロール後のおまけ映像までノンストップ。

(映画が始まる前に「おまけ映像あるよ」というテロップが流れるのでこれはネタバレではない)

 

まさに本物の「動くヒーローコミック」である。

 

「スパイダーマン」は何度も始まる

僕はアメコミ読者ではないが、アメコミ界の常識として「一つのヒーローを別次元として新たに描く」=「別バース」というものが存在するらしい。

それにより、往年のヒーローであるスパイダーマンも、キャプテン・アメリカも、アイアンマンも、ハルクもヒーローとしての要素はそのままに時代や世界観を一新して若い世代の読者にアピールすることができる。

 

また特に「スパイダーマン」という映画は2002年にサム・ライミ監督/トビー・マグワイヤ主演により実写映画化されてからこの17年の間に、マーク・ウェブ監督/アンドリュー・ガーフィールド主演の『アメイジング・スパイダーマン』と、『アベンジャーズ』に合流するマーベル・シネマティック・ユニバース版、ジョン・ワッツ監督/トム・ホランド主演の通称ホームカミング・スパイダーマンと、3人のスパイダーマン・計6本の実写映画が存在する(『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』を含めると計8本)

 

「リブート」と言われ、何度も何度も、似ているようで微妙に異なる設定で新しく始まるスパイダーマン映画。一体何度新しくなるのか、何人スパイダーマンが登場するのかとファンは振り回される。

 

この『スパイダーマン:スパイダーバース』はその振り回される「うんざり」な気持ちを逆手に取り、快感に変えてしまう。

この映画では主人公の存在する次元に、別次元のスパイダーマンが飛び込んできてしまう。たった一つの映画に、設定の違う複数のスパイダーマンが集うのである。

 いろんなマーベルヒーローがクロスオーバーで集結する『アベンジャーズ』のようでいて、集うのはみんなどこかしら似ていてどこかしら違う「スパイダーな人々」

それでいてさらに、映画しか追いかけていない人にとっては、設定は違えど知っているのは「ピーター・パーカーのスパイダーマン」ただ一人。一方本作は「ピーター・パーカー以外のスパイダーマン」も集結する。

 

最も有名だと思われる「サム・ライミ版」のスパイダーマンをそこはかとなく意識し、「微妙に違うスパイダーマンが」「何度もリブートして始まる」という「スパイダーマン映画そのもののメタ要素」までも利用し、意識させてくるとんでもない映画である。

 

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スパイダーマンはひとりじゃない

『スパイダーバース』の主人公は誰もが知るスパイダーマンのピーター・パーカーではなく、アフリカン・アメリカンの父とプエルトリコ人の母を持つマイノリティの10代の少年マイルス・モラレスである。

2011年にコミックスデビューを果たしたキャラクターで、この映画でもコミックスと同様の流れでスパイダーマンとなる。

悩める10代であるマイルスはピーター・パーカーの跡を継いでスパイダーマンを目指し、異次元の先輩スパイダーマンの背中を見て成長する。

この『スパイダーマン:スパイダーバース』は映画を盛り上げるクロスオーバーを存分に活かした、新たなヒーローのオリジンとしても成り立っているのだ。

 

またこの映画は10代の黒人少年たちの背中を押すだけでなく、様々な多様性を含んだ「先輩スパイダーマン」を登場させることにより、劇中で語られる「誰でもヒーローになれる」というセリフに複数の意味を含ませる。

 

『アベンジャーズ』に代表されるマーベル・シネマティック・ユニバースは本来別々の世界のキャラクターを「同一世界観として共演させる」映画であり、本来ありえない組み合わせのキャラクターたちを限りなくリアリティのある改変を施して同化させる。それはそれとしてよくできたものであり、感服する。

 

一方でこの『スパイダーバース』はアニメーション表現の部分で語った通り、絵柄がそのまんま、世界観の違うキャラクターたちが、異質なままそこに存在する。それが彼らの個性であり、アイデンティティだからだ。

 

バツイチ中年でも、女性でも、異人種でも、白黒世界でも、豚でも。人種や世代や生きる世界を超えて、それぞれ異なる様々なバックグラウンドで、ヒーローは生まれ存在する。

 

スパイダーマンはひとりじゃない。

 

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アニメーションの可能性を信じて

アカデミー賞 長編アニメーション部門は 2001年に設立されてから18年間のうち、ディズニーもしくはピクサーが12回受賞する、ほぼ独占状態だった。

(ドリームワークスが2001年「シュレック」2005年「ウォレスとグルミット」の2回、2002年にジブリの「千と千尋の神隠し」2006年にワーナーの「ハッピー・フィート」2011年にパラマウントの「ランゴ」)(ちなみにピクサー9回、ディズニー3回)

 

そんな中、ソニー・ピクチャーズとしては初めての受賞がこの『スパイダーマン:スパイダーバース』となった。

 

ピクサーが『トイ・ストーリー』で長編フルCGアニメーションを製作してから二十余年、CGはどんどん進化しより本物と違わぬリアリティを発揮できるようになり、2016年『ジャングル・ブック』のような人間以外をほぼCGで描く実写版なども登場し、改めて「アニメーションの意義」を考えさせられる状況になっていると思う。

ジブリ作品のような細部にまで行き渡る緻密な2Dアニメーション作品の再評価や、スヌーピーやドラえもんなどの元々2DありきのキャラクターをCGで描いてみせたり、『モアナと伝説の海』のようなCGアニメーションに2Dアニメーションを合成したり、様々な試みがなされてきた。

そしてまた、『スパイダーマン:スパイダーバース』のように視覚的に新たな試みに挑戦する作品が生まれた。それでいて旧時代のアニメーション表現や原作コミックスに到るまでの「歴史」に誠意あるリスペクトが感じられる。

 

この作品のぶっ飛んだ表現は、正直言って無茶だ。

一歩間違えればドラッギーすぎて受け入れてもらえないだろう。

原作漫画があるとはいえ、ヒーローやヴィランがいきなり5人・6人づつ出てきて戦うなんて、いくら尺があっても説明不足や描写不足になりかねない。

作画の違うキャラクターが同じ画面に同時に存在しているなんて悪い冗談、ギャグにしか見えない。

こんな映画は自分たちを、そしてアニメーションの可能性を信じていないと到底作れないだろう。

 

ディズニーとは違い、芸術扱いされないアニメーション。よりにもよって題材がどエンタメのアメリカンコミックのヒーローのスパイダーマン。

「これはギャグなんですよ」と口では言いながらも、目だけは本気で、アニメーションの歴史と常識を塗り替えてやろうという情熱が垣間見える。

だからこそ、キャラクターに命が宿る。例えありえない絵面でも、手抜きのないドラマに胸を打たれる。放ちたいメッセージがきちんと届く。

 

「カートゥーンの何が悪い」

 

そんな製作者の本音がポロっと零れ出たような真面目さがあった。

 

 

僕はディズニーファンだから、このような作品がディズニーから生まれなかったことはいささか残念でもある。

黄金時代・ルネサンス期のアニメーターが去り、ラセターも消えた今ディズニー/ピクサーは厳しいのが現状だとも思う。振り返ればドリームワークス、イルミネーションズ、スタジオ ジブリ、ワーナー・ブラザース、そしてソニー・ピクチャーズだ。(フォックスは買収したけど)

 

そして『スパイダーマン:スパイダーバース』はディズニー/ピクサーの送り出すヒーロー映画やクロスオーバー映画に打ち勝った。

単なるスパイダーマン映画に止まらない表現、多様性、メッセージ性、そして今後のアニメーションのあり方を一気に変えてしまうような、可能性に満ちた映画だった。

  

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