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ピクサー初の大ベタなラブストーリー『マイ・エレメント』むき出しの想いを抱えて生きること。

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Disney Pixar Elemental: The Junior Novel (From the Movie)

ディズニー/ピクサー最新作『マイ・エレメント』(原題:Elemental)観ました。

ピクサーとしては『バズ・ライトイヤー』以来の作品。

 

例によって、わざわざ邦題を変えた効果はそんなに無さそうだった。

それよりも日本版ポスターは映画の一番美味しいシーンを思わせるのである種ネタバレなんじゃないかと思ったり・・・。

それよりもそれよりも、米国より1ヶ月公開遅れなのマジで勘弁してください。

 

そんなこんなで、他にもかけてない感想が下書きに溜まりに溜まっているが、『マイ・エレメント』感想です。

あ、時間がなく吹き替えで見たんだけど、

玉森くんはキャラにぴったりでめちゃくちゃ良かったよ。

 

※この記事は現在公開中の映画『マイ・エレメント』のネタバレを含みます

 

マイ・エレメント

マイ・エレメント

  • Walt Disney Records
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目次

 

ピクサー初の「大ベタな」ラブストーリー

本作はピクサー初のラブストーリーである、とあえて断言する。

いや、正直『WALL.E』はメインがラブストーリーなのだけど、その割にはサブのストーリーが人類が地球での再起をかけるSFアドベンチャーという壮大さで、ちゃっかりヴィランもいてバトってるし直球ではないよな、というところで。

 

『マイ・エレメント』は移民や差別の問題を描いてはいるし、それが重要な要素であることには間違いがないが、あくまで主題はラブストーリーと家族の問題、そして自己実現の話である。

種の違う生き物たちが暮らす理想郷を同じように描いた『ズートピア』が、差別や無意識的偏見そのものを主題としていたのとは少し異なっている。『ズートピア』はそれでいて、ストーリーがフィルムノワールだったことが脚本に深みを与えている。

 

だが本作は実にシンプルだ。

自己実現に悩む主人公がある日恋に落ちる、ところがその恋愛にも障壁があって・・・という筋書き。これだけ読んでも『リトル・マーメイド』と『マイ・エレメント』のどちらかわからない。

 

本作はピクサー作品で、ピクサーといえば長編第1作の『トイ・ストーリー』の制作時に「No Songs」「No "I Want" Moment」「No Happy Village」「No Love Story」を掲げて、(ディズニーでの配給であるにも関わらず)昔ながらの典型的なディズニー作品とは違う作品を追求してきた。

 

もちろん、これらの制約はピクサーの重鎮から新しいスタッフたちへバトンが渡る過程で徐々に変化している。『リメンバー・ミー』でミュージカルもやったし。

でも、あのピクサーが、いい意味で捻りの少ない、昔ながらのディズニー作品のようなラブストーリーをやるというのは面白いなと思った。

 

そういう意味で、この『マイ・エレメント』はど直球に、大ベタなラブストーリーだと断言できると思う。

 

「火と水が結ばれない」ことが問題ではない

しかも、何の気なしに映画を見ていると実はこの映画、I wish I could be a perfect daughterな主人公がwho I am insideをreflectionする物語だった。

(※ディズニー映画『ムーラン』のReflectionという歌曲の歌詞であり、要は親の理想とかけ離れた自分こそが本来の自分のありたい姿なんだとレリゴーする的なざっくり説明)

 

火が忌み嫌っている水に恋するんだからそりゃそうだろ、という話なのだけど、そっちではなかった。

 

本作はラブストーリーでありながら、この作品で最もエンバーを悩ませているのは「火と水は結ばれない」という『ロミオとジュリエット』や『ウエスト・サイド・ストーリー』のような身分や人種や格差による障害のほうではない。

彼女自身が抱える「父の店の後継者問題」のほうだった。

 

主人公エンバーは、父の店「ファイアプレイス」の後継になるべく奮闘している。エンバーの父は、移民一世としてエレメントシティにやってきて自らの店、そして「ファイアタウン」というコミュニティを苦労して築いた人物で、その全てを家族を守るために費やしてきた。自身が引退し、店を彼女に譲ることが父の悲願である。

 

彼女自身のやらかしにより、その大事な店が水浸しになってしまうところが、エンバート水のエレメント・ウェイドの出会いのきっかけであり、彼らはその問題に取り組むことで仲を深めていく。

物語は「店の水漏れ問題の解決と営業停止の取り下げ」「エンバーが後を継ぐ」「父の夢を叶える」に常に軸足を置いていながらも、「エンバーとウェイドの結ばれない恋」にどうしても意識を向かされてしまう。

 

だからこそ、彼女自身がある時「私は後継者になんかなりたくないんだ」という本音に気づいてしまった時にハッとさせられる。

 

主人公であるエンバー自身が、それを望んでいるかのように繰り返し言い聞かせていたのだから、観客は気づかなくて当然である。

 

洗脳、というのが適切かはわからない。エンバーの父も悪気はない。

だが、知らず知らずに言い聞かされてきた言葉が、足枷のように人を縛ってしまうことは起きうるし、縛られていたことにすら気づけないことも当然あるだろう。

 

だが、それの気づきを与えるきっかけが、他のエレメントとの何気ない交流であったというのも、非常にリアリティがある。

 

これまでのベタな恋愛を描いたディズニー作品が、「恋愛」そのものが到達地点で、そのために「新たな生き方」を見出していたのに対して、本作は「恋愛」と「生き方」に直接的な接点がない。最終的にエンバーとウェイドが共に旅に出るのは、ウェイド目的を見失っていたからであり、たまたまだ。

その話の運び方が意外で、私には非常に非常に面白く感じられた。

 

監督のパーソナリティを反映させた本作

本作の監督ピーター・ソーンは、ピクサー長編作品としては監督交代劇の末に後始末を任された『アーロと少年』以来となる。そのほか短編『晴れ ときどき くもり』を製作している。また、『カールじいさんの空飛ぶ家』のラッセルのモデルでもある。

彼自身は『アーロと少年』の家族観など、本作にも通ずるメッセージがあるとは語っているが、『マイ・エレメント』に込めたパーソナルな部分を垣間見るに、本作が実質のデビュー作といってもいいだろう。

 

ピーター・ソーンは韓国系アメリカ人で、移民二世、彼の両親はアメリカで食料品店を建てて生活していたらしい。彼は実家を継がずにピクサーのアニメーターとなり、そしてカルアーツで出会った韓国系ではない女性と結婚したという。

 

彼や、彼の家族が受けてきたアメリカに住むアジア人としての差別や排斥、両親が生まれた故郷の文化を守ることやその思いと、自身は「アメリカ人」として生まれ育ってきたという、同じ家族の中でのカルチャーや考え方の違いも、本作には色濃く反映されているのだろう。

マイノリティとして生きることと、アメリカ人として生きること。

韓国人でもなく、アメリカ人でもない扱いを受けること、感じること。

 

これらのテーマは近年『クレイジー・リッチ・アジアンズ』や『フェアウェル』『イン・ザ・ハイツ』『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』ディズニー/ピクサーの『私ときどきレッサーパンダ』などでもそれぞれ比重は異なれど描かれてきた。

 

本作もまた、エレメントという比喩を通しながら、エンバーという主人公を通して、彼女の文化への帰属意識への葛藤と、そういったしがらみから脱却し「自分自身」そして意思があり選択権のある「ひとりの人間」としての自立を描いている。

 

フェアウェル(字幕版)

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むき出しの想いを抱えて

とううわけで、ありがとうございました『マイ・エレメント』

シンプルだし、とてつもないインパクトのある作品では決してないけれど、語るべき要素は多くある非常に良い作品でした。

単純に「結ばれない恋」の物語としてみても普通にドキドキできるのはいいよね。

 

語り口としては非常に早口な展開だったように思うし、もう少しウェイドの魅力と、他のエレメントとの関わりがあればなおピクサーらしくて良かったかな、とは思います。

 

まぁそれでも、形や表現方法が変われど、やはり目指している到達点が「ありのまま」であるというのがディズニー社として一貫しているのも私的には高評価です。

ブログ書いている身からすれば何回この話するんだという感じだが。

 

elementalとは 意味・読み方・使い方

意味・対訳

(古代自然科学の)四大元素の、自然力の、自然力に似た、

自然のままの、むき出しの、単純素朴な、元素の

 

 -英語「elemental」の意味・読み方・表現 | Weblio英和辞書

※太字は筆者

 

帰属する文化に根ざして「らしく」生きることと、むき出しの想いを抱えて自分自身の選択で、ありのままに生きること。

どちらが正解でどちらが不正解とかではない。その両方を選び取ることも、捨てていくこともできる、はず。葛藤や衝突、さまざまな障壁があれど、その生き方は矛盾でもなんでもない。

そんな思いが込められた映画かな、と感じた。

 

 

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