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ピクサーの監督を語る その4:リー・アンクリッチ

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「ピクサーの監督を語る」シリーズ第4回はリー・アンクリッチ監督。

ただ、どうしよう。監督作が2本しかない。

 

ピクサー初期から編集に携わっており、メインの監督作は2本だけだけども共同監督などで存在感を発揮していた方。

2019年にピクサーを退社したが、正直もっとたくさんの作品を作って欲しかった。

 

前回

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目次

 

ピクサー作品とその監督一覧

例によって、ピクサー映画長編作品の監督を列記していく。 

(このリストは毎回載せる予定)

  1. トイ・ストーリー(1995)/ジョン・ラセター
  2. バグズ・ライフ(1998)/ジョン・ラセター
  3. トイ・ストーリー2(1999)/ジョン・ラセター
  4. モンスターズ・インク(2001)/ピート・ドクター
  5. ファインディング・ニモ(2003)/アンドリュー・スタントン
  6. Mr.インクレディブル(2004)/ブラッド・バード
  7. カーズ(2006)/ジョン・ラセター
  8. レミーのおいしいレストラン(2007)/ブラッド・バード
  9. WALL.E(2008)/アンドリュー・スタントン
  10. カールじいさんの空とぶ家(2009)/ピート・ドクター
  11. トイ・ストーリー3(2010)/リー・アンクリッチ
  12. カーズ2(2011)/ジョン・ラセター
  13. メリダとおそろしの森(2012)/マーク・アンドリュース、ブレンダ・チャップマン
  14. モンスターズ・ユニバーシティ(2013)/ダン・スキャンロン
  15. インサイド・ヘッド(2015)/ピート・ドクター
  16. アーロと少年(2015)/ピーター・ソーン
  17. ファインディング・ドリー(2016)/アンドリュー・スタントン
  18. カーズ/クロスロード(2017)/ブライアン・フィー
  19. リメンバー・ミー(2017)/リー・アンクリッチ
  20. インクレディブル・ファミリー(2018)/ブラッド・バード
  21. トイ・ストーリー4(2019)/ジョシュ・クーリー
  22. 2分の1の魔法(2020)/ダン・スキャンロン
  23. ソウルフル・ワールド(2020)/ピート・ドクター
  24. あの夏のルカ(2021)/エンリコ・カサローザ
  25. 私ときどきレッサーパンダ(2022)/ドミー・シー

 

 リー・アンクリッチ監督作は『トイ・ストーリー3』と『リメンバー・ミー』の2作。

 

涙腺崩壊必至のウェットな作品作り

ピクサー映画は泣ける、とはよくいうけれど例えばジョン・ラセターやブラッド・バード監督作はそれほど「感動で泣かしてやろう」というシーンがあまりない、比較的ドライな作りになっている。

もちろん「目的の達成」や「キャラクターの成長」の爽快感による感動はあるし、『トイ・ストーリー2』の「When She Loved Me」なんかは涙腺崩壊ものだけども、ジェシーというキャラクターを語る上での必然性や彼女の悲劇性を考えると、リー・アンクリッチのもたらす「感動」とは若干ベクトルが異なるようにも思える。

そもそも「ディズニーナイズドされていないアニメ作品を作る」というスタンスから始まったピクサー長編作品群において、ピクサーの監督陣たちはベタで湿っぽい作品を嫌いそうな感じがしないでもないし、泣けそうなシーンでギャグを突っ込んで照れ隠しするクセがあるように思う。

 

一方でリー・アンクリッチ作品、つまるところ『トイ・ストーリー3』および『リメンバー・ミー』は、非常にエモーショナルで温度感のある泣き所が用意されており、非常に「泣ける」作りになっている。

 

ベタだからこそ、すっと胸に落ちる満足感

 

先述した『トイ・ストーリー2』の「When She Loved Me」、そして『ファインディング・ニモ』のマーリンが妻と子供たちを失くすプロローグ、『カールじいさんの空とぶ家』のカールとエリーの生活のシーンは、ピクサー史上の「泣けるシーン」の中でもかなり上位のシーンだろう。

しかしこれらは、かなりドラマティックではあるが、それぞれのキャラクターの悲劇的な喪失の過去を描写する「状況説明」にあたるシーンであり、物語のクライマックスとは異なる。

 

一方のリー・アンクリッチの「泣けるシーン」は、非常に温かい、温度感を感じるものだ。よく言えば王道、悪く言えばベタと言ってもいい。

『トイ・ストーリー3』も『リメンバー・ミー』も構造としてはよく似ていて、序盤からしっかりと観客をキャラクターへ感情移入させ物語を紡いでいき、ヴィランとのなんやかんやがひと段落した後の、最後の最後に「泣き所」を用意して涙腺を崩壊させるつくりだ。

「アンディがボニーにおもちゃたちを託すシーン」そして「ミゲルがママ・ココに『リメンバー・ミー』を歌い、一族に音楽と、ヘクターの記憶を再びもたらすシーン」がそれにあたる。

 

もっと言えば『トイ・ストーリー3』に至ってはキャラクターへの感情移入の段階が『トイ・ストーリー』そして『2』で10年近くにわたって積み上げられている分、そのカタルシスはえげつない。

シンプルで、残酷な運命も意外性もなく、誰もが納得する結末を、より丁寧に丁寧に描いていく。

 

ラセターには描けない『トイ・ストーリー3』

『トイ・ストーリー』そして『トイ・ストーリー2』は、ピクサーの元COOであるジョン・ラセターが監督した作品である。それが『トイ・ストーリー3』でメガホンを取ったのはリー・アンクリッチとなった。

私はこのことをことあるごとにtwitterでつぶやいているのだが、

ジョン・ラセターは、きっと彼の信条ゆえに『トイ・ストーリー3』が作れないのだ。

 

私がブログの「ピクサーの監督を語る」シリーズのジョン・ラセターの回でも語ったように、ジョン・ラセターは「捨てられない人」なのである。

彼のピクサー時代のデスクには、大量のおもちゃが溢れ、その中には彼が子供の頃に買ってもらったという「喋るキャスパー人形」までもがある。

初期の『トイ・ストーリー』のアンディには、ラセターの自己投影が激しいし、同僚のアンドリュー・スタントンらからも呆れられるほどだ。

 

そこまで、おもちゃを大切にする彼が『トイ・ストーリー3』の「大切にしていたおもちゃたちをボニーに託す」という映画を、果たして撮れるだろうか?

もしかすると、おもちゃたち全員を大学の寮に連れて行って遊ぶ、ヘンテコな映画になってしまっていたかもしれない。それはそれで面白そうだが、世の中の共感が得られるかというとかなり微妙だろう。

 

だが、リー・アンクリッチならば、ウッディらおもちゃたちとアンディ・ディヴィスの物語の決着を描ききることができる。

しかもかなりウェットに。

 

ピクサー初のミュージカルで体現するRepresentation Matters

『リメンバー・ミー』という映画は、ピクサー映画として初めてミュージカルを取り入れた映画で、そういう意味ではピクサー作品の中では特殊な作品となっている。

ミュージカルといっても、登場人物がセリフの代わりに歌で状況説明するようなものではなく、登場人物が物語の必要に応じて歌を歌う、『ジャージー・ボーイズ』とか『ボヘミアン・ラプソディ』のタイプのミュージカルだ。

主人公ミゲルは歌手を志しているからこそ、この設定は自然であり、当初「ミュージカルアニメは絶対やらない」と宣言していたピクサーにおいての劇中歌の導入としては、大真面目にアリだと思う。(これまでも登場人物の心情を描写する目的で劇中歌が流れることがあったが、キャラクターが歌うという表現は始めてである)。

主題歌は『アナと雪の女王』の「Let It Go」でオスカーを獲得したロバート&クリステン=アンダーソン・ロペス夫妻。彼らは本作に書き下ろした「Remember Me」で、2度目のオスカーを獲得する。同年大ヒットとなった『グレイテスト・ショーマン』の「This Is Me」を抑えての受賞と聞けばその凄さがわかるだろう。楽曲単体の素晴らしさだけでなく、映画のストーリーやメッセージとしっかりとリンクして高評価され、印象に残した結果だと思う。(今となってはこの作品もディズニー映画ではあるが)

 

また『リメンバー・ミー』という作品はオスカーの長編アニメーション部門をも受賞する。

この際授賞式のスピーチで監督のリー・アンクリッチが語った言葉を(幾度となく引用しているが)引用したいと思う。

With Coco we tried to take a step forward toward a world where all children can grow up seeing characters in movies that look and talk and live like they do,

Marginalized people deserve to feel like they belong.

Representation matters.

 

私たちは、すべての子供たちが自分たちのように見たり、話したり、生活するキャラクターを見て成長できるような世界に近づけるように挑戦しました。

社会的に無視されている人々が、自分たちにも居場所があると感じるのは当然のことです。

(※Representation mattersは訳が難しいのであえて訳していません)

 

この精神は、ピクサーだけではなくディズニー映画スタジオ全体に浸透し、今後強化されていく概念だろう。

今後公開予定のピクサー作品『私ときどきレッサーパンダ』は短編『BAO』を製作したドミー・シー監督による中国系カナダ人コミュニティで描かれるアニメーションだし、

WDAS作品の『モアナと伝説の海』『ラーヤと龍の王国』『ミラベルと魔法だらけの家』マーベル・スタジオの『ブラックパンサー』に『シャン・チー/テン・リングスの伝説』、Disney+で配信されている短編シリーズPixar SparkShortsや実写短編のLaunchpadなどはまさにそういった作品が数多く登場している。

 

『リメンバー・ミー』が公開された2018年は、米国ではまだドナルド・トランプ大統領が現役の時期である。

「メキシコ国境に壁を作る」と差別や偏見をあからさまに肯定した過激な政策を行う政治に対し、映画を、アニメーションを作る人間ができること。その最も効果的な方法が「作品で黙らせること」だろう。

この映画を見た、全ての人間の考えが変わるとは思わない。それでも作品はずっと構成に残り、評価され続ける。

2016年の『ズートピア』はあからさまに「差別と偏見」をテーマに高評価を博した。

『リメンバー・ミー』はまた違ったアプローチ、そこに確かに存在する「見えなかった人たち」を形にして、文化を称賛することで理解を深めていく。

 

ピクサーの映画は、登場人物がおもちゃであったり、モンスターであったり、魚であったりすることもあり、これまで「人種」や「社会的役割」に着目して、ここまで明確にポリティカルに描くことはあまりなかった。

新たなディズニープリンセスの体現として制作された『メリダとおそろしの森』くらいだろうか。

登場人物を人間に置き換えれば、きちんとポリコレしている部分もあるにはあるのだが、どちらかといえばステレオタイプを擬人化キャラクターに落とし込んで笑いに繋げてきた、という方が近いだろう。『カーズ2』の日本の描写なんかはまさにそれだ。

 

ピクサー設立当時からのベテランのピクサーの監督で、このポリティカルな課題に真摯に向き合い、照れ隠しや茶化しもなしに表現できる人物を考えると、ジョン・ラセターやアンドリュー・スタントンよりはピート・ドクターやリー・アンクリッチが適任であるような気はやはりする。

そして、リー・アンクリッチが見事にやってのけたのが『リメンバー・ミー』という映画だろう。

アカデミー賞授賞式という場で、ピクサーを長年支えてきたリー・アンクリッチという人間が、明確に言葉でこの指針を表明してくれたことは非常に意義があると思う。

 

勘違いしてほしくないのは、あくまでも『リメンバー・ミー』における「ポリコレ」や「Represantation Matters」は、映画を制作する上での「配慮」にあたる部分であり、それ自体がテーマではなく、根底にあるのは「家族の大切さ」という普遍的なテーマだ。それは今までのピクサーでも幾度も描かれてきているが、『リメンバー・ミー』はアプローチの仕方が非常にシンプルで、ストレートだ。

 

『シャイニング』とリー・アンクリッチ

これは単なるオマケ程度に認識して欲しい話。

 

スティーブン・キング原作、スタンリー・キューブリック監督作の名作サスペンス映画『シャイニング』

リー・アンクリッチはこの作品のヘビーファンとして知られており、彼が携わった映画の随所にこの映画の影響を及ぼしている…。

ということで、当記事を書くにあたって『シャイニング』を観たのだが、めちゃくちゃ面白かったけど、ストーリーの根幹に関わる部分での影響はさすがにないというか、土台が違いすぎた。めちゃくちゃ面白かったけど。

 

それでもピクサーでお馴染みのイースター・エッグやパロディとしての『シャイニング』への言及は彼が監督をやる以前から盛り込まれており、

『トイ・ストーリー』1作目のシドの家のカーペットが『シャイニング』のホテルのカーペットと同じ柄だったり、『トイ・ストーリー3』にはホテルの部屋番号、『リメンバー・ミー』には有名な双子のイラストが登場していたりと数多い。

 

彼は個人で『シャイニング』のファンページを運営していたり、その思いの強さとマニアックぶりは有名である。

www.mentalfloss.com

www.empireonline.com

いつでも帰ってきていいんだよ、リー・アンクリッチ

ピクサーは世代交代の時期になってきていると思う。

 

現CCOのピート・ドクターは現役バリバリで『ソウルフル・ワールド』を作ってはいるけど、ここ数年は例えば『カーズ3』のブライアン・フィー、『トイ・ストーリー4』のジョシュ・クーリー『あの夏のルカ』のエンリコ・カサローザ、『私ときどきレッサーパンダ』のドミー・シーなど、新たな面々が監督をするようになってきている。

ジョン・ラセターは事実上追放され、元社長のエド・キャットムルと、リー・アンクリッチも退社。アンドリュー・スタントンやブラッド・バードはディズニーにこだわらず実写やドラマなどの製作で活躍の場を広げている。

 

新たな監督による一味違った楽しみを垣間見ることができるのはワクワクでもあり、一方でやはり『トイ・ストーリー3』『リメンバー・ミー』という、多くの人々がピクサーにおいてベストに挙げるような作品を作ってくれたことを思うと、

まだまだ観たいんだよな。彼の作品が。

 

是非また、帰ってきて映画を作って欲しいな。

 

ピクサーの監督を語るシリーズ

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