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ピクサーの監督を語る その2:アンドリュー・スタントン

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ウォーリー (字幕版)

というわけで、第2弾である。

アンドリュー・スタントンはディズニー界隈で有名というより、映画ファン・ドラマファンに有名な印象。

順当に行けば2番目はピート・ドクターだろって感じだが、彼はトリにとっておきたいな・・・という理由で、2番目はスタントン。

 

 

その1「ジョン・ラセター編」はこちら。

www.sun-ahhyo.info

 

目次

 

ピクサー作品とその監督一覧

前回と全く同じだが、ひとまずピクサー映画長編作品の監督を列記していく。 

(このリストは毎回載せる予定)

  1. トイ・ストーリー(1995)/ジョン・ラセター
  2. バグズ・ライフ(1998)/ジョン・ラセター
  3. トイ・ストーリー2(1999)/ジョン・ラセター
  4. モンスターズ・インク(2001)/ピート・ドクター
  5. ファインディング・ニモ(2003)/アンドリュー・スタントン
  6. Mr.インクレディブル(2004)/ブラッド・バード
  7. カーズ(2006)/ジョン・ラセター
  8. レミーのおいしいレストラン(2007)/ブラッド・バード
  9. WALL.E(2008)/アンドリュー・スタントン
  10. カールじいさんの空とぶ家(2009)/ピート・ドクター
  11. トイ・ストーリー3(2010)/リー・アンクリッチ
  12. カーズ2(2011)/ジョン・ラセター
  13. メリダとおそろしの森(2012)/マーク・アンドリュース、ブレンダ・チャップマン
  14. モンスターズ・ユニバーシティ(2013)/ダン・スキャンロン
  15. インサイド・ヘッド(2015)/ピート・ドクター
  16. アーロと少年(2015)/ピーター・ソーン
  17. ファインディング・ドリー(2016)/アンドリュー・スタントン
  18. カーズ/クロスロード(2017)/ブライアン・フィー
  19. リメンバー・ミー(2017)/リー・アンクリッチ
  20. インクレディブル・ファミリー(2018)/ブラッド・バード
  21. トイ・ストーリー4(2019)/ジョシュ・クーリー
  22. 2分の1の魔法(2020)/ダン・スキャンロン
  23. ソウルフル・ワールド(2020)/ピート・ドクター

 今回話すアンドリュー・スタントンが監督した映画は

『ファインディング・ニモ』『WALL.E』『ファインディング・ドリー』の3作。

 たった3作であるが、脚本家としてみると彼の関わった作品は一気に増える。

 

ピクサーの屋台骨的存在

私個人としては、ジョン・ラセター以上に敬愛しているピクサースタッフがアンドリュー・スタントンだ。

世間的には『ファインディング・ニモ』や『WALL.E』の監督として知られているが、それ以上にほとんどのピクサー作品の脚本に関わっている人物でもある。

 

ジョン・ラセターら多くのディズニー/ピクサースタッフの卒業したカリフォルニア芸術大学(カルアーツ)の卒業生であり、卒業後はTVシリーズの『新マイティ・マウス』という作品で脚本に携わり、その後はピクサーの設立のために9人目の社員として、また2人目のアニメーターとしてエド・キャットムルやラセターの元にやってくる。

脚本家として『トイ・ストーリー』『バグズ・ライフ』『トイ・ストーリー2』『モンスターズ・インク』に携わり、自身の監督作はもちろんのこと『レミーのおいしいレストラン』『カールじいさんの空飛ぶ家』『メリダとおそろしの森』『モンスターズ・ユニバーシティ』『インサイド・ヘッド』では制作総指揮などを担当。

『トイ・ストーリー4』においても「ウッディとボーが再会する話」という原案を持ち込んだのは彼だと言われている。

 

自身が監督した『ファインディング・ニモ』ではピクサー映画として初のアカデミー賞長編アニメーション部門を受賞している。

また『WALL.E』で2度目の受賞を果たしている。

 

ストーリーテリングの神様

アンドリュー・スタントンという人物は、私に言わせれば「ストーリーテリング」の神様のような人だ。

物語に、キャラクターに、一本の筋をビシッと通してくれる人物。

キャラクターを、ただの物語を動かすための駒として配置するのではなく、

それぞれに背景のある、感情と意思、性格の塊のようなものとして捉えて物語を構築していく人だ。

だからこそ、複数の人間が関わって作られている映画にも、キャラクターの行動にブレがなく、行動理由が非常に明確である。

行動理由が明確であると、たとえその登場人物が自身の性格と合わなくても、ストーリーの流れを理解しやすい上に、感情移入もしやすくなる。

 

『ファインディング・ニモ』ではニモ、マーリン、ドリー、そしてギルなどの全く性格の異なるキャラクターを丁寧に描き、彼らの感情のぶつかり合いにより多くの人々が涙を流した。

そして、『ニモ』でとてつもないインパクトを残したドリーの過去に迫る『ファインディング・ドリー』では『ニモ』でも描かれたテーマをより濃密に圧縮したようなアプローチで、様々なディサビリティを持つ人々を勇気付けた。

 

また『WALL.E』の主人公たちは言葉を話さないロボットである。

言葉や会話を用いず、ロボットたちの感情表現のみでストーリーを展開させていく。言葉はないが会話はある、そう感じさせる演出の力。映像表現の力。さすがはピクサーである。

またそんな主人公ウォーリーが地球を飛び出して出会うのが、進化して感情表現することができるロボットたちと、反対にロボットに管理され感情表現や生の喜びなどを無くしてしまった人間たちなのだから面白い。

 

そして特徴としては、どちらも世界観が暗いのである。

淀んだ海の中、ゴミにあふれ誰もいなくなった地球、そして宇宙。

グレートバリアリーフのサンゴ礁などが登場するシーンもあるが、大海原の大冒険の大半は暗い絵になっている。

 

『WALL.E』のもつ皮肉

 『ファインディング・ニモ』『ファインディング・ドリー』にしろなんにしろ、エグい題材を可愛いキャラクターで描くのがアンドリュー・スタントンの特徴であると思う。

 

『WALL.E』という作品は、大気汚染とゴミの増加により人類が住めなくなった地球でゴミ処理ロボットのウォーリーが健気に生きるところから始まる。

ある日宇宙から最新鋭のロボットのイヴが現れて、ウォーリーは恋に落ちる。

この言葉を交わさない2体のロボットのラブストーリーという、非常に可愛らしく美しい映像と物語に、とんでもない「人類への皮肉」をぶっ込んだのが『WALL.E』という映画である。

 

ウォーリーとイヴのラブストーリーの裏で展開されるのは、宇宙へと脱出した人類が宇宙戦アクシオム号でコンピューターに管理されながら、家畜のような生活を送っているというストーリーだ。

 

『WALL.E』を初めて見たときは本当に驚いた。

そんな話だとは全く思わなかったからだ。

 

彼らは食べられるわけではないが、度を越した快適な生活に身を包み、生きる意味を失い、ただ怠惰に、丸々と太らされながら子を産み続けるのみの生活を営んでいる。

その人生に他者の介入はなく、愛も夢も目的もない。

これは人々が「快適な生活」を求めすぎること、そして「与えられる情報をただ鵜呑みにすること」への警鐘である。

人類が地球を去ってから700年続く、管理され作られた偽りの平和と幸せは、ウォーリーという「ノイズ」により乱され、壊され、劇中の人類は再び真実と「生きる喜び」に気付き始めていく。

 

発端は人類が生み出したコンピューターではあるが、真実にたどり着かせまいとするその「管理者」ともいえるヴィランへ、映画に登場する人々は反乱を起こす。

 

本作に登場する人類は、本来感情のないロボットでありながら、意思を持ちイヴと恋に落ちるウォーリーとの明確な対比である。

ロボットのラブストーリーと、コンピューターに支配された人々の反乱というのは、それだけ聞くと突拍子も無い2つの物語に聞こえるかも知れないが、この2つを繋いでいるのは「生きる喜び」としての「愛」だ。

 

 そして、極端に快適で、生産性があり、無駄のない管理された世界で失われるのは、ピクサーが追求しているような「芸術やエンターテイメントの世界」でもあるのだ。

そこを踏まえると、『WALL.E』のエンドロールは実に素晴らしく、無駄と思えるような出来事がどれだけ尊いものなのかを感じさせる。

 

そして、エンドロールの終了後の企業ロゴで、アンドリュー・スタントンは本作最大の皮肉をぶん投げてくる。

 これもまた「提供された情報をただ飲み込んで、気持ち良くなってるんじゃねーよ」とも言いたげな、鋭いナイフのような威力があるのだ。

 

やられた。

この人は本当に優しいようでいて、グサグサと人の甘い考えを突いてぶっ刺してくるのだ。

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観る人をぶっ刺す悲痛な叫び

アンドリュー・スタントンは映画の物語を通して、キャラクターたちに様々な価値観を提示し、成長させていく。

極端なステレオタイプを「こういう人、いるいる」というあるあるな笑いにしてしまう部分もあれば、別の視点から、また何気ない一言から、無意識にそれらの価値観や属性を見下したり、甘くみていた自分に気づかされ、グサグサと心を串刺しにされてしまう時もある。

 

『ファインディング・ニモ』のマーリンやタンク・ギャングのギルはまさに見る側の映し鏡のような存在だと思う。

 

また『ファインディング・ドリー』では『ニモ』でも描かれた「障がいをもつ人々」をより濃密に描いている。

この作品の主人公ドリーは、『ニモ』でも語られたように短期記憶障がい(Short-term memory loss)である。(日本語吹き替え版では「なんでもすぐ忘れちゃうの」と訳されていたが)

『ニモ』であれほど視聴者をイライラさせたドリーを、改めて描きなおすことで彼女の持つ悲痛な叫びを視聴者に浴びせかける。お気楽でノーテンキで前向きと思われていた彼女が、想像を絶する悲しみの過去を持っていることを知る。

だからこそ、この作品は真正面に受け止めてしまうと非常に重く、暗い。

 

それでもピクサーは逃げない。

子供がどこまで理解してくれるだろうかと、甘い考えを持たずに、そのままドリーの悲しみと恐怖と不安をぶつけてくる。だからこそ大人の我々も胸を締め付けられる。

 

『ファインディング・ドリー』のハッピーエンドは御都合主義に思えるかも知れないけど、「障がい」を持つキャラクターたちが、それぞれのハンディキャップを力を合わせて乗り越え、そして導き出すラストは本当に美しいと思う。

感動ポルノと言われるかもしれない、現実はそううまくいくとは限らない。

でもフィクションの世界くらい、こういう救いがあったっていいと思う。

 

『ズートピア』に投げた神の一声

2016年に公開されたこの『ファインディング・ドリー』はその年のアカデミー賞長編アニメーション部門にノミネートされることはなかった。

この年、アカデミー賞長編アニメーション部門を受賞したのはウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオ『ズートピア』だ。

この『ズートピア』も肉食動物と草食動物の対立を描くにあたり、当初はニックを主人公として話が進んでおり、ズートピアでは肉食動物が成人する際、興奮すると首に電流の流れる首輪が取り付けられるという設定があった。

映画の制作に行き詰まった監督のバイロン・ハワードは、ピクサースタジオとの交流の中でアンドリュー・スタントンから「ニックを通して観たズートピアは好きになれない」との助言を受けたという。

肉食動物であるニックからすれば、ズートピアは自身を抑圧し加害してくる町だ。住みたいはずがない。

映画製作はかなり終盤であったが、その助言から、ハワードは首輪のくだりをなくし、主人公をニックからジュディに変更し、より希望に満ち溢れた主人公が、街中に存在する陰謀に立ち向かうという物語に方向転換をした。

 

アンドリュー・スタントンがこの助言をしなければ、僕らの知っている『ズートピア』という映画はもしかしたら存在しなかったのかも知れない。

誰かが気づいたとしても、その影響力がなければかき消えていた可能性だってある。

 

正直私はディズニーアニメーションで現時点での最高傑作というか、どこに出しても恥ずかしくない作品は『ズートピア』だと思っている。

こんなにも素晴らしい作品は、いろんな紆余曲折と、さまざまな試行錯誤で成り立ってはいるが、ある一人の人物のアドバイスから180度方向転換して生まれることもあるのだ。

『ファインディング・ドリー』でスタントンはアカデミー賞を逃したが、『ズートピア』のアカデミー賞受賞はスタントンの助言がなかったら、到底なし得なかっただろうと思うと感慨深いものがある。

 

 

『ジョン・カーター』の失敗

 

『ジョン・カーター』という映画がある。

ディズニー映画ファンでも、この作品を見たことがある人はどれほどいるだろうか。

日本でもディズニー+で観れるので是非観て欲しい。

 

『ジョン・カーター』の原作は「火星のプリンセス」という作品で、「ターザン」の原作小説など書いたエドガー・ライス・バローズが書いたSF小説である。

このシリーズの小説は大ヒットし、80年代からディズニーをはじめとする様々な映画会社が実写化の企画を立ち上げ(それ以前にはアニメ化なども企画されていた)たが、その度にたち消え、00年代に当時のディズニー会長ディック・クックが新たに立ち上げた企画が本作である。

 

そして、この伝説の作品の監督に、なんと自ら名乗りを上げたのがアンドリュー・スタントンである。

当初は実写映画未経験のスタントンにディズニーは懐疑的だったが、原作ファンだったスタントンは『ファインディング・ニモ』『WALL.E』を大ヒットさせることで納得させ、しかも映画に無名俳優を起用することまで納得させた。

当初は三部作構成で計画され、本作は脚本家のマーク・アンドリュース(『メリダとおそろしの森監督』)をはじめとする様々なピクサーのスタッフも参加した。

 

そして、結果はディズニー史上でも近年稀に見る大爆死である。

2010年の『トロン:レガシー』2012年の『ジョン・カーター』そして2015年の『トゥモローランド』と、内容はともかくディズニー発のSFはどうも不発だ。

 しかも『トゥモローランド』は『Mr.インクレディブル』のブラッド・バードが監督なので変なジンクスができそうである。(『トイ・ストーリー』に脚本で参加したジョス・ウェドンは『アベンジャーズ』を大ヒットさせているが)

 

だが内容はそんなに悪くはない。

火星に飛ばされた冒険家の男ジョン・カーター。裸に皮のベルトをした筋骨隆々のイケメン男性が火星を駆け抜け、火星に住む人類やクリーチャーの種族たちとの抗争に巻き込まれプリンセスと恋に落ちるというストーリーである。

 

原作を知らないので、得体の知れなさに戸惑いながら観続けていたが、なかなか引き込まれすストーリーであり面白かった。

一方で非常に地味であり、ジョン・カーターの格好がアレというのもあり、絶妙にダサく感じてしまう。筋骨隆々といっても、クリス・エヴァンスやクリス・ヘムズワースやドウェイン・ジョンソンのようにムキムキかと言われるとそこまででもない。

そして原作『火星のプリンセス』は大ヒットしたが故に様々なSFコンテンツの基礎になった作品でもある。であるが故に、本作は初めて見るにも関わらず「なんとなく既視感がある」作品になってしまっているのだ。

(実際『クローンの攻撃』っぽいなと思ったシーンもあった。)

 

ましてや『アバター』が2009年に大ヒットした後の作品である。並みの映像技術と世界観では視聴者は驚かない。

本作は火星が舞台であるにも関わらず、後半になるまでほぼ砂漠での戦いがメインとなる。変な宇宙人も出てくるが、種族としてはほぼ1種。基本は人間対人間の戦いがメインだ。ストーリーや見せ方はそれなりに面白くても、ビジュアルに独創性が感じられず印象に残らない。

原作があるからか、その原作に思い入れが強すぎるからか、(結構現代風のアレンジは施されているっぽいし)その理由は定かではないが、『ファインディング・ニモ』シリーズや『WALL.E』に感じられた独創性というか、スタントンらしさは本作では感じられなかった。

 

本作は米国(と日本)を除く諸海外、特にロシアなどではそれなりにヒットし、悲惨な結果は免れたようだが、当初の予想を大幅に下回る結果に終わっている。なにより米国本国での失敗が非常に痛手となっている。

当然のごとく三部作構想は闇に葬られた。

 

 アンドリュー・スタントンはスター・ウォーズを撮れ

本記事はTED TALKSで公開されているこちらの動画に強い影響を受けてる。

 

 

 アンドリュー・スタントンはコンスタントにピクサー作品のプロデューサーとして働いてはいるが、創作者としての主戦場は『ストレーンジャー・シングス』などに代表される、実写ドラマに移りつつある。

もし『ジョン・カーター』が大ヒットしていたら実写映画ももっとたくさん撮っていたことだろう。

 

『ジョン・カーター』に言いたいことは多少ありつつも、彼の作品の持つ力はとてつもなく強いと思う。少なくとも『ファインディング・ニモ』『WALL.E』『ファインディング・ドリー』の3作にハズレはないし、『ジョン・カーター』も面白くないわけではない。

 

なので、いちファンとしてはもっとたくさん映画を作って欲しい。

あえてリクエストを出すなら、『スター・ウォーズ』を一本撮って欲しい。

 

続三部作が終了し、ジョン・ファヴローが様々な監督を呼び寄せて『マンダロリアン』を製作、シーズン2が終了した現在、それが大好評だ。

また、先日様々なスピンオフ作品やドラマシリーズが発表されている。

そのどれでもいいから、とりあえず一本アンドリュー・スタントンに任せてみて欲しい。

なんかとてつもなく面白いものができそうな気がする。

 

そんでもって時期を見て、是非ピクサーで新作を作って欲しい。

 

ピクサーの監督を語るシリーズ

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