アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー以後の世界に来てしまった。
監督のジョー&アンソニー・ルッソ兄弟から、ネタバレ禁止令が大々的に告知されていて、感想を書くのも極力避けたいような気がしていたのだけど、どうも抑えきれない。
前回書いた記事で「MCUどこから見たらいい?という質問には『いきなりインフィニティ・ウォーでもいいんじゃない?』」という回答を、まだ見てもないくせにしたわけですが、これはさすがにMCU一本も見ていないのならかなりハードルが高いというか、今までMCUを見て来た人と、初めて見る人で物事の受け取り方が大きく変わってしまうな、と思ったので訂正します(記事はそのままにしとく)
www.sun-ahhyo.info
というわけでネタバレありのレビュー記事です。
ちなみに僕はこの「インフィニティ・ウォー」字幕なしで見ているので、英語力の乏しさから解釈が異なることがあるかもしれませんのでご了承ください。
この先映画『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』のネタバレを含みます。
目次
- 目次
- 「アベンジャーズ」というタイトルが生む大きな誤解。
- これは「サノスが主人公の映画」だ。
- 命の選択という命題。
- 時間を忘れる緻密な構成と共闘、アガる展開、キャラクター性を損なわないユーモア
- 「一見さんお断り」という課題。
- まとめ
「アベンジャーズ」というタイトルが生む大きな誤解。
タイトルこそ「アベンジャーズ」であり、従来のアベンジャーズの面々ももちろん登場するが、リーダー格のトニー・スターク(一応リーダーはスティーブ・ロジャースだけど)は「シビル・ウォー」で起きた事件をまだ引きずっており、彼らがこれまで「アベンジャーズ映画」のように完全にアッセンブルすることはない。
それにより「時を同じくして別々の場所でいろんなヒーローがそれぞれ戦いを繰り広げる」という演出が実現するものの、「アベンジャーズ」のニューヨークでのメンバーをぐるっと一周してみせる画だったり、「エイジ・オブ・ウルトロン」のオープニングの一斉攻撃のシーンだったり、教会でウルトロンを迎え撃つシーンだったり、「シビル・ウォー」の空港戦で2チームに分裂したアベンジャーズがぶつかり合うシーンのような、「一つの画面にアベンジャーズが全員揃う」という今までの散々やって来たアガるシーンがこの映画では実現しない。
そしてこれは確実に意図的な演出だと思っている。
「アベンジャーズ」「エイジ・オブ・ウルトロン」「シビル・ウォー」という3作品において毎度トニー・スタークとスティーブ・ロジャースは意見の食い違いを見せてきた。
アベンジャーズにおける勝利のメソッドは「エイジ・オブ・ウルトロン」で提示された「結束」にある。
トニー「強大な敵にどうやって立ち向かう?」
スティーブ「結束して」
(ウルトロンを前に)
トニー「ジジイ(スティーブ)が言ってたな・・・結束するぞ」
このように、スティーブとトニーの「結束」という共通認識が生まれた時に初めて勝利への道が開かれ、他のメンバーも追随する。
『インフィニティ・ウォー』でそれが描かれなかったのは、話のボリュームを考えるとそれがまだ時期尚早であり、逆にここで結束を示してしまうと、サノスを完全に倒さなければならない展開になってしまう、「敗北」描くことができなくなるからだと思う。
これは「サノスが主人公の映画」だ。
『インフィニティ・ウォー』で度肝を抜いたのがこの映画が最初から最後まで「宿敵サノスが主人公の映画」だったことだ。
映画の公開前からインタビューなどで「サノスはやばい、強大で絶対に誰も敵わない」と、監督たち自ら散々煽っていた。
そして公開されたトレーラーには幼い頃のガモーラであろう緑の少女と手を繋ぐ紫色の手が映っており、すごく嫌な予感がした。もしかしてこの映画、史上最強最悪な敵に、まさか感情移入の余地を与えるのか?
そしてその嫌な予感は見事に的中した。サノスはその壮大で残酷な目的こそ理解しがたいが、中身は非常に人間味があり、言葉にはユーモアもあり、愛という感情もあり、涙を流すこともできる悪役だった。
その目的すら歪んでいるとはいえ、自らの欲望のためではなく、表向きは「それが世界を救うために必要だ」という信念から来ている。世界を守る(事になると信じている)ためにウルトロンを生み出してしまったり、ソコヴィア協定に賛同するトニー・スタークと大きな違いはない。*1
サノスはソウルストーンを手に入れるためにガモーラを殺害するシーンで「以前にも(目的のために愛する人を犠牲にするという)運命に向き合った」というセリフがあったり、マインドストーンもろともヴィジョンを破壊したワンダに対し「気持ちはわかる」と同情したり、この映画は彼は過去に確実に何か悲劇ががあった、という含みを残している。劇中で語られる「食料やエネルギー問題を解決するために宇宙の人口を半分にする」という目的も、きっとそれだけが理由ではない、何かがあるはずだと観客に思わせる作りになってる。
そして、あのあっけない「アベンジャーズの敗北」のシーンのあと、サノスは平和的な段々畑のボロ小屋に佇み、満足げな、でも悲しいような優しい笑顔を浮かべる。
そこで流れる音楽の優しさと美しさと言ったらない。
世界を恐怖に陥れた残忍な悪役が笑うシーンとは到底思えない、悲願を達成し、安堵の表情を浮かべる主人公のための音楽が流れるのだ。
そしてきわめつけは最後の最後、THANOS WILL RETURN.である。
これは今までのMCUにおいて、様々なヒーローが「まだ彼らの戦いは続くよ(次も見てね)」というフリに使われていたフレーズだ。
そこをAVENGERS WILL RETURN.ではなくあえてTHANOSにしたというのは、やはり監督たちが「この映画はサノスのための映画」と定義しているからに他ならないだろう。
2015年時点で発表されていたアベンジャーズ/インフィニティ・ウォーとアベンジャーズ4の仮タイトルは「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー・パート1」と「パート2」だった。
それが「それぞれ作品としての独立性が高い」という理由で変更になったのだ。
それでも「インフィニティ・ウォー」はアベンジャーズの敗北を引きずりながら幕を閉じてしまう。
つまり「インフィニティ・ウォー」は「サノスの映画」で「アベンジャーズ4」はこの悲劇を乗り越えるための完全なる「アベンジャーズの映画」と考えて期待してもいいと思う。
あと、いろんなところでみんな予想してるけど「アベンジャーズ4」のタイトルは「アベンジャーズ:アッセンブル」だと思う。こうなると前述の「今回は結束しなかった」「から敗北した」という条件が効いてくる。(外れたらごめんなさい)
命の選択という命題。
fusetterなどでいろんな人が指摘しているが、この映画ではサノスだけではなくアベンジャーズの面々も命の選択をする。
「サノスという驚異に抗うために他人の命を犠牲にする」という行為である。そして、それらの選択の後に必ずサノス側に有利な展開が起きる。
スター・ロードことピーター・クイルはガモーラ本人の懇願(「私がサノスに捕まったら私を殺して」「(ピーターの亡くなった)お母さんに誓って約束して」というもの)により、躊躇いながらもガモーラに向けて引き金を引く。サノスはそれをリアリティ・ストーンの力により無効化し、"I like you."(気に入った)と一言だけ残し、ソウルストーンを手に入れるための鍵であるガモーラを連れ去ってしまう。
物語の終盤ではサノスにマインド・ストーンを奪われるのを阻止するため、ワンダが涙ながらにヴィジョンもろともマインド・ストーンを破壊する。サノスは手に入れたばかりのタイム・ストーンを用いてヴィジョンを破壊される以前に蘇生させ、マインド・ストーンを奪う。
「キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー」という映画はあらゆる個人情報から犯罪者予備軍を選定して事前に殺害する(実際はヒドラに敵対するであろう人物を事前に殺害する)という「インサイト計画」に対しスティーブ・ロジャースが「S.H.I.E.L.D.もろとも破壊して計画を阻止する」話だった。
「シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ」は戦闘の上で犠牲になる多くの命は放っておいてもいいのか、という疑問から始まる物語だった。
これら2作品の監督も務めたジョー&アンソニー・ルッソ兄弟はこれまで描いて来た「命を選択すること」「失われる犠牲と向き合うこと」という命題を踏まえながら「かと言って平和のために失われる命を選ぶことはヒーローの敗北である」ということを提示したように思う。「それはアベンジャーズのすることではない」という風に。
だからこそ、スター・ロードやワンダの行動は失敗に終わる。
一方で他者のために自らを犠牲に選んだロキによりソーは生かされ、ガモーラによりネビュラは生かされ、タイム・ストーンを差し出したストレンジによりトニーは生かされ、自らが戦う代わりにヴィジョンを逃がそうとしたキャップは転じてヴィジョンに救われる。
キャップの「犠牲になるべき命などない」というセリフこそが「平和のために宇宙の半数の命を犠牲にする」というサノスの目的に対するカウンターでもある。
時間を忘れる緻密な構成と共闘、アガる展開、キャラクター性を損なわないユーモア
本作の時間は2時間半。登場するヒーローたちはポスターに描かれている23人+サノス+ロキ。非戦闘員のシュリはともかく(彼女は彼女で重要な役割があるし)、スーパーパワーを持ち合わせていないようなキャラクターも含め全てのキャラクターに見せ場がある。それなのにキャラクターの性格の描き分けがきちんとできていて、また過去の作品との整合性も完璧、2時間半の長丁場でもダレず、最後までのめり込んで見ることができる。
本作にアベンジャーズ全員の揃うシーンはなかった。が、それぞれ今まで交わることのなかったヒーローたちが今回は共闘する。
スター・ロードとストレンジの合わせ技などは顕著だし、その戦闘でいちばんの鍵を握っていたのが非戦闘員のマンティスだったり、絶体絶命のピンチにこれ以上ないグッドタイミングで現れるソー、ロケット、グルートの面々のシーンは「インフィニティ・ウォー」で最もアガるシーンのひとつである。
見境なく銃を乱射するロケットを掴んで周囲の敵を倒すバッキーなんか、いちばん意外だった組み合わせだし、戦闘ではないけどグルートの「I am Groot.」に対するキャップの「I'm Steve Rogers.」 は可愛らしい笑えるギャグである上に今まで交わることのなかった世界が明確に交わった瞬間だった。
そしてお約束の「ヒーロー同士のガチバトル喧嘩」も、短いながらガーディアンズVSアイアンマン&ストレンジ&スパイディで実現する。Jesusのくだりからフットルースの話など、スター・ロードと地球組の会話ネタはファンがずっと待ってた展開だ。
ジョークに次ぐジョークの連発であるガーディアンズのジェームズ・ガン色や、「ラグナロク」でユーモア寄りに降ったソーとバナー博士のタイカ・ワイティティ色を損なうことなくこのシリアスな話に持ち込み、もっというとドクター・ストレンジやスパイダーマンはそれぞれの単独作よりも上手にキャラクターを描いて見せたと思う。(ブラックパンサーは「シビル・ウォー」もしくは単独作の方がカッコよかった)
シリアスかつ、「敗北」という絶望で終わる本作を、終盤まで「好き」「これが見たかった」「これは予想できなかった」という、ひたすらファンにとって嬉しい、そして度肝を抜く展開でつなげていく。一体どんな頭をしていればこんな映画が作れるんだという驚きが勝る最高傑作だった。
「一見さんお断り」という課題。
一方でこの映画は一歩間違うと「知らない人を完全に置いてけぼりにする映画」でもある。もう、18作も積み重ねた映画の総まとめに入っているので仕方ないといえば仕方ないのだけど、必要な説明を極力省いているし、サノスの過去に関しても次作へ持ち越しになってしまった。今回の「敗北」もドクター・ストレンジが見た無数の未来のうちの唯一勝つための最善ルートだったことは間違いない。ジョー&アンソニー・ルッソ監督の手法がこういう、「語り」ではなくて「行動」に全てを意味付ける作り方なのは「ウィンター・ソルジャー」や「シビル・ウォー」で示された通りだけど、これだけの情報量のある映画で、これだけのキャラクターがいて、これだけ説明を省いてしまえばもはや完全なる「一見さんお断り映画」である。
これだけヒットして話題作になってしまえば、きっと1作も見ていない人もみる。その人たちがどういう感想を抱くか、遡って見てくれるか、ヒーローが敗北する展開を納得してくれるのか、というのは実に悩ましいところだと思う。
最近のヒット作でいうと「グレイテスト・ショーマン」とか「ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル」のような「別に何も考えなくても面白い」作品が流行っている中、これだけ「考える必要があって」「予習まで必要」な映画が今後どんな評価を得るのか、特に日本のような、まだマーベルに馴染みが薄く、映画の興収も比較的よろしくない国ではどうなるのか不安でもある。
まとめ
まぁ、それはそれとして、僕は『インフィニティ・ウォー』を観てしまった後でもMCUで最も好きな映画は『ガーディアンズ・オブ・ザ・ギャラクシー Vol.2』『シビル・ウォー』とかになってくるのだけど、やっぱり総合的客観的に評価するとこの『インフィニティ・ウォー』は現時点でのMCUの最高傑作だなと思います。
1年後の『アベンジャーズ4』そして、6月公開(日本は8月公開)のMCU次作『アントマン&ワスプ』『キャプテン・マーベル』が非常に楽しみです。
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*1:「表向きは」と書いたのはコミックスでは世界の半分の命を消し去る理由が「サノスが恋している死神デスの気をひくため」らしいことから。アベンジャーズ4でこの部分が解明する?