大人になってからこそ見て欲しい『ピーター・パン』その2〜名作を生み出した黄金期〜

祝!「ピーター・パン」公開65周年!!

 

ディズニースタジオが「ピーター・パン」を公開したのは1953年。

1950年から製作が始まり、かねてから映画化案のあった「ふしぎの国のアリス」とほぼほぼ同時進行し、公開されたのは「アリス」の後となった。

 

「ピーター・パン」という作品のすばらしさやその特殊性は、その頃の時代の流れや同時期に作られた「ふしぎの国のアリス」を鑑みると必然的とも言える。

 

僕はディズニーが好きなので、どの作品も特別な輝きをもって見えるけれど、やっぱり「ピーター・パン」はそれ以前や以後のどの作品とも違う。

 

それくらい「特別」なピーター・パンが生み出された背景を考えてみたい。

 

前回の記事はこちら。

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目次

 

「ふしぎの国のアリス」と「ピーター・パン」

「ふしぎの国のアリス」と「ピーター・パン」は共通点もあるが、かなり両極端な作品である。

ルイス・キャロル作のイギリスの児童文学である「ふしぎの国のアリス」と、ジェームズ・バリー作の舞台劇である「ピーター・パン」どちらもイギリスの物語で、理屈の通らないへんてこな人々が棲む世界である「ワンダーランド」と、子どもはずっと子供のままという「ネバーランド」どちらも少女が異世界を冒険する物語である。

 

ディズニーではこの2作は並行して作られ、製作に携わったスタッフもキャストもかなり似通っている。

 

アリスを演じたキャサリン・ボーモントはそのままウェンディ役を演じ、白うさぎやドードー役のビル・トンプソンはミスター・スミーを演じる。(しかし当時ディズニー作品では一人の声優がいろんなディズニー映画に出演するのは普通のことだった)

 

どちらの作品も監督はクライド・ジョロニミ、ハミルトン・ラスク、ウィルフレッド・ジャクソンが3人とも担当しているし、脚本もほぼ同じメンツ、どちらの作品もメアリー・ブレアとナイン・オールドメンが全員参加した作品である。

 

「シンデレラ」もそうだが、この3作は兄弟作品のような立ち位置にあると思う。

ハズレることも多かったウォルト時代

ウォルトの時代は常に黄金期のようなイメージがあるが、初期に大ヒットした長編は「白雪姫」「ダンボ」くらいなのである。

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今でこそ名作とされている「ピノキオ」や「ファンタジア」「バンビ」などの作品は第二次世界大戦の影響もあって、当時全くヒットしなかった。「バンビ」以降「シンデレラ」までの6作(「ラテンアメリカの旅」「三人の騎士」「メイク・マイン・ミュージック」「ファン・アンド・ファンシー・フリー」「メロディ・タイム」「イカボードとトード氏」)の知名度はいわずもがなだろう。

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「シンデレラ」は爆発的な大ヒットとなりディズニースタジオに黄金期をもたらす。

だが「シンデレラ」とほぼ同一のスタッフにより作られた「ふしぎの国のアリス」はそうはいかなかった。

 

 

シュールレアリスムの「アリス」リアリティを追求する「ピーター・パン」

「ピーター・パン」とほぼ同一スタッフ、ほぼ同時進行で製作され、「ピーター・パン」よりも先に公開された「ふしぎの国のアリス」は公開当時の評価は芳しくなかった。

 

観客も批評家も「白雪姫」や「シンデレラ」のようなプリンセスものを求めていたが、「ふしぎの国のアリス」はそれらとは大きく違っていた。プリンセスものではないのはもちろん、異様なまでに詩的で文学的であり、登場人物の行動に一貫性がない。シュールレアリスム。

 

もちろんそれらは「ふしぎの国のアリス」を名作たらしめる”良さ”であり個性だが、当時のディズニースタジオには余裕がない上に、ウォルトは中途半端な興行収入に納得するような人間ではない。

彼は「誰に何を言われようともやりたいことをやる」タイプの人間だが、「それに客観的な高評価がつかないことも嫌う」タイプの人間だ。

ディズニースタジオは「ふしぎの国のアリス」を”興行的失敗”とみなして”反省”し、「ピーター・パン」の製作に取り入れていった。*1

 

その結果、「ピーター・パン」はよりキャラクターの考えや行動原理が明確になり

「アリス」で培われたキャラクターのユニークさや愛くるしさはそのままに、「アリス」よりも圧倒的にキャラクターに感情移入しやすくなっている。

 

キャラクター中心で回る映画としては「アリス」のほうが優れているかもしれない。それくらい「アリス」のキャラクターは魅力的だ。

しかし「ピーター・パン」には誰もが納得し得るストーリー展開と、それにリアリティを与えるキャラクター像が明確にあった。それらが結実し、ラストシーンのカタルシスへとつながる。

「ピーター・パン」は名作になるべくしてなった、大傑作なのである。

 

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ゴールデンメンバー

前述した通り、「シンデレラ」「ふしぎの国のアリス」「ピーター・パン」の3作は今でも名の知れた実力派揃いのスタッフたちが集まって製作された。

 

ウォルトとの最初期からの仕事仲間であるアブ・アイワークスの参加はもちろん、色彩設計にはメアリー・ブレア、美術にジョン・ヘンチやケン・アンダーソン。のちに「わんわん物語」「メリー・ポピンズ」の脚本を製作するドン・ダグラディや、「眠れる森の美女」の背景で有名なアイヴァンド・アールなども参加している。

作画監督としてナインオールドメンと呼ばれた伝説的アニメーターであるウォルフガング・ライザーマン、ミルト・カール、フランク・トーマス、オリー・ジョンストン、マーク・デイヴィス、エリック・ラーソン、ジョン・ラウンズベリー、ウォード・キンボール、レス・クラークの全員が揃って参加した最後の作品となり、ナナの作画を担当したノーム・ファーガソンの退社前最後の作品でもあり、30年代から活躍したアニメーターでミスター・スミーを担当したフレッド・ムーアの遺作でもある。

 

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 薄れていくウォルトの存在感

この「ピーター・パン」を境に、スタジオの雰囲気はガラリと変わることとなる。

特にウォルト・ディズニー自身が、次第にアニメーションよりもテーマパークの構想に夢中になり忙しく、アニメ製作にあまり関わらなくなったことも大きいと言われている。

何人かのスタッフがスタジオを去り、また何人かはテーマパーク建設のための番組「ディズニーランド」の製作に移った。イマジニアとしてアトラクションのコンセプトアートの製作に移った人もいる。

 

「ピーターパン」以降もディズニー作品は名作に恵まれるが、やはり興行的には芳しくなく、6年の歳月を費やした「眠れる森の美女」などは赤字で終わっている。この時ウォルトの「介入の薄さ」は世間から大きく非難された。

(僕自身も含め、ファンからは愛されているが)「王様の剣」などのクオリティの低さなどは目に明らかだろうし、このブログのタイトルの由来にもなっているウォルトの遺作「ジャングル・ブック」も脚本の甘さは否めない。傍、「メリー・ポピンズ」や当時まだ短編だった「くまのプーさん」などの作品が生まれているのも確かなのだが。

ウォルト時代は名作揃いだが、そのピークは間違いなく「シンデレラ」「ふしぎの国のアリス」「ピーター・パン」の3作だろう、そして個人的にその頂点が「ピーター・パン」であると思っている。

「ピーター・パン」以降、厳密にどこまでウォルトのディレクションがあったのかは定かではない。「わんわん物語」のスパゲッティのシーンなど、ウォルトが当初否定的であったシーンが取り入れられることになったことも、ウォルトの存在感の薄さのおかげとも言えるかもしれない、僕にはわからない。

が、おそらくウォルトの100%の熱量で製作され、そのうえ最高のアーティストたちが同時に揃った長編アニメは「ピーター・パン」が最後になるのだ。

 

 

オーディオコメンタリーのススメ

作り手を知ること

「ピーター・パン」のDVD版にオーディオコメンタリーが収録されており、それにはロイ・ディズニーやキャラクターを演じた俳優たち、アニメーターたちの当時の思いなどが多く語られている。

今回の記事はそこから大きく影響を受けたものが多い。

なんども言っているが、「ピーター・パン」は初期ディズニー作品の中でも最も著名なアーティストたちが揃った大傑作である。

「ピーター・パン」に参加した人々を少し紐解いていくだけで、ナインオールドメンやアブ・アイワークスやメアリーブレアを知るだけで、当時のディズニースタジオの雰囲気を感じ取ることができるし、映画がウォルト一人で作られた物でないことはもちろん、それぞれの人物の特徴が、どう映画に影響を与えていったかなども知ることができる。

僕自身まだまだ知らないことも多いのが現状だけど、ただ映画を見てテーマパークに行くだけではない楽しみ方の一つとして、「製作者を知ること」もお勧めしたい。

 

ディズニーは奥が深い。一生楽しめるコンテンツですよ。

 

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*1:「ピーター・パン」DVDのオーディオコメンタリーより