長らく日本ではVHSを最後にソフト化が実現しなかった作品『ピートとドラゴン』
かねてよりディズニーチャンネルにて吹き替え版の放送があったり、配信サイトにて有料レンタルが可能だったりしたようだが、
ディズニーデラックス(現ディズニープラス)の到来により、この度やっとのことで僕も鑑賞することができた。
なかなかソフト化されず日本では幻の作品のような扱いであり、
また、楽曲はさまざまな音源に収録されたり
東京ディズニーランドでは夜のパレード、エレクトリカルパレード・ドリームライツに長年登場するこの『ピートとドラゴン』
一体どんな作品なんだろうとわくわくしながら見た。
見た、のだが。
目次
『ピートとドラゴン』
ピートとドラゴンは孤児の少年ピートと、彼だけが知っているドラゴンの親友エリオットの友情物語である。
粗野な里親一家ゴーギャン家にこき使われていたピートは家出し、エリオットとともに灯台のある小さな港町パスマクワーディへやってくる。
透明になることのできるエリオットは透明な状態でいたずらをし、彼の仕業だと疑われたピートは町の厄介者の扱いを受けてしまう。
ピートは心やさしき未亡人ノラ親子と出会い、その父であり町で偶然エリオットを目にした老人ランピーと灯台に一緒に住むこととなる。
そんな折、インチキ薬を売っているドクター・ターミナスが町に現れ、ドラゴンの噂を聞きつける。ドラゴンの体の一部が様々な薬に使えると考えたドクターはエリオットを捕まえようと企む。
孤独な少年ピートの、唯一の友達だったエリオットをめぐるドタバタ劇と、ピートが本当の家族を見つけるまでの物語である。
エリオットは何者か
エリオットは何者か。
彼がピートにしか見えないイマジナリーフレンドであれば解釈は容易なのだが、エリオットは劇中で実在するキャラクターだ。
彼は他のキャラクターたちが彼を目撃することだってできるし、彼の起こした行動は現実に反映される。他のキャラクターたちも彼を「ドラゴン」として認識している。
エリオットはピートにとって孤独を紛らわせてくれる存在である。
本当の家族のいないピートを支え、時にはいたずらをし困らせながらも、彼のピンチの時には活躍し、さらにノラの家族に対しても救いの手を差し伸べる。
ピートとエリオットの友情はペットと飼い主のような関係性でもありながら、ピートがノラたちと本当の家族になれた瞬間に姿を消す様は、まるでメリー・ポピンズのような保護者的存在にも感じる。
いたずら好きな、ピートの良き友人であり、彼を見守る保護者であり、そして彼の心の成長を促す存在でもある。
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実写とアニメーションの合成
本作で非常に特徴的なのが実写とアニメーションの合成である。
これまでもディズニーは『南部の唄』『三人の騎士』『メリー・ポピンズ』『ベッドかざりとほうき』などの作品で実写の登場人物をアニメーションの世界に誘っていた。
一方本作はその逆であり、実写世界にアニメーションキャラクターであるドラゴンのエリオットを登場させているのである。
これまでの作品が、実写パートとアニメパートが明確に分かれているような作りだったのに対し、本作は全編実写で撮影されたシーンに主要キャラクターとしてエリオットを描き足しているという性質上、シームレスにエリオットが登場している。
ウォルトの死後1977年に製作された本作は、現在のCGに通ずる高度な技術を取り入れている。
・・・のだが、正直『南部の唄』のエンディング部分にも、実写の背景にアニメーションのキャラクターが登場するシーンは存在するし、
『ファンタジア』では指揮者のストコフスキーとミッキーマウスが握手をするし、『ファン・アンド・ファンシーフリー』ではジミニー・クリケットが実写の部屋の中を駆け回ったり、巨人が実写の部屋の屋根をひっぺがして挨拶したりしている。また、テレビ番組の『ディズニーランド』ではウォルトとティンカーベルがやりとりしていた。
アニメーションのエリオットが火を吹くことで現実世界のリンゴが焼きリンゴになったり、エリオットが飛び出したことによって学校の壁にドラゴンの形の穴ができるなど、演出として愉快なシーンは多々あるし、本作によりのちの『ロジャー・ラビット』やワーナーの『スペースジャム』に影響を与えた部分もあるだろう。
ただ、本作をもって目新しさを感じるかといえば嘘になる。
そして1977年に公開された他の映画というと『スター・ウォーズ』に『未知との遭遇』というSF映画である。第50回アカデミー賞の視覚効果賞はこの2作がノミネートされ、『ピートとドラゴン』はノミネートされていない。
特殊効果を使って未知の世界を作り上げたSFの大作が世間を賑わせている中で、30年前からあるような技術を(改良を重ねてはいるが)使用して製作された、それほど驚くような仕掛けもない『ピートとドラゴン』ストーリーは別として、技術としては観客にそれほどまでのインパクトは与えられなかったのかもしれない。
本作の興行収入はメリー・ポピンズ級の大ヒットを期待したディズニーの予想を大幅に下回ってしまったのである。
幻の作品バイアス
僕自身もそうだが、長らくソフト化もされず、見ることができなかったこともあって自分の中に『幻の作品バイアス』が出来上がってしまっていた。
ディズニーパークでパレードフロートにもなるほどの作品。
劇中歌『それはむずかしい(It's not easy)』は耳なじみよく作品を知らないのにそらで歌えてしまうほど聞き込んだほどの名曲だ。
それこそ僕も、「メリー・ポピンズ級の名作」を期待してしまっていた。
作品は、期待した通りの小気味良い楽曲たちが流れ、エリオットのアニメーションも愉快だ。
だが、それこそこれまで見てきたディズニー作品から感じられたような期待以上の驚きや感動を得ることはできなかった。
物語は実にシンプルであり、(この時期のディズニー映画ではよく感じるのだが)場面のつなぎ方が唐突に感じられる部分もある。その割には「ここはもう少し短くてもいいのに」とくどく感じる部分はやたら丁寧に描いていたり、なんだか不思議な感じだ。
まだ評価は早いのかもしれない
それでも僕はまだ、この作品を「つまらない」と評価するには至らない。
いや、そもそもつまらなくはないのだが。
なんとディズニープラスで配信されている『ピートとドラゴン』はオリジナル版から編集された短縮版だというのである。
完全なるオリジナル版はプレミア上映でのみ公開された135分のバージョンだが、劇場公開版は129分。劇場公開版は121分。劇場公開されたのとは別の128分のバージョンがVHSに収録されていたようだ。配信されているのはそこからさらに21シーンがカットされた1984年再編集の105分のバージョンだ。
アカデミー賞歌曲部門にノミネートされた『水辺のろうそく(Candle on the water)』のシーンもカットされている。(楽曲が完全に消えたわけではなくインスト版がオープニングクレジットの曲として使われている/また短縮版ではインストではなく歌曲版に差し替えられているとのこと)
日本で販売されたVHSはバンダイ版とポニー版、どちらも128分のバージョンが収録されている模様。
また海外版blu-rayに関してはフォロワーのNine-Eyeさん (@BB_RoyalSt_TDL) がコメントしてくれた。
私が以前買った35周年BDには、酒場でのノラのカンカン踊りも序盤の森の中でのゴードン家族の歌のシーンもあったので、やっぱり配信版ってことなのかな?
— Nine-Eye (@BB_RoyalSt_TDL) July 25, 2020
でもAmazonの英語コメント見てるとどうもメディア販売版でも短縮版があるみたい。 https://t.co/iZyiqOWTWB
パッケージがほぼ同じなのですが、Nine-Eyeさんの言及している上部に「35th Anniversary Edition」と書かれたバージョンは裏面のパッケージで『Candle on the water』にも触れられているので、おそらくカットされていないバージョンじゃないかな・・・と。
ディズニーデータベース(@disneydb23)さんが詳しい情報をくださいました。
現在視聴可能な『ピートとドラゴン』には2種類の本編があり、1980年のVHS化の際に収録された105分版(1984年のイギリス公開時にも使用)と、1985年のVHS再販時に収録された128分版があります。
— ディズニー データベース (@disneydb23) July 25, 2020
英国版Blu-ray購入or日本版Disney+では前者、北米版Blu-ray購入or北米版Disney+では後者が視聴できます。 https://t.co/pfnnTGcYHh
こんにちは!
— ディズニー データベース (@disneydb23) July 26, 2020
Blu-rayの補足を少し。35周年の記載があれば128分の北米盤、無印なら105分の英国盤です。105分版は国際向けなのか、ドイツ盤やイタリア盤にも収録されているのでそちらを狙うと確実です。
ちなみに北米盤の初期販売分はパッケージに88分と誤記されていますが、実際の中身は128分です。 pic.twitter.com/f3OBOFbp6q
なるほど、日本で配信されている『ピートとドラゴン』は
1980年のVHS版(1984年英国公開)の短縮版(105分)である・・・と。
あとこれはIMDbによると、ヨーロッパ劇場公開版と同じっぽいのかな?
blu-rayも同じ英語でも英国で販売されたものはこちらの短縮版がベースになっているので、米国で販売されたものとは異なる、と。
みなさんからいただいた情報と、IMDbとかの情報を合わせると
プレミア公開版 | 135分 | 1977年 | ・ハリウッドでのプレミアでのみ公開 |
劇場公開版 | 121分 | 1977年 | ・ニューヨークプレミア以降で公開 |
VHS収録版(現行版) | 128分 | ???年 |
・VHS再販売時にこのバージョンが収録 |
ヨーローッパ公開版(短縮版) | 105分 | 1980年? |
・1980年VHS販売に収録 |
こんな感じでしょうか。
まとまった情報ではなく複数の情報をすり合わせたり、僕の英語力が曖昧だったり、まだまだ怪しい部分があるので、完全には信じないで欲しいですが。
とりあえず現行でオリジナル版にあたる128分版を観るためには
「米国版Disney+に加入」もしくは「米国版blu-ray/DVDの購入」ってところでしょうか。英語だと思ってblu-ray買ったら英国版で短縮版だった!っていうトラップ付きですが。
↓米国版か英国版かはわからないので自己責任でご購入ください
ディズニープラス(ディズニーデラックス)が日本に登場して早一年ですが、
また海外版blu-rayを手に入れなきゃいけない理由が増えてしまいましたね。
サブスクからジッパディードゥーダーが消えたり、オラフの声がピエール瀧じゃなくなったり、そもそも場面ごと削除されてる作品があったりすると、後発の方が映像や音が良かったとしても、やっぱなるべく早い段階でソフトを買うことは大事だなと思ってしまう
— すん (@s_ahhyo) July 14, 2020
まとめ
いろいろ言いましたが、『ピートとドラゴン』いい映画ですよ。
ただ、やはり期待値は高すぎないほうがいいと思う。
この時代の映画の悪い癖というか、『おしゃれキャット』にしろ『ロビンフッド』にしろ『ビアンカの大冒険』にしろ、シーンの前後がうまく繋がらない違和感がある時がある。
それらに比べると、『ピートとドラゴン』ははるかにマシなんだけど、アニメ作品に抱くような狂おしい愛おしさも、何故かそこまで感じないのも事実。エリオットは可愛く、アニメーションも素晴らしいのだけど。
まとまっている分、予定調和的というか、パンチがないというか。
また現在日本で観れるバージョンが短縮版ということで、128分のバージョンを見ればまた印象が違うのかもしれない。
ただ、僕がくどいと感じた「Passamaquoddy」の歌曲シーンが本来はもっと長いという噂も聞くので、どうなんだろうなぁ・・・という感じもしますが。
それでも本作を見れば、きっとTDLのピートとエリオットが愛おしくなるはずです。
あと関係ないけど日本版ディズニープラスは日本語字幕を早くつけろ。