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『羅小黒戦記 ぼくが選ぶ未来』既視感を超えていくカタルシス。

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(画像提供/PR TIMES)

 

久々にディズニー以外の映画を紹介する。

話題の映画『羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ) ぼくが選ぶ未来』を観てきた。

 

『羅小黒戦記』とは中国の漫画家/アニメーション監督のMTJJが製作したWEB漫画、およびそれのアニメーション化作品であり、WEB配信されたアニメが中国では大ヒットしている。

今回はそのアニメ作品の映画化。在日中国人向けに日本でも小劇場で公開されたところ、口コミで大ヒットとなりこの秋アニプレックスにより日本語吹き替え版が製作され、大きな映画館でも観れるようになった。私が観たのはその吹き替え版のバージョンである。

 

luoxiaohei-movie.com

この映画の素晴らしさはいろんな人が語っているのであるが、

面白かったし、深堀すればするほどハマるんだろうなという

軽率な沼を発見した感覚だった。

 

 

目次

『羅小黒戦記』

黒猫の妖精シャオヘイは、開発により故郷の森を破壊され、都会で人間を恨みながら暮らしていた。

ある日、人間に襲われていたところを同じく妖精のフーシーに助けられ、フーシーの暮らす島でフーシーの仲間たちとともに暮らすことを約束される。

ところがその翌日、フーシー達を追う人間・ムゲンに襲われ、フーシーらはシャオヘイを連れて逃げることができなかった。

島に取り残されたシャオヘイとムゲンはいがみ合いながらも、妖精達の暮らす「館」を目指し、いかだで移動することとなる。

その道中でシャオヘイはムゲンから能力の使い方を学び、世界の広さと人間と妖精について知るようになり、徐々に打ち解けていくようになる。

一方のフーシーは、シャオヘイをムゲンから連れ戻すため、力をつけていくのであった。

 

スローに丁寧に描くカタルシス

僕個人としては、序盤は結構忍耐強さが必要な作りに感じた。

基本的に物語の全貌や世界観を言葉で説明するシーンが中盤以降に固められているため、話が見えてくるまでの半分くらいの時間がちょっと長く感じられてしまった。

バトルシーンもあるのでそれなりに刺激にはなるが、それ以上にシャオヘイとムゲンが言葉少なにじっくりと関係性を構築していくシーンが大半を占めており、飽きっぽい人が見ると前半でギブアップしてしまう可能性はあるかもしれない。

 

ただ僕自身も「まだかなまだかな」とそわそわしていながら観ていると、このじっくりと時間をかけた前半部分が後半にしっかりと活かされていて、クライマックスになればなるほど彼らの関係性に涙しやすくなるという描き方のうまさに感嘆させられた。

 

シャオヘイとムゲンが筏で海を漂うシーンは『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』のようでもあり(オマージュっぽいシーンもある)、ポスターにもなっている筏が陸地に着いてから、2人でバイクで旅するシーンは『ドラゴンボール』の序盤、ブルマと悟空が二人旅しているような、あのコミックスの扉絵のような懐かしさとバディ感が感じられて実に良かった。

 

敵としてであった2人が、互いに打ち解けていく様を見るにつれ、どんどん彼らが尊く好きになっていくのだ。

 

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ジブリがX-MENを描いたら

製作陣が「日本のアニメーションに影響された」と言っているらしく、確かに映画を見るとさまざまなアニメーションのコラージュのような、既視感のある要素が散りばめられている。

それらは決してバラバラの要素として不自然に重なり合っているわけではなく、うまく落とし込んだな、と感じられるので観ていても飲み込みやすい。むしろ親しみすら感じるのである。

 

観る前にTwitterで流れてきた評としては「ジブリがX-MENを描いたら」というようなものであった。

絵のタッチや世界観はなるほど、ジブリらしさを感じるが、ストーリーを加速させる戦闘シーンはX-MEN、日本で言えばジャンプ漫画の王道、いわゆる「ワンピース」のような異能力バトルなのだ。(ワンピースもかなりX-MENの影響を受けていると思うが)

 

文明により自然を破壊し続ける人間たちと、それにより居場所を奪われる「妖精」の「共存」をテーマにした本映画。

いかにもジブリっぽいテーマであるし、バトルものであることから『もののけ姫』のような映画を想像していたら、映画を観に行くと意外や意外『平成狸合戦ぽんぽこ』的な側面も強く押し出されていたのも、バトルバトルしすぎない「ほのぼの感」や「かわいさ」をうまく演出していてニヤニヤしながら楽しめた。

 

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 触れてきた経緯によって変わる「視点」

本作は、前述した通りの膨大な作品のコラージュのような、様々な既視感を感じられる作品である。テーマ性も手垢がついているといってもいいほどに繰り返し映画で描かれてきたものだ。

 

人間と妖精の共存。過激派と穏健派の戦い。

その勢力の中で揺れ動く主人公シャオヘイの感情、成長。

『羅小黒戦記』では、前述した非常にスローなシャオヘイとムゲンの二人旅を、繊細に緻密に描くことによって、シャオヘイが至る結論に説得力を与えている。

 

『羅小黒戦記』では、人々の思想はそれぞれが生きてきた、触れてきたものから構築されていくものだということが改めて感じられるのだ。

 

そして本作において「敵」とされるキャラクター達も、ある「視点」や「考え方」においてはまぎれもない正義であるのだ。

『羅小黒戦記』の「敵」の一団も、作りとしては感情移入しやすく、憎めない、救われるべき存在であると思わせてしまう。

映画を見た人の中にも「敵」に共鳴してしまった人たちだっているだろう。「思想」だけで言えば単純な善悪では割り切れないのだ。

 

本編で敵サイドを「悪」と断定づける理由はやはりその行動と、他者への理解という点に尽きる。

主人公サイドにも、「人間は嫌いだ」という妖精もいることは明確に描かれつつ、彼らは人間を全体としてではなく、個として理解し、共存を目指していく。

シャオヘイがムゲンとの旅で培ったのもこの「個とのふれあい」である。

 

だからこそ、映画の中では「視点」が切り替わる瞬間が訪れる。その瞬間にハッとさせられる。その描き方が実に素晴らしいと思う。

 

まとめ

いろいろ言ったけど、かわいいかわいいかっこいいで乗り切っても十分イケる作品なような気もする。

映画のどこを切り取っても尊さが詰まっている。

某日本映画みたいに「泣ける」なんて宣伝で言わなくてもしっかり泣けるし、そこにいやらしさは感じられない。

それこそ『劇場版 「鬼滅の刃」無限列車編』のような、丁寧な描写の積み重ねで涙腺を突いてくる。(記事にはしないが鬼滅も面白かった)

 

しかも元々Webアニメシリーズがある作品の「過去」を描いているので、めちゃくちゃキャラクターが出てくるのだが、映画では一瞬しか出てこないキャラクターでもそこはかとない背景と深みを感じる魅力がある。

 

私自身まだ観始めたばかりだが、WEBアニメシリーズはYouTubeでも日本語字幕付きで見ることができる。

なんとなくバトルっぽい世界観は見えてきつつも、序盤はまだまだゆるふわカワイイアニメーションだったりして、今後どう展開していくのか楽しみだ。

 

話は逸れたが『羅小黒戦記 ぼくが選ぶ未来』面白いので是非見て欲しい。

私は日本のアニメーションがめちゃくちゃ好きなわけでもないから、どちらが上とかはそんなに考えないし(ディズニーオタクだし)「中国のアニメなのに丁寧で〜」とかいうのは本当にこの作品を作った製作陣に失礼だと思うので言わない。

純粋にいちアニメ映画作品として面白いと思う。

キャラクターの深堀りを丁寧に行なっていくのであれば、ストーリーがいかにシンプルでありきたりでもとてつもない魅力になる。

「パクリ」と揶揄されようが痛くもかゆくもない程度には、「何を描くべきか」「何を伝えるべきか」の芯がしっかり通っている。

「前日譚」である本映画で描かれた彼らの物語は、WEBアニメシリーズでまだまだ楽しむことができる。

これが広大な沼でなくてなんなんだろう。

 

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